457話 温泉へ行こう



 デンシャという乗り物に揺られてやって来た先にあった、モンスターだらけが住んでいる村。名前をナカヨシ村という。

 私たちは、ここで一夜を過ごすことに決めた。


 それというのも、腰を落ち着けたかったのが一番。

 それよりも大きい理由が、魔女と名乗るこの人だ。グレイシア師匠とそっくりの顔をした、多分この村唯一の人間。


 師匠がエルフで魔女さんが人間である以上、顔立ちが似ていても血の繋がりはない。

 まあそれを言ったら、人間の私とエルフのラッヘも似たようなものだけど。


「で、聞きたいこととは、具体的になんだ?」


 魔女さんは、長い脚を組んで私を見る。

 聞きたいこと……はたくさんあるけど、具体的にと言われると困るなぁ。


「ふっ、まあ考えをまとめる時間も必要だろう。先に、身体の汚れでも落としてきたらどうだ」


「温泉ですか!?」


 魔女さんの言葉に、ルリーちゃんが立ち上がる。

 私たちの中で一番お風呂に対して興味が強いのは、ルリーちゃんみたいだな。


 まあ、魔女さんの言う通りかな。私自身、なにを聞きたいのかまとまってないのが事実だし。


「温泉って、どこにあるの?」


「パピリに案内させよう。……そんな顔をするな」


「任せて!」


 温泉の居場所は、パピリが案内してくれるというけれど……不安しかない。

 だって、村で一番偉い人のところに案内してと頼んだらソンチョウという名前の人のところに連れて行かれたんだもん。


 今自分がどんな顔をしているのかはわからないけど、まあいい顔ではないんだろう。


「ま、ちゃんと場所を伝えておけばこのバカうさぎでも案内に問題はない」


「任せて! ぼくバカじゃないよ!」


 んむぅ……不安はあるけど、そう言うなら大丈夫かな。

 となると、温泉に行くにもラッヘやリーメイが戻って来るまで待っておかないと。


 あ、でもその前に着替えが……


「せっかくだ、サービスしてやろう」


 魔女さんはパチン、と指を鳴らすと、なにもない場所から衣類が複数現れる。

 これは……着替え、だろうか。この椅子のように、消えない……実体のあるものだ。


 しかも、私が考えていたことを読み当てたかのようだ。


「わっ、いいんですか? ありがとうございます!」


「気にするな、私が勧めたことだからな」


 気が利く顔の良い人……これはモテそうだ。

 ただ、容姿どころか声も中性なものなので男か女か判断しにくいけど。


 それからしばらく待っていると、ラッヘとリーメイが戻ってきた。


「すごい広かったよ! この家!」


「そっか、それはよかったね」


 二人が戻ってきたところで、私たちは温泉に向かうことに。

 魔女さんは一緒には来ないようだ。家のお風呂にでも入るのかな。


 パピリに案内を任せ、私たちは家の外へ。

 温泉、温泉かぁ……魔導学園の大浴場とは、また違った感じなんだろうな。


「温泉! すごく広いから楽しみにしててね!」


「広いんですって。楽しみ!」


 ルリーちゃんは、この上なくウキウキしている。

 学園では大浴場を使ったことはないし、誰かと一緒にお風呂なんて経験もなかったのかもしれない。ナタリアちゃんと部屋で一緒に入ってた可能性はあるけど。


 少なくとも、私はルリーとお風呂は初めてだ。楽しみだ。


「……」


 ただまあ……お風呂となると、服を脱ぐわけで。そうすると、どうしても直面させられる現実があるわけで。

 ルリーちゃんと、それにリーメイのものを見せつけられることになるのか……


「どうしました、エランさん」


「いや……私の味方は、ラッヘだけかと思ってね」


「?」


 そんなこんなで、温泉宿の前にたどり着く。

 結構大きな建物だ……入口は一つだけど、受付を済ませてから女湯、男湯と分かれるようになっているみたいだ。


 建物の中に入ると、受付に誰かが座っていた。

 お猿さんだった。


「えっと、五人で」


「あいよー、ウッキッキー」


 エレガたちは外に置いてきたけど、『絶対服従』の魔法をかけてあるから問題ない。

 呼吸以外するな、って命令しておけば、その場から動くこともしない。


 なので温泉に入るのは、私とルリーちゃん、ラッヘにリーメイ、あとパピリだ。

 みんな女の子なので、一緒に温泉に……パピリは、性別どっちだ?


 いや、パピリがオスだったとしても、さすがに恥ずかしくはないから一緒でもいいんだけどさ。


「うわぁ、広い」


 脱衣室に入ると、そこもなかなか広かった。それにとてもきれいだ、整備が行き届いてる。

 さっそく、服を脱いでいく。うわぁ、最近は歩きっぱなしだったからあちこち汚れちゃってるよ。


 体を拭いたりはしていたけど、やっぱり一度さっぱりはしておきたい。


「わぁ……」


 戸を開くと、広がっていたのは岩に囲まれたお湯。温泉だ。

 泳げそうなくらいに広い。泳がないけど。


「ここがナカヨシ村の名物! ろてんぶろだよ!」


 トコトコと歩くパピリは、温泉の説明をしてくれる。美容に効果があるとか疲労回復だとか。

 これは、学園の大浴場とはまた違った趣きがあるな。


 外なのがちょっと恥ずかしいけど……覗けないように、高い塀も立っている。どのみち、モンスターしかいないのだろうし。

 体を軽く流して、お湯に浸かる。


「ふぁあ……」


 あー……これ、体に染み渡るぅ。いい湯だぁあ……

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