456話 魔女と呼んでくれ



 案内された先にいた、この村で一番偉い人だという人。モンスターだらけの村で、初めて会った人だ。

 その人は、師匠と瓜二つの顔をしている。だけど、髪の色や瞳の色は違う。


 なんだろうな。ラッヘも私とおんなじ顔をしているし、最近似た顔の人よく見かけるなぁ。


「えぇと……あなたは、いったい……」


 とりあえず、黙って座っているのもなんだし……私は、目の前のその人に話しかける。

 中性的な顔立ちだから、男の人か女の人かもわからない。


「私は、そうだな……魔女とでも呼んでくれ」


「魔女……」


 果たして真剣なのか、それともふざけているのか。名乗ることはせず、自分をこう呼べという。

 魔女ってことは……女性なんだろうか。


 性別をわざわざ行くのも、野暮ってもんかな。


「えっと、じゃあ魔女さん。あなたは、私たちのことを知っているの?」


「知っている……とは少し違うな。お前たちのことを、多少占ったまでだ」


 淡々とした様子で、魔女さんは話す。

 私たちのことを、占った……だから、私たちのことを知っている。そういうことか。


 占ったっていうのが、よくわからないけど。


「パピリが、この時間に珍客を連れてくる……と出たのでな。それが、お前たちというわけだ」


「チンキャクって!?」


「珍しい客という意味だ、バカうさぎ」


「そっか! ぼくバカじゃないよ!」


 今日この時間に、私たち……いや、この村以外の人間が来ることは、わかっていたのか。

 そんな魔法、聞いたこともないけど……世の中には、私が知らないだけでいろんな魔法があるんだなぁ。


 ただ、私たちのことを知っていたというのなら、話は早い。


「じゃあ、単刀直入に聞くけど。私たちが目指している、ベルザ王国の道って、ここから北に行ったらいいの?」


「ベルザ王国……魔導大国で有名な国だな。

 あぁ、方角は今で問題ない」


 ベルザ王国の名前は、やっぱり有名みたいだ。そりゃ、魔導大会でいろんな国から人が集まるわけだよ。

 そして、ベルザ王国の場所は北で問題ないらしい。


 なんとなく、この人が言うことはすごい真実味がある。


「急ぎの旅か?」


「まあ……早く着けるに、越したことはないかな」


「そうか。だが、せっかくだ。今日はこの村でゆっくりしていくといい。

 魔大陸を経ての長旅なら、それなりに疲労も溜まっているだろう」


 魔女さんは、私たちのことを気にしてくれているのか、今日一日はここで休んでいけという。

 それは、ありがたい話だけど……


「でも、お金がなくて……」


「なら、この家に泊まらせてやろう。数十人は泊まれるスペースは確保できる。私の権限なら、お前たちの食事くらいどうとでもなるしな。

 それに、この村には有名な温泉も……」


「温泉!?」


 お金がないから、と言った私に、魔女さんはこともなげにに話す。この村で一番偉い人なんだから、それくらいの権力はあるのか……

 権力バンザイ。


 それから、食事や……温泉の言葉が出た瞬間、食い気味にルリーちゃんが反応した。


「温泉! 温泉があるんですか!?」


「ん? あぁ」


「エランさん!」


 ルリーちゃんの目が、輝いていた。

 まあ、それも仕方ないか……魔大陸に飛ばされてからずっと、お風呂入ってないもんなぁ。


 ガローシャのところでは、寝床には困らなかったけどお風呂はなかった。魔族はお風呂には入らないらしいのだ。

 水で体を拭いたりはしたけど、それくらいだ。


 なので……もう数日と、お風呂に入っていない。

 ここでの温泉発言は、なんとも魅力的だった。


「……そうだね。いろいろ、落ち着いて今後の予定を立てていきたいし」


「やった」


 ガッツポーズをしているルリーちゃん。微笑ましい。

 そういえば、学園には大浴場と、部屋に簡易的なお風呂があった。


 ダークエルフとしての正体を隠しているルリーちゃんは、みんながいる大浴場には入れない。

 だから、温泉という場所で伸び伸びお風呂に入るというのは、ルリーちゃんにとってはなかなかない機会なのだろう。


 そういえばこの村のみんなも魔女さんも、ダークエルフについて特に偏見を持っている感じしないな。


「そうと決まれば、部屋を用意しよう。

 といっても、部屋はたくさんあるのでな。好きなところを使うといい」


「わーい!」


「あ、ラッヘ! ……まったく」


 いの一番に、部屋の奥へと進んでいくラッヘ。

 まあ、家の中なら迷子になることもないだろうから、放っておいても大丈夫か。


 ……大丈夫だよね?


「リーも、ちょっと見てくるよ」


「うん、お願い」


 次にリーメイが、部屋の奥へ。

 多分、部屋を見てくるのとラッヘを見てくるのと二つの意味があるんだろう。


 なんというか、子供っぽいところもあるけど……ラッヘに対してはお姉さんやってくれている気がする。

 まあ、エルフとニンギョ……長寿の二人がどっちが年上なのかどうかはあまり考えないようにしたいけど。


 あと、エレガたちは適当な部屋に放り込むとして……


「私は、あなたに聞きたいことがいろいろある」


「あぁ、だろうな」


 落ち着いて今後の予定を決める……そして、この人にもいろいろ聞きたいことがあるのだ。

 だから、ここで今日過ごすことを、決めた。

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