455話 ナカヨシ村で一番偉い人



 再びパピリの後に続いて、村の仲を進む。

 今思ったけど、この村はモンスターだらけだから……なんか、私たち目立っているような気がする。


 かといって、物珍しそうに見られているだけだから、別にいいんだけどさ。


「ここだよ!」


 しばらく歩いて、一つの建物の前にたどり着く。

 丸い、半円の白い建物だ。確かに、この村で一番と感じるほどに、大きい。


 それにあっけにとられていると、パピリが壁をバンバンと叩く。

 小さな手なので、ぺちぺちというほうが正しいかもしれないけど。


「こんにちは! パピリだよ! こんにちは!」


 壁を叩きながら、建物の中へと叫ぶパピリ。

 この建物、扉はないのだろうか。


 それからしばらくして、ぷしゅっ……と音が聞こえたかと思えば、壁の一部が動いた。

 下から上へと、一部が動いて開いたのだ。


「なんだなんだ、壁を叩くなバカうさぎ」


 建物の中から声が聞こえ、誰かが出てくる。

 それは、この村に住んでいるモンスターの姿……ではなかった。


「……人?」


 出てきたのは、モンスターではなく人間だった。

 気だるげに出てきたその人は、ぼさぼさの白髪をかきながら、舌打ちしてパピリを見つめた。


 すると、パピリは私の後ろに隠れた。

 その動きを追うように、その人の視線が……私たちを、捉えた。


 その姿を見た瞬間、私の心臓がとくんと跳ねた。


「え……」


「……」


「……! あ、あ、えっと……どうも。私たちは……」


「あぁ、わかってる。まあ、とりあえず入れ」


 まずは自己紹介だ、と思っていたのだけど……なにをしゃべるよりも、その人は建物の中に入っていく。

 私たちを、案内してくれる、ということだろうか。


「ね、パピリちゃン。あの人が、この村で一番偉いノ?」


「そうだよ!」


 リーメイの問いかけに、パピリが元気に答える。

 正直、パピリの証言だけだと疑わしいけど……モンスターだらけのこの村にいる人。それにあの圧力から、ただ者ではないことはわかった。


 それに、あの人……


「エランさん、とにかく行きましょう」


「え、あぁ……そうだね」


 ルリーちゃんに話しかけられ、私は小さくうなずいた。

 とりあえず、せっかく案内されているんだ。それに従おう。


 私たちは、家の中に入る。

 すでにその人は、長い廊下の先を歩いていた。置いていかれないように、しっかりと歩く。

 一本道だから、迷うことはないだろうけど。


 ……それに、しても……


「……」


 なんであの人……師匠と、同じ顔をしているんだろう?


 さっき顔を見た時、びっくりした。だって、師匠と顔立ちが、瓜二つだったから。

 だけど、師匠はエルフだ。金髪で、緑色の瞳で、尖った耳で。


 あの人は、違う。顔立ち以外にもすらっとした背格好こそ、師匠と似ている。

 似ているけど、あの人は白髪で、黒い瞳で……耳も、尖っていない。人間だ。


 だから当たり前だけど、あの人は私やラッヘの顔を見ても、なんの反応も見せなかった。


「んー? なあに?」


「いや、なんでもないよ」


 無意識に、ラッヘのことを見ていた。

 師匠の子供だという、ラッヘ。彼女の記憶が失われていなければ、彼女はどんな反応をしただろう。


「わ、広い!」


 歩いた先に、広い部屋があった。中央には大きな丸いテーブルが置かれているだけの、質素な部屋だ。

 壁も床も天井も、すべて白い。ちょっと眩しいほどに。


 それからあの人は、ぱちんと指を鳴らす。すると、なにもなかったところに複数の椅子が出現した。


「お前たちも、適当に座るといい」


 そう言って、彼……いや彼女か? 中世的なその人は、椅子に座った。


 これは……どうやったんだ? 魔法で出したものなのか?

 いや、だとしたら座れるのは不思議だ。リーメイの水のベッドは、また特別なものだったし。


 困惑する私だけど、そんなもの関係ないラッヘとリーメイは、近くの椅子に座る。


「……座れるんだ」


「エランさん」


「うん」


 ラッヘとリーメイが座った椅子も、本物。幻影とか、そういうのじゃない。

 私たちも、近くの椅子に座る。


 パピリはなぜか、私の膝に座ってきた。


「あ、ずるい……」


「え?」


「なんでもありません」


 ルリーちゃんがなにか言っていたような気がするけど、気のせいだろうか。なんでもないって言ってるから気のせいだろうな。


 それから白髪の人は、私……の膝に座る、パピリを見た。

 とても、残念そうなものを見る目で。


「パピリ、いつも言っているだろう。壁を叩くなと」


「ごめんなさい!」


「まあ、お前のひ弱な力で叩いたところで、どうということはないんだが……まったく」


 パピリに一通りの注意を告げたあと、今度こそ私を見た。

 師匠と同じ顔……なのに、目は鋭く、黒い瞳に吸い込まれてしまいそうな感覚になる。


「さて……お前たち、魔大陸から来たのか」


「えっ」


 まだ私たちは、なにも言っていない。なのに、魔大陸なんて単語が出てきた。


「いや、正確には違うか。一度魔大陸に飛ばされ、そこから帰還した。そして、今現在は元の国に帰ろうとしている」


 私たちの経緯を正確に、把握している。これは、どういうことだろう?

 もしかして、ガローシャと同じ未来予見……いや、それとは違う。それだと、未来のことはわかっても過去のことはわからないはずだ。


 この人は、これまでの経緯を言い当てている。


「そう驚くことでもない。この程度のことを調べるのに、造作もない」


 それに……建物の前での反応は、まるで私たちが来ることがわかっていたような、反応だった。

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