454話 ソンチョウさん



 結局、私たちの分のアイスを作ってもらった。

 私とルリーちゃん、ラッヘ、リーメイ、そしてパピリの分だ。


「ごめんね! お金必要だったみたい!」


「うん……」


「でも、アイス食べれてよかったね!」


 近くのベンチに座り、私たちはアイスを食べる。

 それぞれ、別の味を頼んだ。私はバニラ、ルリーちゃんはチョコ、ラッヘはいちご、リーメイはバナナ。


 そしてパピリは、緑色のクリームが乗ったものを食べていた。


「おいしい! おいしいね!」


「そうだね!」


「んまんま!」


 妙に明るいパピリに、子供っぽいリーメイ、子供のような性格になってしまったラッヘは、似た者同士というか……気が合っているようだ。

 うぅん、エルフとニンギョとうさぎ……不思議な光景だ。


 みんなでペロペロとアイスクリームを舐めていると、なんだか視線を感じた。

 エレガたちが、私たちを見ているのだ。というか、アイスを。


「なに」


「……別に」


 とりあえず聞いてみるけど、特になにか答えるわけでもなく、エレガはそっぽを向く。

 まったく、素直じゃないなぁ。ほしいならほしいとそう言えばいいのに。


 言ってもあげないけどさ。


「はい!」


 そう思っていたけど、気づいたらパピリがエレガの前まで移動していた。

 そして、手に持っていたアイスを差し出したのだ。


 それはつまり、アイスを食べていいよということだろう。

 会ったばかりの得体のしれない人間のために、自分が食べているものを差し出すなんて。


「なんだようさぎ」


「ちょっとなら食べていいよ!」


「いらねぇよ」


「わかった!」


 そのやり取りを経て、パピリはこっちに戻ってきた。

 エレガはエレガで、なぜかあっけにとられた顔をしている。


 ……あぁ、まさかあんな簡単に引き下げられるとは思っていなかったんだな。もう少し問答を続けて、仕方ないといった雰囲気を出していただくつもりだったのだろう。

 パピリが素直すぎて残念だったね。


「アイスいらないって! おいしいのに!」


「ねー。それはパピリノだから、パピリが全部食べていいんだよ」


「わかった!」


 再びベンチに座ったパピリは、もぐもぐとアイスを食べ始めた。

 その姿を見つめつつ、私もまたアイスを食べる。


 しばらくして食べ終わった頃には、お腹も多少は潤っていた。


「ふぅ。おいしかったぁ」


「ありがとうございますパピリちゃん、おいしいものを紹介してくれて」


「いいよ!」


 うん、おいしかった。確かにおいしかった。実に満足だ。

 だけど……私たちは、当初休めるところを探していたはずなんだよなぁ。それが、アイスを食べることに。


 ただ、あれだな。休める宿とかを紹介してもらったところで、お金がないからどうしようもないな。

 今回は、なんかサービスしてくれたけど。


「ねえパピリ」


「なあにエランちゃん!」


「この村で、一番偉い人……人?

 が、いるところってどこかな」


 まあ、まずは最優先事項を確認するとしよう。

 最優先事項。それは、ベルザ王国の位置と方向だ。


 魔柱まばしらのところにいったじいさんは、北と言っていた。だから北に向けて、進んできた。

 だけど、一人だけの証言じゃ、確実性はない。


 だから、より多くの証言が必要だ。

 この村で一番偉い人なら、いろいろ知っているはずだし。ベルザ王国の場所も、心当たりがあるかもしれない。


「えらい人って!?」


「ええと……村で一番偉い人なら、村長ってことになるのかな」


「ソンチョウさん! いるよ! 案内するね!」


 それから私たちは再び、パピリについて歩いていく。

 先ほどのアイス屋みたいに、また変な場所に連れて行かれやしないかと心配したけど……


 案内された先は、普通の一軒家だった。


「この中に……」


「ソンチョウさん! ソンチョウさんに会いたい人を連れてきたよ!」


 元気な声を上げて、パピリが家の中に呼びかけた。

 これだけのモンスターが暮らしている村の村長……いったいどんな人なんだろう。


 すると、家の中からガサゴソと音が聞こえて……少しすると、誰かが出てきた。


「ぼくに会いに来たって? 誰が?」


 中から出てきたのは、パピリ……に似た、ひときわ大きなうさぎだった。

 ただ、目つきがすごく鋭い。うさぎって癒やしの生き物って感じなのに、全然そんな風に見えない!


 この人が、この村の村長さん……


「ソンチョウさんだよ!」


「そっか、ありがとうね連れてきてくれて」


「うん!」


「それで、村長さん……えっと、お名前は?」


「ソンチョウさんだよ!」


「……ん?」


 なんだろう、なにかおかしい。会話が噛み合っていない。

 ルリーちゃんに振り向くと、ルリーちゃんも首を傾げていた。私がおかしいわけではないみたいだ。


 ……村長さんって、まさか……


「もしかして……この人の名前が……」


「ソンチョウさんだよ!」


 ……そっかぁ……この人、村長さんじゃなくてソンチョウさんかぁ……

 あれ、これ私が悪いのか? 私に問題があったのか?


 ダメだ、やめよう。パピリに悪気はないんだから。

 私は考えるのをやめた。


「えっと……この村で、一番偉い人を探しているんだけど」


「なんやて? んなもん、村ん中で一番でかい建物に住んどるに決まっとるやろボケ」


「……」


 うわ、このうさぎ全然かわいくない! パピリと似た風貌なのに全然かわいくない!

 悪気がない分、パピリの方がまだかわいげがある!


「ごめんね! ぼく案内するね!」


「お、お願い……」


 一番でかい建物……となれば、私たちでも見つけられるけど。

 汚名返上のためか、パピリが手を上げた。


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