453話 モンスターの暮らす村



 デンシャに揺られてやって来た先にあったのは、モンスターだらけの村。

 しかもただのモンスターじゃあない。しゃべるモンスターだ。


 モンスターも魔物や魔獣すら、言葉を話すことはない。

 まあ魔獣の中でも"上位種"って呼ばれる奴は、意味のある言葉を話せはするみたいだけど。


 それでも、カタコトな感じで……こんなにも流暢にしゃべるものは、まずいない。

 それを思えば、世界は広いなぁ。


「あの、どこか休めるところとか……」


「わぁーい!」


 なぜか牧場の前に案内され、休憩できるところを聞こうとするが……

 うさぎは、牧場の中に飛び込んでいった。いろんなモンスターがいる中、うさぎはぴょんぴょんと跳ねて楽しそうだ。


 だけど、数秒と経たずに戻って来る。


「あのね! 僕パピリ! よろしくね!」


 なぜか、このタイミングで自己紹介が始まった。


「え、あ、うんよろしく。それで、どこか休めるとこ……」


「お姉ちゃんのお名前は!?」


「……エラン、だよ」


「エランちゃん!」


 なんだこの子!? 全然話をしてくれないよ! いやまあ、自己紹介は大事だけどさ!

 それからうさぎ……改めてパピリは、ルリーちゃんたちに自己紹介していった。


 その際、一人一人に「僕パピリ! よろしくね!」と言っていた。

 ……まあ、自己紹介は大事だもんね。


 そして、エレガたちにも。彼らが縛られていることについては、パピリはノータッチだった。


「こほん。じゃあ、改めて……ねえパピリ。この村で……」


「ナカヨシ村だよ!」


「……ナカヨシ村で、休憩できるところとか、ないかな」


「あるよ!」


 いちいち元気だなぁ……

 まあ、質問には答えてくれる素直な子だから、まだ愛嬌があるけど。


 それからパピリは「こっちだよ!」と言って、私たちを案内する。

 小さなうさぎの後ろをついていく私たちの姿は、なんとも奇妙なものだろう。


「本当に、モンスターばかり」


 周囲を見回すルリーちゃんが、驚いたように言う。

 ルリーちゃんの言うように、周囲はモンスターだらけ。そして、まるで人のように言葉を話し、会話に花を咲かせている。


 しかも、それはモンスター独自の言葉とかではなく、私たちにもわかる言葉だ。

 こうして見ていると、モンスターもなんだかかわいいな。


 それから、あまり広い村ではないからかすぐに目的地についた。パピリが足を止めたから、そこが目的地だとわかった。


「……ここ、どう見てもお店だよね」


 そこは、休憩できるところというより……お店のようだった。屋台と言ったほうが近いかもしれない。

 宿屋……ってのも、ちょっと違う気がする。


 本当に、ここで休憩できるのだろうか。

 それを確認するためパピリを見ると……振り向くパピリと、目があった。


 そして……


「ここのアイス! おいしいんだよ!」


 と、元気な声で言った。


「お、おう……

 えっと、ここって宿屋じゃ……」


「アイス! おいしいんだよ!」


「……」


 めちゃめちゃ勧めてくる、アイスを。

 確かに、甘いものは休憩にはちょうどいい、のか?


 それに、結構人……じゃなくてモンスターが並んでいるので、それなりに人気なんだろう。興味はある。

 ただ、問題が一つ。


「お金ないよな……」


 ベルザ王国から魔大陸まで転移させられてしまったので、手持ちのお金は本当に必要最小限でしかない。

 魔大陸ではお金使う機会はなかったし、気にしていなかったけど。


 そもそも、道中どこかの町や国に寄ったにしろ、お金がないとそこではなにもできないことに、もっと早くに気づくべきだったな。

 目先のアイスさえ、満足に買えないんだもんな。


 どうしたもんかな、と考えていると……


「大丈夫だよ! 旅の人からはお金取らないよ!」


 と、私の心配を吹き飛ばすようなことを言ってくれた。

 なんだその太っ腹なのは……いや、ありがたいけどね。


 お金がいらないのなら、せっかくだからいただこうかな。

 というわけで、私たちは列に並ぶ。流れはスムーズで、あっという間に私たちの番がやってきた。


 パピリ曰く、お金は要らないらしい。なので、遠慮なく頼むとしよう。

 ええと、白いバニラに茶色いチョコに桃色のいちご……なぜか、味と色が丁寧に表示してある。


 というか、言葉だけじゃなくて文字もわかるな。ほとんど、人間のものと一緒らしいな。


「ええと、これとこれと……」


 私は、みんなの意見を聞きながら味を選んでいく。

 アイスは、コーンの上にクリームが乗せられているタイプのようだ。見本がある。


 人数分の注文を、店員さん……二足歩行の猫が聞いて、そして言った。


「アイスが五つ……合計で、1000エホンだ」


「えっ……エホン? もしかしてお金?」


「当たり前だろ」


「……お金取るの?」


「当たり前だろ」


 私は、無言でパピリに振り返る。

 パピリはなぜか大口を開け、衝撃を受けたといった表情を浮かべていた。


「お金取るの!?」


「なんでてめえが驚いたんだよ」


 ついに、エレガからのツッコミが入った。


「ごめんね! お金いるみたい!」


「そう、なんだ……」


「アイス食べられない!」


「そうだね……」


 ごめんと言いつつ、反省しているのかしていないのかよくわからない顔をしている。

 とにかく、お金がなければアイスは買えない。


 なぜかパピリが一番がっかりしていたけど、ラッヘがパピリの頭を撫でていた。


「なんにゃ、お前さんら旅人さんかにゃあ」


「あ、うん、そうだけど……」


 猫の店員さんが、話しかけてきた。


「どうやら、パピリのバカが迷惑かけたみたいだにゃ。仕方にゃあ、サービスしといてやる」


「えっ」


 そう言うと店員さんは、そそくさとアイス作りを始めた。

 これはあれか、迷惑料的なそういうやつか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る