452話 デンシャに揺られてその先は



 デンシャが動きを止めて、プシュッ……と音を立てて扉が開く。

 降りろ、ってことだろうか。


「ホームまであんのか。どうなってんだ」


 エレガはそうつぶやきながら、外へと降りた。

 デンシャの扉をくぐった先には、妙な台がある。大きな台だ。エレガはこれを、ホームと呼んだ。


 デンシャを降りたところで、改めていろいろと確認するけど……私たち以外には、誰も乗っていない。

 じゃあ、このデンシャは誰が動かしていたんだろう。誰かが魔法で動かしていると、思ってたんだけど。


 それとも、まさか自動で?


「うーん……」


 デンシャを触ってみる。魔法で動いた……って感じはしないな。

 硬くてつるつるしてて、叩いてみたらコンコンと音が鳴る。


 どうやって作っているのかも、よくわからないや。


「とりあえず、結構進んだ……ってことで、いいのかな」


 目的地ベルザ王国のある方角、北に向かって、おあつらえ向きにあったデンシャで移動してきたわけだけど。

 レールってやつはここで切れているし、デンシャはこの先へは進まないようだ。


 ……それにしても……


「なんだか、すごく……賑やかな、雰囲気ですね?」


 そう、ルリーちゃんが言うのにも理由がある。

 さっきまで、荒野が続いていたとは思えない。村のようなものが、そこにはあったからだ。


 小さな塀で囲まれている、村だ。塀の向こうからは、わいわいとした賑やかな声が聞こえてくる。

 ようやく、人のいる場所にたどり着けたってわけだ。


 それに、ここでなら少しはリラックスして休憩することができそうだ。


「わー、なんだか賑やかカ! 楽しそウ!」


「わー!」


 リーメイとラッヘは、もう村に入りたくてウズウズしていそうだ。

 ここで焦らす必要もないので、私たちは村の入口に向けて歩きだす。


 小さな村なのか、門番のような人はいない。誰でも自由に、行き来できるってことだ。


「いらっしゃい!」


「ん?」


 入口から、村の中に入る……すると、どこからともなく声をかけられた。

 周囲を見るけど、誰もいない。元気な明るい声が聞こえたんだけど。


 どこだろうと見ていたら……


「いらっしゃい!」


 また、同じく声が聞こえた。今度は、下から聞こえたのだとわかった。

 なので私は、視線を下に下げる。


 そこに、声の主はいた。どんな人だろう、子供だろうか。

 ……結論から、人では、なかった。


「……モン、スター?」


 そこにいたのは……二足歩行の、獣だ。白いふわふわの体毛に包まれた、耳の長い生き物。

 赤い瞳がくりくりしていて、非常に愛くるしい。


「うさぎが……しゃべってる」


 エレガが、驚いたようにつぶやいた。ただ、驚いたのは私もだ。

 モンスターは、鳴き声を上げたりすることはある。けれど、言葉を……私たちに理解できる言葉を話すことは、ない。


 しかも、いらっしゃいと……私たちを歓迎する、意味のある言葉だ。


「こんにちは!」


「こんにちは!」


 未知の生き物相手に私はどうしたもんか反応に困っていたのに、ラッヘは臆せずうさぎに挨拶をした。

 うさぎもまた、ラッヘに挨拶を返した。


 一応……意思の疎通も、できるってことでいいんだよなこれは。

 なんで二人はハイタッチをしているのだろう。


「あ、あの……」


「こんにちは!」


「えっ、あぁこんにちは」


 私も挨拶を求められてしまった。

 とりあえず挨拶を交わさないと、話が進まないらしい。


「それにしても、ずいぶんめずらしい組み合わせだね! 人間にエルフにダークエルフに人魚なんて!」


「あぁ、うん……村に入りたいんだけど、だめかな」


「ダメじゃないよ!!」


 テンション高いなぁこのうさぎ……


「ようこそ、ナカヨシ村へ! ここではみんな仲良しなんだ!」


「すごいまんまな名前!」


 両手を広げ、自信満々に村の自慢をするうさぎ。

 妙に声が甲高いので、声が良く通る。すごい元気な子だなぁ。


 それから、村の中を見渡すと……


「モンスター、ばかり……?」


 村の中を歩いているのは、右を見ても左を見てもモンスターばかりだ。

 二足歩行で歩いているもの、四足歩行で歩いているもの、飛行しているもの……


 人間も、獣人も。そういった種族はいない。

 亜人……というより、モンスター寄りだよなみんな。


 ここは……しゃべるモンスターが暮らしている、村っていうことなのか。


「ようこそ! ようこそ!」


「どうも……」


 とりあえずは、歓迎されているってことでいいらしい。

 自然と、うさぎに案内される形で、村の中を歩く。


 ……モンスターが、言葉を話して生活している。

 信じられない光景だ。言葉を話すモンスターなんて、聞いたことも見たこともない。


 クロガネのような、普通のモンスターよりも上位の存在でさえ、言葉を話すことはできないというのに。


「ここ、村の観光名所!」


 なぜか、観光名所というところに案内された。


「あ、ありがとう。ただ……塀に囲まれた、草原があるだけなんだけど」


「みんなで、牧場の中で遊ぶの! 楽しい!」


「……そう、なんだ」


 それ観光名所とは言わないよ!? 遊び場だよ!?

 というか、そんなところ紹介されて私はどう反応しろと!?


 モンスターだけが、暮らす村……ここは、一癖も二癖もありそうなんだけど!

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