451話 謎の黒い箱



 私たちがいないことで騒いでいたルリーちゃんたちをなだめ、私たちは出発した。

 昨日のお肉以降なにも食べていないけど、残念ながら周囲にモンスターはいない。


 今日こそ、どこか人のいる町を見つけられればいいんだけど。

 そう思いながら、歩いていると……


「……これは、なんだろう」


 歩いた先で、不思議なものを見つけた。

 大きな、箱だ。長方形の箱。黒光りした大きな、とっても大きな箱。


 それに、少し浮いている……いや、下に丸いものが引っ付いていて、それで浮き上がっているように見えるのか。

 それと、丸いものの下になにかが敷かれている。まるで道のように伸びている。


 なんだこれ。


「これは……なんで、こんなとこに電車があんだ……?」


「?」


 それをじっと眺めていたけど、ふとエレガが口を開く。

 ずっと口を拘束しておくのも面倒なので、口は自由にしている。『絶対服従』の魔法なら、うるさくさせないこともできるし。


 今みたいに、なにかに気づいたらしいエレガの拘束をいちいち解くのも、面倒だしね。


「……デンシャ?」


 そのエレガが言った、またも聞き慣れない単語。

 この、長方形の箱が……デンシャと、そういう名前らしい。


 うーん、なんか扉のようなものもあるし、中に入れるってことかな。


「デンシャって、なニー?」


「あぁ? なんでわざわざ教えねえといけねえん……」


「なニー?」


「いやだから……」


「なニー?」


「……」


 リーメイが、エレガに詰め寄っていた。それはもうめちゃめちゃ近い。

 手を縛っているとはいえ、不用意に近づくのは危ないんだけどなぁ。


 毒気のないリーメイ相手にしては、さすがのエレガも調子が狂うようだ。


「……言ってみれば、乗り物だよ」


「乗り物……モンスターに乗るようなもの?」


「いやぁ、モンスターよりもかなり速いなこいつは。地面に敷いてあるレールに沿って走るもんでな、レール上しか走れねえがその代わりにものすごいスピードで走る。しかし見たところ、運転手もいねえが……こいつはちゃんと走るのか? もしかしてもう使えないから廃棄されたものか……いやそれにしちゃきれいに整備されてんな。これならかなりの速度で走れるだろうなそれにレールも使ったあとがあるしやっぱり最近まで走ってたってことだよなとなるとどこに向かっているのか電車の行き先が気になるしそれに……」


 なんだこいつ、聞いてないことまで喋り始めたぞ。気持ち悪。


 ぶつぶつ言っているエレガは放っておいて、私はデンシャを見る。

 これが、乗り物……それも、モンスターに乗って走るより、ずっと速いようだ。さすがにクロガネほど速くはないだろうけどね。


 ただ、それほどに速いのなら……今の私たちには、願ってもないものってことだ。


「これに、乗ればいいんですかね?」


「気をつけてね」


 まずエレガたちを先に乗らせて、続いて私たちも乗る。

 中には、ソファーがあった。壁にくっついたソファーが、左右に広がっている。


 せっかくだし、座らせてもらおうか……そう思っていたとき、入ってきた扉が閉まった。


「え……」


 一瞬、閉じ込められたかと警戒した。それだけではなく、プルルルルと音が鳴り始めたからだ。

 次の瞬間、体が傾く。窓の外の景色が、動いている。


 いや、動いているのは窓の外じゃない……このデンシャだ。デンシャが動いて、景色がかわるがわるになっているんだ。


「う、動きました!? これ、動いてますよね!」


「う、うん! と、とりあえず座ろっか!」


 いきなりデンシャが動いたので驚いたけど、とりあえず落ち着こう。このまま立っていたら危ないし、まずは座ろう。

 そもそも、これが乗り物だって知って乗ったんだから。うん、狙い通り狙い通り。


 それにしても、エレガが言うにはデンシャにはウンテンシュってやつがいるみたいだけど……

 私たち以外に、人が乗っている気配はない。でも、誰かが操作したから扉も閉まった、のか?


 長方形の箱は三つほど繋がっていた。その先頭だか後方だかに、ウンテンシュがいるのだろう。

 走っている最中に立つのは危ないので、デンシャが泊まったら探してみよう。


 ……レールに沿って走るって言ってたけど、どこまで行くんだろう?


「うわァ! すごいすごイ!」


「速い速い!」


 窓の外の景色が、あっという間に移り変わっていく。

 確かに、これは速いな。それに、座ってればいから楽ちんだ。


 エレガたちは、どこか不思議そうにして座っていた。私たちの感じている驚きとは、少し違う驚きに見える。

 エレガが言っていたことを踏まえるなら、これは例のイセカイとやらにあるものらしい。


 つまり、本来はこの世界にないもの。さっきのデンチュウと、同じようなものってことだろう。


「ガタンゴトンー、ガタンゴトンー」


「トントンー」


 リーメイとラッヘは、初めてのデンシャに楽しそうだ。気持ちはわかる。

 私も、このデンシャ隅々まで見てみたいし。


 それから、しばらくデンシャに揺られ……デンシャがキキーッと音を立てて、徐々に止まっていく。

 目的地……に着いたってことだろうか。いや、目的地ってどこだよ?


 とりあえず……降りようかな。

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