450話 リーメイと二人



「ふぁ、あ……よく眠れた」


 朝、目が覚める。

 睡眠に使ったベッドは、リーメイが魔法で作った水のベッド。


 寮の部屋で寝ていたベッドより、ぐっすり眠れたかも。

 ひんやりしていて、なにより弾力がすんごい。これ商品として出したら売れるんじゃないかな。


 他のみんなを確認すると、まだ寝ているようだ。ルリーちゃんも、ラッヘも、リーメイも……


「あれ?」


 よく確認するけど、リーメイの姿がない。

 人数分のベッドを用意したけど、ラッヘが一人で寝るのは心細いと言って、結果的に昨夜はリーメイと一緒に寝たのだ。


 だから、ラッヘと一緒に寝ているはずなんだけど……リーメイの姿だけ、ない。


「どこ行ったんだろ」


 ベッドから起き上がり、周囲の魔力に集中する。

 すると、少し離れたところにリーメイの魔力を感じた。よかった、どっかいなくなっちゃったわけじゃないみたいだ。


 ただ、こんな朝早くから離れたところにいるなんて……なにか、あったのだろうか。

 少し気になったので、リーメイのところへ行くことにする。


 みんなまだ寝てるし、起きないよね。


「……いた」


 リーメイを探して歩いていくと、岩場にもたれて、影の中に座っているリーメイの姿があった。

 足……を折り、膝……を抱えている。人だとその部位を、ニンギョにも当てはめていいんだろうか。


 じっと、視線は一つの場所に固定されている。

 登ってくる朝日を、見ている。


「リーメイ、どうかした?」


 一人で考え事をしていたら悪いなと思いながらも、私は彼女の背後から話しかける。

 一瞬肩を震わせるリーメイは、ゆっくりと振り返って……


「あ、エラン。おはヨー」


 と、笑った。


「おはよう。なにしてたの、一人で」


「ンー、おひさま見てタ」


 私はリーメイの隣に移動して、彼女と同じように座った。

 膝を抱えて、リーメイと同じ景色を見る。


 視線の先には、登ってくる太陽があった。

 眩しいから直視はできないけど、なんていうか……壮大だ。


「どこから見ても、おひさまは同じように登るんだねェ」


「それは、そうだよ」


「不思議!」


 リーメイはなにが嬉しいのか、ニコニコしながら体を揺らしている。

 左右にぶらぶらと揺れて、見ているこっちまで楽しくなってくるみたいだ。


「リー、人間は遠くから見たことしかなかったから、エランと旅ができて嬉しいノ!」


「お、おぉ……どうしたの急に」


「実はちょっと不安だったんダ。でも、そんなの杞憂なくらいに楽しい旅だなっテ!」


 素直に表現してくれるから、リーメイが嘘を言っていないのだとわかる。

 人間の国に行きたいと、彼女も私たちについてきて……実際、リーメイはこの旅をどう思っているのか。


 楽しいと、そう感じてくれている。


「それならよかったよ。でも、まだ先は長いよ?」


「それも込みで楽しミ!」


 この子は、前向きだなぁ。それにとっても無邪気だ。

 百年を生きているというけど、とてもそうは見えない。ニンギョってみんなリーメイみたいなのか、それともリーメイだけがこうなのか。


 なんか、リーメイと話していると、今が不安でもなんとかなる、って思えてくるな。


「リーメイはさ、人間の国に興味があるって言ってたじゃない」


「うン」


「どうして、行ってみたいって?」


 彼女の強い希望で、リーメイも同行することになった。

 別に断る理由はない。行きたいのならば、私たちがだめと言うことでもないし。


「さっきも言ったけど、リーは遠くから人間見たことがあるんダ」


「うん」


「それでサ……楽しそうだったんダ」


 リーメイは、当時のことを思い出しているのか、どこか嬉しそうな表情をしていた。


「楽しそう?」


「うン。人間って、リーたちと上半身は同じだけど、下半身には別のものが生えてる生き物だって聞いてテ。実際にそうで、なんか変な生き物だなーって思ってたけド」


 ……変な生き物、か。

 まあ私たちからニンギョがそうであるように、ニンギョから見た私たちもまた変に映るのだろう。


「楽しそうなのを見て、リーたちと変わらないのかなっテ」


「……リーメイはその人たちには、話しかけなかったの?」


「話しかけようかどうしようか迷ってたら、その間に魔物に襲われて死んじゃったんだヨー。だから話せずじまいでサ」


「そっかぁ…………ん?」


 かつて人間を見たことがあると語るリーメイだけど、なんか今とんでもないことを口走っていたような……

 ……聞かなかったことにしよう。そうしよう。


 とにかく、そういった経緯からリーメイは、人と話したことはないのだという。


「そもそも、海の近くに人間が来ること自体珍しいからネ」


「なるほど……」


 ニンギョは、陸地に上がらない限り生活圏は『ウミ』だ。そして、『ウミ』は私たちが住んでいた場所の近くにはない。

 ニンギョ族って種族がいるってのも知らなかったし、そう簡単に会える相手でもないってことだよな。


 未知の相手に憧れのようなものを持つ感情は、理解できなくもない。


「だから、人間の国楽しミ! エランみたいな子が、いっぱいいるんでしョ!」


「私みたいなではないけど……みんな、いい子だよ」


 こうしてリーメイと二人だけで話してみたけど、彼女はやっぱり裏表のないいい子だ。

 それから、楽しみだと笑うリーメイと共にルリーちゃんたちのところへと、戻った。


 起きていたルリーちゃんが、私がいないと騒いでいた。

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