449話 一日も終わり



「いただきまーす!」


 しばらく鶏肉を加熱して、充分中身に火が通ったのを確認。骨付き肉みたいなものなので、持てる部分が冷めるのを待ってから食事を始める。

 少し躊躇はしたけど、まずは私から食べてみんなを安心させないと。ま、毒見ってやつだね。


 というわけで、一口かぶりつく。

 ルリーちゃんは心配そうに私を見ていて、ラッヘとリーメイは早く食べさせろと言わんばかりによだれを流している。


「もぐもぐ……ごくっ」


「ど、どうですか?」


「ん……普通に、美味しいよ」


 咀嚼して、肉を飲み込む。

 感想を聞かれると、それは想像したよりも全然いいものだった。


 すると、それを聞いた瞬間にラッヘとリーメイは、肉にかぶりついた。

 二人とも相当我慢していたのか、すごい勢いだ。


「ルリーちゃんも、ほら」


「は、はい」


 恐る恐るといった感じで、ルリーちゃんもお肉を口にする。小さな口で、上品な食べ方だ。

 静かに咀嚼して、それを飲み込む。


 すると口元を押さえて、目を見開いた。


「お、おいしい」


 当初のビジュアルがビジュアルだけに、あまり期待はしていなかったのだう。

 だけど、実際に食べてみたら普通においしいので、本人もびっくりしたようだ。


 モンスターの丸焼きは、シンプルだけどまあ極端なもの以外食べられないことはない。こういったサバイバル的なところでは効率がいい。

 ま、師匠に教えてもらったんだけどね。


 なんらかの原因で、周りに頼れるものがなくなったとき。自分の力でなんとかしなくてはいけないから、周りをよく見て判断しろって。


「んぐっ、んぐぐ……!」


「もーラッヘたラー。急いで食べ過ぎだヨー」


 勢いよく食べていたせいか、ラッヘが喉につまらせたらしい。

 それを見てリーメイが、水を出現させる。それは飲み水としても大丈夫なようで、ラッヘは水を飲んで事なきを得る。


 勢いよく食べていたのはリーメイも同じだけど、こうして見るとなんだか姉妹みたいにも思えるから不思議だ。


「そういえばニンギョ族は、普段はお魚を食べているんですか?」


 食事中、ルリーちゃんがリーメイに聞いた。

 一日のほとんどを水……というか『ウミ』の中で過ごすというニンギョは、水の中で食事も済ませてしまうのだろうか。


「うん、そだヨー。あとは海藻とか、海藻とか海藻とカ」


「海藻ばっかり!?」


 肉にかじりつきながら答えるリーメイ。『ウミ』の中だと、やっぱりそうなっちゃうのか。

 というか、お魚食べるんだ……


 私は、リーメイの下半身を見た。尾ひれだ。魚のあの、後ろの部分だ。

 ニンギョは分類的に人なのか魚なのかはわからないけど、お魚を食べるのは共食いではないのだろうか。


 ……深く考えると怖いから、やめておこう。


「じゃあ、お肉はあんまり食べない?」


「うーん、お肉っぽいお魚を食べることもあるけど、お肉自体はあんまり食べないかナー。

 そもそも人魚族はお肉好きな子あまりいないシ」


「じゃあ……これ、口に合わない?」


「んーン。とってもおいしいヨ!」


 リーメイは美味しいと言いながら、むしゃむしゃとお肉を食べていた。よかった。

 まだまだお肉はあるので、お腹いっぱいまで食べよう。


 それにしても、こうして女の子だけで食事をしていると……学園でのお昼時間を思い出すな。

 たいていの日は食堂で、私とルリーちゃん、クレアちゃん、ナタリアちゃん、ノマちゃんと、仲のいい子で集まって盛り上がってたっけ。


 こうしてまったりした時間を過ごしていると、思い出しちゃうなぁ。

 それだけ、余裕ができたってことなんだろうけど。


「……」


 みんな、ラッヘやリーメイ……ルリーちゃんのことを、受け入れてくれるだろうか。

 ルリーちゃんは、すでにフードを被ってはいない。認識阻害の力がある魔導具だけど、意味がないとわかったからだ。


 破れてしまったフードを、一応被っていた。でも、さっき魔柱まばしらのところであったじいさんは、ルリーちゃんをダークエルフだと見抜いていた。

 だから、破れちゃったら魔導具といえど効果はなくなっちゃうわけだ。


 そのため、みんなのところに戻る時は……また、考えないといけない。

 クレアちゃんが他のみんなに話しているか、じゃなくて……ルリーちゃんが今後も、ダークエルフとみんなに偽り続けるのか、を。


「はーっ、美味しかっタ!」


「まんぷくまんぷく!」


 しばらく食事を続けて、お肉がなくなった頃には私たちは全員、お腹いっぱいになっていた。

 いやぁ、いちじはどうなることかと思ったけど、なんとかなってよかったよ。


 エレガたちは結局、手を付けていない。食べてないみたいだ。

 燃え続けたおっさんの頭は、気づいた時には灰になって風に乗っていたという。どんだけ高熱だったんだよ。


 もったいないな……とは、思わないけど。


「じゃ、寝よっか」


「はい。……彼ら、大丈夫なんですか?」


 ふかふかというかぽよぽよの水のベッドに横になる。

 いやぁ、気持ちいい。


 ルリーちゃんが気にしているのは、エレガたちのことだろう。心配ない。


「朝まで大人しく寝てろ、って命令しとけば、大丈夫だよ」


「……そうですか」


 不安そうなルリーちゃんだったけど、命令通りエレガたちは朝まで大人しく寝た。

 私たちも、寝た。水ベッドが気持ちよかった。

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