448話 おいしく調理してみせるよ



 食料確保のために、モンスターおっさん鳥を確保。

大きさは大人の人くらいあり、普通に食料として結構重宝しそうだ。


 問題は、顔がおっさん顔なこと。これでは、さすがに食欲ゆそそられない。

 なので、首を切り落とすことで、ビジュアル面はまあ……おっきい鳥、という形にはなる。


 これならまあ、食べられないこともないだろう。のはずだ。

 問題はこの、首から上をどうしようかな。


 これも一応、モンスターの一部なわけだし。食べられないことは、ないはずだ。


「……はい、どうぞ」


「……なんのつもりだ」


 そこで私はエレガたちに、おっさんの首を差し出す。っていうか投げて転がす。

 離れたところに座っていたエレガたち四人は、それをじっと見たあと、私を見ていた。


 その視線の意味は、まあなんとなくわかる。


「いや、キミたちもお腹減ってるでしょ? だからまあ、ちょっとは分け前をあげようかなって」


「お前ふざけんなよ!?」


 意味がわかった上で、これがキミたちの食料だよと差し出したわけだけど。

 不服か、不服と申すか。そうだろうよ。


 ただ、本来彼らには食料を与える必要もない。あ、死なれたら困るからほどほどにだけど……

 そんな彼らに食料を与える、私の寛容さに感謝してほしい。うん。


「はぁー。世の中には、食べたくても食べられない人がいるんだよ。こんな形してても恵んでもらえるだけ、ありがたく思いなよ」


「ビジュアルの問題で避けた奴に言われたくねえよ!」


「なっ、失礼な! おっさんの顔だからって、食べられないと決まったわけじゃないでしょ!」


「食える食えないの話はしてねえんだよ! そこまで言うならお前がこの顔を食え!」


「おっさんの顔なんか食べられるわけないでしょ!」


「こいつ……!」


 なんだよギャーギャーと。男らしくないなぁ。

 とりあえず、手は拘束したままだから……仕方ない私が調理してあげよう。


 火で炙れば、食べられるようになるだろう。



 ボォオ……



「アァアアアアア! ンアヅァアアアアアア!」


「……じゃ、焼けたら食べなよ」


「食えてたまるか! めちゃくちゃ叫んでんだろうが!」


 燃えるおっさんの生首は、まるで意思があるかのように火に包まれ、叫んでいる。

 意思があるかのようにっていうか、普通に熱いって言ってる……なにこれ怖い。


 首を切り落としたのに、まだ意識があるのか。どんな生態?


「ま、そういうことで」


「そういうことじゃねぇよ!」



 ぐぎゅるるる……



「ほら、そこでお腹を鳴らしてる、小さな女の子がいるよ」


「ビジーてめえ! 暴食ってか悪食にもほどがあるだろ! おっさんの顔だぞ!」


「う、うるさい! 別にこのおっさんに食欲刺激されたわけじゃないわよ!」


 お腹を鳴らしたのは、ビジーだ。暴食って言われてたけど、そう言われるからにはかなりの大食いなんだろう。

 ここに来るまでほとんどなにも食べてないし、お腹が鳴るのもうなずける。


 彼女の本性を知るまでなら、かわいそうだからあっちの鶏肉をわけてあげようとか思えたんだけど。


「じゃ、そういうことで」


「さっきと同じこと言って去っていくんじゃねぇ!

 おい、本気か!? 本気でこれを食わせるのか!?」


「アヅィヨォオオオオオオオ!」


 私はエレガたちに背を向け、ルリーちゃんたちのところに戻る。

 ルリーちゃんは、なんとも言えない表情を浮かべていた。だけど、相手が相手だからなにも言わないようだ。


 さて、エレガたちはあれでいいとして。本題はこっちだ。


「鶏肉……これ、燃やせば大丈夫だよね。なんとかなるよね」


「その前に、あの顔がくっついてたこれを食べられるかのほうが問題です」


 ちょっと食欲がなくなってきました……とルリーちゃんは言う。

 その気持ちはわからなくもないけど、せっかく鶏肉が手に入ったんだ。これは食べない手はないでしょう。


 そういえば、料理をするのも久しぶりだ。


「大丈夫。師匠と暮らしてた時は、朝昼晩私が全部料理を作ってたんだから!

 どんな食材だって、おいしく調理してみせるよ!」


「思わぬところでグレイシア様の生活のダメさが語られてます……」


「料理得意ならせめてこのおっさん丸焼きはやめろや!」


「アァアアアアアアァア!」


「おっさんの顔を料理したことなんてあるわけないでしょ!」


「てめえマジでぶっ殺すぞ!?」 


 さて、まずは……このままだと汚いんで、食材となる鶏肉を水できれいにする。

 魔法はイメージの力だから、汚れを取るための水をイメージすればそれが出てくる。それで、全身を洗う。


 次に、大きいので食べられる大きさにまで切る。風の刃をイメージした魔法で、ザックザクだ。

 あとは、適当に火で炙って……充分に、中にまで火を通す。


「ごめんね、調理器具とかあればもっと、おいしく調理できるんだけど」


「いえ。食べられるだけでもありがたいです」


「ははっ、数分前においしく調理してみせるよとか言っといて、結局丸焼きかよ! 芸がねぇな!」


「……」


「! あっつ、てめえ燃えてる骨投げつけてくんじゃねぇ! あっつ!」


 とりあえず、ルリーちゃんの言うように今は、食べられるものがあることが重要だ。

 骨も拭き取って、エレガに投げつけて処理。鶏肉の丸焼きを一口サイズに切って、完成だ。


 ん〜……お肉の焼けたにおいがする。

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