447話 イケるよ。多分。きっと



 寝る場所が確保できたところで、お次は食料の確保だ。

 ただ、周囲は荒野なので、木の実とかそういったものは期待できそうにないなぁ。


 水だとお腹は膨れない。いや膨れはするけど、満たされない。

 やっぱり、ご飯食べたいよね。


 ってなわけで、食料を探すんだけど……


「……なんもない」


 しばらく周囲を歩き回ってみたけど、周りには石しかない。

 さすがに石は食べられないし、食べられそうなものがないんだよなぁ。


 せめてモンスターでもいたら、狩って食べることもできるんだけど……


「エラン、お腹空いタ?」


「え? まあ……」


「そっか、わかったヨ……!」


 そう言ってリーメイは、どこから取り出したのか手にナイフを持っていた。


「なら、リーを食べテ……!」


「ちょーっと待てい!」


 なにやら物騒なことをつぶやくリーメイが向ける視線の先には、彼女の尾ひれ。

 そして手にはナイフを握りしめているとなれば、その後に起こることを考えるのは簡単だ。


 なので私は慌てて、リーメイの手首を掴んだ。もちろんナイフを持っている方。


「なにを、しようとしてるの!?」


「だって、食べ物ないかラ……リーを食べて、少しでもお腹の足しニ……!」


「私を食べて、ってもっと別のシチュエーションで聞きたかったよ! やだよこんなスプラッタな私を食べて!」


 リーメイは、自分の尾ひれを切り落として私たちに食べさせるつもりだったんだ。

 自己犠牲精神が半端ない……というか、目の前で切り落とされた足なんて食べられないよ。


 リーメイは、なぜかしょぼんとしながらナイフを下ろした。


「気持ちはうれ……しいかは、微妙だけど。自分の体を傷つけてまでってのは、ナシにしよう。

 いざとなれば食べなくったって大丈夫だし。ね?」


「わかっタ」


 危なかった。ニンギョ族って自己犠牲精神強いのかな。

 それとも、リーメイがそうなのか。


 ともかく、早くなにか見つけないとマジでリーメイが自分の体を切り落としかねない。

 そんなスプラッタショーは望んでいない。


「……あれ、モンスターですかね」


 上空を見上げていたルリーちゃんが、腕を上げて一点を指さした。

 私も、その方向を見るけど……うーん、黒い点にしか見えない。


「あ、ほんとだー!」


 だけど、同じく上空を見上げたラッヘは、ルリーちゃんの言葉にうなずく。

 エルフ族の二人が言うんだから、あれはモンスターなのだろう。エルフ族の"魔眼"は視力もいいみたいだ。


 ラッヘは記憶を失ったとはいえ、なにもエルフ族の能力まで失われたわけではない。


「じゃ、あれを今日の晩御飯にしよう」


「おー!」


 さて、問題はあんな上空にいるモンスターを、どうやって撃ち落とすかだけど。

 この距離じゃさすがに、魔法をぶっ放しても届かない。


 となると……


「クロガネさんにお願いしますか?」


「いや、食料調達のためにクロガネにお願いするのも悪いし」


 クロガネに頼めば、上空の相手だろうとすぐに捕まえられるだろう。

 でも、なんでもかんでもクロガネに頼るのはよくない。魔大陸では散々お世話になったしね。


 それに、魔大陸じゃなければ存分に、魔法を使えるわけだし!


「じゃ、ちょっと行ってくるね!」


「あっ、エランさん」


「わーっ、すごい飛んでる飛んでるー!」


 私は浮遊魔法を使い、上空に飛び上がる。

 そういえば、こんなに高く飛んだのは初めてかもしれない。いつも、どこまで飛べるかよりもどれだけ飛べるかに重点を置いてたから。


 上空に、上空に上がる。ジャンプするように足で空を叩けば、必然的に上に行ける。

 そして、ついに上空を飛んでいたモンスターの目前まで来た。


「ゲェエエエ!」


「……」


 鳥……なんだけど、大きいな。人の大きさくらいある。

 まあ、それはいい。モンスターって言ってもいろいろなのがいるし。


 問題は、モンスターの顔だ。モンスターの顔がなんていうか……おっさんなのだ。

 おっさんにくちばしが生えているような、なんとも不格好な姿。


 なんだろう、これ……


「ゲェエエエイ!!」


 あとなんか鳴き声も汚いし。

 おっさん鳥と目があい、おっさん鳥は私に敵意を向けてくる。


 鋭い足に掴まれたら、刻まれてしまいそうだ。あと、翼も大きいし羽ばたくだけで、近くにいたら吹き飛ばされそう。


「なんか、やる気が……まあいいか」


 とりあえず、鳥であることには変わりないわけだし。

 迫ってくるおっさん鳥に、私は電撃の魔法を放つ。 


 イメージした電撃は手のひらから出て、それはおっさん鳥を包み込む。

 電撃に包みこまれたおっさん鳥は、汚い叫び声を上げて落下していく。


「よっ、と」


 意識を失ったおっさん鳥を魔法で浮かせ、私は共に地上に降りていく。

 一瞬の出来事だったのに、すごく疲れたのはなぜだろう。


 まあいいや。今夜は鶏肉だ。鶏肉パーリィーだ。

 おっきいし、いっぱい食べれるよ。うん。


「みんなー、お待たせー」


「さすがエランさんです、あっという間に食料を調達してうわぁあああああああ!?」


 トテトテと近づいてきたルリーちゃんが、地上に着地した私を見て悲鳴を上げる。

 いや、私の隣のおっさん鳥を見てだ。


 なにに悲鳴を上げたか、聞くまでもない。


「さ、食料ゲットだぜ」


「やだぁああああああ!!」


 確かに、ビジュアルはあれだけど……首から上を切り落とせば、イケるよ。多分。きっと。

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