第七章 大陸横断編

439話 変な面子



「みんな、疲れてない?」


「大丈夫です」


「私もー!」


「リーモ!」


 魔大陸から、人の住む大陸へと戻って来た。ここからまた、私たちが暮らしていたベルザ王国へと戻る必要がある。

 いったいどれだけ歩けばいいのかは分からないけど、『ウミ』を挟んだ大陸を渡すことを考えたら、楽なものだろう。


 まあ、これまでの移動手段は、クロガネに運んでもらったわけだけど。


「リーメイ、疲れたら私が、おんぶしてあげる!」


「ありがトー」


 ……本当は、私たちは今、ここにはいなかったんだよな。


 魔導大会で、強い人たちと戦って……決勝めで進んで、そこで勝つか負けるか。大会が終われば、学園の寮に戻って、みんなで大会の感想を言い合ったりなんかして。

 それで、夜になったらベッドに潜る。でもきっと、まだ話し足りないからとノマちゃんが、一晩中話しかけてくるんだ。


 次の日からは、普通に学園で授業をして。いつも通り授業に戻って。お昼はナタリアちゃんやサリアちゃんとお話をして。

 クレアちゃんやカリーナちゃんたちとお茶会をして、生徒会でゴルさんたちと仕事をして……開いた時間には、ダルマスと特訓をして。


 それから、それから……


「……みんなに、会いたいなぁ」


 魔大陸に飛ばされて、ルリーちゃん以外のみんなとは離れ離れ。

 大会中に乱入してきた、エレガたちのせいで。そのエレガたちも、暴れても無駄だと悟ったのか、おとなしく歩いている。


 結局、全部こいつらのせいなんだよなぁ。こいつらが余計なことしなければ、ルリーちゃんがダークエルフだってバレることも、クレアちゃんに拒絶されることも、クレアちゃんが死んでしまうこともなかった……


「みんナ? 人間のお友達?」


「う、うん。そうだよ」


 いきなり後ろから話しかけられてびっくりしたけど、リーメイは嬉しそうだ。

 まあ、魔大陸に行ったことが間違いだった、とは言わないよ。おかげでかけがえのない出会いがあったわけだし。


 黒いドラゴンと会い、契約を結んだ彼をクロガネと名を付けた。ルリーちゃんの故郷や仲間にひどいことをした、エレガたちを捕まえた。魔族というものを知れた。

 そして、その帰り道……ニンギョ族のリーメイと、友達になれた。


「みんなにも、たくさんお土産話ができるな」


 そのためにも、みんなが無事であることを、願う。みんな無事じゃないと、また笑って話なんてできないから。

 こんなときに、通信用の魔石とかあれば、声だけでも聞けるんだけどなぁ。


 もしくは、エレガたちが私たちに使った転移の魔石。

 それがあれば、こうして歩くことも……


「あ。エランさん、なにか見えましたよ」


「ん?」


 ふと、ルリーちゃんが前方を指差す。

 その先には、大きな建物のようなものがあった。巨大な、塔かなあれ。


 魔大陸で見たのとは、また違う。

 というのも、魔大陸の塔はそれ自体が『国』で、結構大きかった。でも、見える先にあるのは、いくつもの塔が並んで立っている。


 あれは、なんらかの建造物だろうか。ベルザ王国にも、あんなものはなかったように思うけど。


「なんだろう。……まあ、人がいるみたいだし、行ってみようか」


「はい」


 謎の建造物は、いったいなんなのか。家、というわけでもなさそうだけど。

 そんな疑問も、あそこに行けば解決することだ。それに、建物があるってことは人が居る可能性が、高い。


 ここから歩けば、そう遠くはないだろう。休憩がてら、休めるところもないか探してみよう。


「ふふんふーン♪」


「リーメイはごきげんだね!」


「うん、楽しいもノ!」


 こうして歩いていても、リーメイとラッヘのやり取りを聞いていると、和む。

 思わず沈黙が生まれそうになっても、リーメイがなにかしら話してくれるから、そんなことにはならずに済んでいる。


 それが、リーメイの計算なのか、天然なのかはわからないけど。


「ところでエランさん、これ大丈夫でしょうか」


「あー……どうしようね」


 ルリーちゃんが小声で、私に聞いてくる。ルリーちゃんが指すのは、エレガたちだ。

 彼らは、手と口を拘束した上で、私が縛った魔法のムチで引っ張っている。完全に囚人だ。


 そもそも、この面子は……うん、改めてすごいな。

 エルフ、ダークエルフ、ニンギョ、人間……しかも、その人間は全員が黒髪黒目ときた。この世界では、黒髪黒目の人間は珍しい。


 そして、黒髪黒目のうち一人が、残る黒髪黒目をまるで連行している。何事だよ。

 あの塔があるところは国ではなさそうだけど、ベルザ王国みたいな門番が居たら、まず通してはもらえないだろう。


「まあ、別に私たち悪いことしに行くんじゃないんだし、事情を離せば通してもらえるよ」


「だと、いいんですけど……このフードも、破れちゃいましたし」


 不安そうにしているルリーちゃんは、自分のうなじあたりにあるフードを触る。

 それは、認識阻害の効果がある魔導具。それを被っていたおかげで、ルリーちゃんはダークエルフだとバレなかったわけだ。


 魔導具ってことで、フードとはいえそれなりに丈夫にできている。

 でも、魔大陸に着いた時点で、破れてしまっていたたようだ。


 破れてしまえば、魔導具とはいえさすがに、効果は期待できない。

 試してみようにも、使用者をすでに認識してしまった相手に対して効果はない。つまり、元々ルリーちゃんがダークエルフだと知っている私に、認識阻害は効かないってことだ。


 また、認識阻害をしていても、ナタリアちゃんの"魔眼"相手のようにごまかせない場合も、ある。

 なので、すでにダークエルフだと知っている私たち相手に、魔導具の効果が生きているかは試せないのだ。


「一応、被っておいて。もしなにかあっても私が絶対に、ルリーちゃんを守るから」


「……はいっ」


 いろいろと、心許ない部分はあるけど。今の言葉に、嘘はない。

 私は、私たちは……向かう先を見据えて、歩みを進める。

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