438話 歩いて行こう



 ついに、人の住む大陸にたどり着いた。

 本当ならこのまま、ベルザ王国まで飛んでいってしまいたい。でも、それは難しい。


 クロガネが飛んでいたら、地上から見た人たちを驚かせてしまう。そうすると、最悪攻撃されるなんてことも。

 人に見えないほど上空を飛ぶにしても、酸素の問題とかあるし。


「だいぶ無理させちゃったしね」


 魔大陸を出てからずっと、クロガネに乗せて飛んでもらっている。

 クロガネの体力も魔力も規格外とはいえ、さすがに夜通しの飛行はきついだろう。


 その意味も込めて、クロガネには一旦休んでもらう。


「ありがとね、クロガネ」


『うむ。またなにかあれば、呼ぶといい』


 地上に着地して、私はクロガネを魔法陣の中に戻した。

 これで、ひとまずクロガネは休憩タイム、と。魔法陣の中だと、契約したモンスターは外にいるよりも回復のスピードが、早いらしい。


 今までは私たちが休憩タイムだったんだから、今度は私たちが頑張らないとね。

 さて、人の住む大陸とはいえ、ここは大陸の端。荒野が広がっている。


 私とルリーちゃんとラッへと……リーメイは、果たして歩けるんだろうか。


「ねえ、リーメイは……」


「わァー! ここが人間の国かァー!」


 振り向くと、リーメイは下半身……魚の尾ひれの部分を使って、器用に立っていた。

 瞳を輝かせて、あちこちを見回す。ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、移動していた。


 ……歩くってより、跳ねて移動している。


「まだ国じゃないけどね。リーメイ、勝手にどっか行っちゃだめだよ。ラッへもね」


「あーイ!」


「あーい!」


 うん、いい返事。なんだか、子供が二人増えたみたいだ。

 ……元のラッへを知っていると、微笑ましいどころか少し痛々しくすらあるけど。


 こんな広くなにもないところで、早々はぐれないだろうけど、勝手に動き回らないよう注意しないと。

 それから……


「こいつらは、私が引っ張っていくから」


「……」


 私は手に持っていた、魔法のムチを引っ張る。

 ムチの先には、エレガたちの姿。まずエレガを後ろ手に拘束し、そこからまたムチを伸ばし、ジェラを拘束。


 同じように、レジーとビジーも同様に、縛っている。

 さすがに足を縛ったままだと動けないので、足だけは解放してある。口は拘束したままだ。


 魔法で浮かせて移動すればいいだろうって? 目的地までまだまだ先なのに、四人も魔法で浮かせてたら魔力が持たないよ。


「……なんだか、囚人を連行しているみたいですね」


「そう? でも、間違ってはないでしょ」


 私がムチを引っ張れば、ムチの先に繋がれたエレガがバランスを崩す。エレガがバランスを崩せば、エレガに繋がれたジェラも。

 ジェラがバランスを崩せばレジー、レジーが崩せばビジーと、このムチ一つで四人を拘束している。


 なんてお得なんでしょう。

 ただ、四人の反抗的な目が気になる。なにか言いたいのか、口をもごもごしている。


 ふふ。外してやらないぞ。


「じゃ、行こっか」


「でも、どの方角がベルザ王国か、わかるんですか?」


「……」


 うーん、どの方角が、か……

 とりあえず見渡す限りの荒野。人の住む大陸っていっても、端っこだから周囲には誰もいそうにない。


 なら、人に聞くって手も使えないか……


「まあ、とりあえず歩いてみようよ」


「だ、大丈夫でしょうか」


「まあなんとかな……ん?」


 魔大陸とは違うんだ、歩けば人に会えるはず。そしたら、聞いてみればいい。

 そう思っていた私に、精霊さんが語りかけてきた。


 それは、他の人にはきっと、聞こえないもの。

 精霊さんの言葉に耳を傾けて、私は一方向を見た?

 

 まあ、精霊さんの言葉っていうのは私たちが話すようなものとは、違った次元にあるものだけど。


「あっち」


「え?」


「あっちの方角だって、精霊さんが教えてくれた」


 指さした方角……その方に進めと、精霊さんは教えてくれた。

 私が困った時に、精霊さんは力を貸してくれることがある。魔大陸では、精霊さんの苦手な環境だったから、力を発揮することはできなかったけど。


 こうして精霊さんが教えてくれたことに、間違いはない。昔から、そうだった。

 だから私は、その方角へと迷うことなく、足を進めた。


「わー、もしかしてエランって、精霊とお話できるノ!?」


 今のやり取りを見て、精霊さんとの対話を感じ取ったリーメイが、目を輝かせながら聞いてくる。

 私はちょっと鼻が高くなり、ちょっと自慢するように胸を張る。


「まあねっ。精霊さんと私は、友達だから!」


「へェー。精霊とは、契約するのも難しいし、契約できたとしてもその関係を深めるのは、よっぽど難しいって聞くのニ。すごいんだねエランっテ」


「えっへへへへ」


 おだてられて、私の気分は良くなる。

 これまで、精霊さんと契約しているのをすごいと言われたことはあるけど、仲良くしているのがすごいと言われたのは、初めてだ。


 なんだか、嬉しいかも。


「リーメイは、精霊さんとは?」


「ンー。リーは、魔法は得意なんだけど、魔術は使えなイ。精霊と契約、できてないから」


 リーメイは、その場で手のひらに水を生み出して見せる。魔法だ。

 でも、使えるのは魔法だけ。精霊さんと契約できていないので、魔法は使えないのだと、リーメイはしょんぼりしていた。

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