436話 帰り旅、人魚を連れて



 魔大陸から帰る途中、『ウミ』で溺れかけていたニンギョ、リーメイ。

 そんな彼女が、私たちに着いてきたいと言って、目を輝かせていた。


「え、でも……」


 突然のことに、さすがに私もすぐに答えることはできない。

 自分の知らない地に興味を惹かれる感覚は、すごくわかるけど……


 いいのだろうか? いや、本人が頼んでいるんだから、いいも悪いもないだろうけど。


「お願イ! ダメ!? 迷惑!?」


「わわっ」


 なんて言葉を返すべきか悩んでいると、グイグイ来るリーメイに手を掴まれる。

 両手に掴まれ、潤んだ瞳を向けてくるリーメイを見ていると……なんかこう、こみ上げてくるものが、あるよね。


 それに、下に視線を向けたら、こういい感じにおっぱいがあるわけで……


「エランさん?」


「! な、なんでもないよ!?」


 後ろからルリーちゃんに話しかけられ、はっと我に返る。私、なにも考えてなかったよ!?

 それから、こほんと咳払いをする。


「わ、私は別に、構わないけど……」


 そもそも、リーメイの気持ちを私が決めていいわけじゃないし。


「でも、リーメイはそれでいいの? 私たちの国に来るってことは、ここを離れるってことで……

 家族や、友達もいるでしょう?」


 リーメイの気持ちを尊重してあげたいけど、不安要素はある。そもそも私が気にすることか、とは思うけど。

 ただ、私の言葉を受けてリーメイは……


「家族……お父さんもお母さんも、いなイ。友達モ。リーは人魚なのに泳げないから、みんなからバカにされてタ。仲の良い子は、いなイ」


 少しうつむいて、表情を暗くしつつ……そう、つぶやいた。

 嫌なことを聞いてしまったみたいだ。


 両親も友達もいない、か。だからこの場所にいるよりも、新しい場所に行ってみたい。それが、リーメイの願い。


「そっか。

 ……なら、行こう。一緒に」


「! うン!」


「あ……いいよね?」


「私は、エランさんが決めたことに異論はありません」


『ワレも、問題はない』


 みんなの意見も賛成のようだ。

 なので、帰る旅にニンギョのリーメイが加わることになった。


 空から見る景色は初めてのようで、リーメイは下に広がる景色に目を輝かせていた。


「わぁー、すごいすごイ!」


 初めて空からの景色を見る、という点ではルリーちゃんや、今のラッへと同じようなものだけど、そのはしゃぎ方は子供のようで微笑ましい。

 そして、そんなリーメイの姿をじっと見ているラッへ。


 初めて見る人物を、警戒でもしているのだろうか? 子供って、初めて会う人は人見知りするって聞くし。

 そう、思っていたんだけど。


「……おいしそう」


 ……なんだか、とても不吉な言葉が、聞こえたんだけど?


「ラッへ、ダメだからね?」


「! う、うんっ、な、なんでもないよ!?」


 ……なんか、ちょっとデジャヴュを感じるな。

 ラッへは、わかりやすく視線を泳がせている。


 ニンギョの下半身は、魚のものだ。そりゃ、もしも本物の魚と同じものなら、食べられるんだろうけど……

 ……魚って、そういえば料理で出てきたものしか見たことがない。料理で出てきたものは、当然切られて調理されるものだ。


 調理される前の魚の姿を、どうして私は知っていたんだろう。


「って、エレガがそう言ったからじゃん」


 上半身が人間で、下半身が人間だと、エレガがさっき言ったんじゃないか。自分で考えておいて、自分で解決。

 そのエレガは、目を押さえたまま転がっている。また拘束しておこうかな。


「あ、私ルリーって言います」


「私、ラッへだって!」


「リーはリーメイ!」


 ルリーちゃん、ラッへ、リーメイはそれぞれ自己紹介をしている。

 うんうん、なかなかに和む景色だ。


 まさか、帰りがけにニンギョを乗せることになるとは。

 多分、みんなもニンギョ見たことないんだろうなぁ。ピア先輩とかマーチさんあたり、めちゃくちゃ興味を示そう。


 いや、みんなのところに姿を見せる前に、まずは服を着せなきゃダメだよね。

 本人がそれでよくても、さすがに上半身裸のままっていうのはまずいだろう。


「わぁー! リーメイのおっぱい大きいー!」


「ありがトー!」


「髪長ーい! さらさらー!」


「ありがトー!」


「……」


 リーメイに……リーメイのおっぱいに顔を埋めている、ラッへの図。

 なんだろうこの、見てはいけないものを見ている気分は。


 とはいえ、波長が合うのか、すぐに仲良くなったようだ。

 まあ、それならそれで好都合だけども。


 三人で仲良く話す姿に、和む……


「……ニンギョは、エルフ族に悪感情を持っていないのかな」


 ルリーちゃんとラッへと笑っているリーメイの姿は、普通だ。二人を恐れている姿も、敵視している様子もない。

 エルフ族は、他の種族に良くない感情を持たれている。魔族だって、そうだった。


 ガローシャみたいに、受け入れてくれる人もいたけど……未来予見していたのと、エルフ族というよりルリーちゃんやラッへ個人を見てくれたおかげだ。


 リーメイが個人を判断するには、まだ会ったばかりすぎるよなー。

 というか、そんな高度な真似ができるとは思えない。


『人魚族は、感性が他の種族と違うと聞くからな。そういうものなのだろう』


「そういうものなんだ」


『そういうものだ』


 新しいメンバー、ニンギョのリーメイを連れて、空の旅は続く。

 広大な海の向こうに、私たちが住んでいた大陸が見えるのは、いったいいつになることだろう。

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