403話 ドラゴンの生態




 ……ドラゴンという生き物。その数は、決して多くはない。

 生息地はまちまちで、あらゆる大陸に己の住処を築き、静かに暮らしていると言われている。


 ドラゴンについては、まだまだ謎なことが多い。

 ただ、単なるモンスターというカテゴリーには含まれず、魔物や魔獣といった、魔石により進化した生物でもない。


 その姿を見た者は少なく、ドラゴンを想像するそのほとんどは、本の中に描いてある絵などから予想されたものにすぎない。

 ただ、本に書かれている、という事実は、ドラゴンが実在するのだということを知らしめるには充分だった。


 伝説上の生き物、ドラゴン。その姿も生態も、多くが謎に包まれている。

 だからもし、ドラゴンと対峙するようなことがあれば……自分が持っている、あらゆる常識は通用しない。そう考えたほうが、いいだろう……


 ――――――


「ギャオオォオオ!」


 魔獣の頭、二つあるうちの一つが、大きな悲鳴を上げる。

 魔力を込めた足から繰り出した、かかと落とし。結構効いたはずだ。


 そして私は、浮遊魔法でクロガネの背中へと着地する。


「ちっ、やっぱつえぇなぁドラゴンってのは」


 エレガは、どこか楽しそうだ。この状況、わかっているんだろうか。

 このまま一気に、クロガネの力で倒せるんじゃないか。クロガネ様様だ。


 エレガたちさえ倒せば、下の魔族たちの戦争も終わる。倒して、ルリーちゃんに謝らせて、それから捕まえて牢屋にでもぶち込んでもらう。


「よし、クロガネ! 一気にあいつらやっつけちゃおう!」


『うむ』


 クロガネが味方で、本当に頼もしい。

 あの強力な魔獣たちも、一瞬で倒してしまった。私じゃ、あんなあっさりとはいかなかっただろう。


 まだまだ私は、クロガネより弱い。クロガネと契約している以上、クロガネにふさわしいパートナーになるために、頑張らないと!


「キャー!」


「!」


 クロガネによる、攻撃準備……そこへ、鋭い悲鳴が聞こえた。ルリーちゃんのものだ。

 私は弾かれたように、下を見た。下に残してきたルリーちゃんと、ラッヘ。二人になにかあったのか?


 目を凝らして、下を確認する。そこには、ルリーちゃんとラッヘと、その正面に……


「エレガ……!?」


 エレガが、いた。でもおかしい。

 エレガはだって、魔獣に乗ったままだ。クロガネと対峙している魔獣の上に。


 じゃあ、下にいるのは……


「まさか、分身魔法……!?」


 考えられるのは、分身魔法。ここにいるエレガも、下にエレガも……どっちかがそっくりさんでないのなら、分身していると考えるのが自然だ。

 こいつ、いつの間に……!


 今のラッヘじゃ、エレガには……

 それに、ルリーちゃんも……


『契約者よ、下が気になるなら行くがいい』 


「クロガネ……」


『あの程度の奴ら、ワレだけで充分だ』


 なんて、頼もしい言葉だろう。それに、言葉だけではない……実際に、大丈夫だという気持ちが伝わってくる。

 だから私は、クロガネに言葉を任せ……下へと、飛び降りる。


 ルリーちゃんに手は、出させない!


「せいやぁ!」


「おっと!」


 着地と同時に、飛び蹴りでもぶつけたかったけど、そうはうまくいかない。避けられてしまった。

 でも、ちゃんと来られた。ルリーちゃんを庇うように、立つ。


「てめえ……」


「ヤッホーラッヘ。ちょっとピンチだった?」


「んなわけねえだろっ」


 素直じゃないラッヘは、やっぱりピンチを認めようとはしない。まあラッヘらしいけど。


「エランさん……」


「ごめんね。あいつら全員上にいたから、ここは安全だと思ってた」


 もっといろんな可能性を、考えるべきだったか。

 これまでエレガたちは、こういう魔導を使ってこなかったから、使えないんじゃないかって無意識に思ってたのかもしれない。


「おいおい、大丈夫か?」


 二人を後ろに庇う私に、エレガが言った。


「なんのこと?」


「いやぁ……無防備に、背中さらしといてよ」


「はぁ?」


 こいつは、なにを言っているんだろう。無防備に背中をさらす?

 私の背後にいるのは、ルリーちゃんとラッヘだ。それとも、ラッヘが背中を狙っているとでもいうのだろうか。


 そんな引っ掛けには、かからない。


「手間が省けたよ。ルリーちゃんの目の前で、土下座させてやる」


「ならその女の前で、無様に殺してやるよ」


 ……その直後、私とエレガが繰り出した拳が、ぶつかりあった。

 魔力を込めた、一撃。それにエレガは、対抗してくる。


 さっきと同じだ……エレガの打撃が、必要以上のダメージを与えてくる。

 まるで、私の魔力の壁なんて、関係ないとでも言うように。


「っつつ……」


「ちっ、馬鹿力が……」


 誰が馬鹿だこの野郎。

 でも、困ったな。エレガの力は未知数だし、決め手にかける。それとも、魔術で一気に燃やしちゃうか?


 そう、考えていたときだ。


「うっ……ぐ!?」


 背後にいるルリーちゃんが、突然苦しみだしたような声を、漏らしたのは。


「! ルリーちゃん、どうかした!?」


「は、ぁ……わ、かんない、です……でも、なんだか……」


「ひひ、やっとか」


 苦しむルリーちゃん……その姿を見て、エレガが笑った。


「なにがおかしい? なにか知ってるの!?」


「知ってるの、ってお前……そりゃそうだろ。なんのために、ダークエルフをこの魔大陸に、転送させたと思ってるんだ」


 笑いをこらえきれないのか、お腹を押さえているエレガは、言う。

 ルリーちゃんに、なにかが起こっている……それは、ダークエルフだから……それは、魔大陸だから……?


 ダークエルフが魔大陸にいることが、なにか関係があるとでも、いうのか?

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