402話 異変の正体



 体が……変だ……!

 体が重いし、ただのパンチが痛いし、自分の意識とは関係なく注意がそらされるし……


 魔力が、吸われているし。


「っ……私に、なにをしたの……!」


 魔大陸という環境のせいで、体に異変が起きている……という可能性も、考えられるけど。

 このタイミングは……素直にそう考えるには、ちょっと難しい。


 このタイミングってことは、エレガたちのなんらかの力のせい……って考えるのが、自然だ。


「ははぁ、それを素直に話すと思うのか?」


 私を見下ろしながら、エレガが笑う。

 それは、人をバカにしたような笑い方だ。


「けどまあ、予想は合ってるよ。お前の体の不調は、俺たちの能力みたいなもんだ」


 ……やっぱり、そうか。

 ただ、これがエレガたちの魔導の力だとして……魔力の気配を、全然感じないのはなんでだろう。


 いや、それよりも、だ。


「あーんっ、んん……わっ、お姉ちゃんの、すっごい濃い……っ」


 私の魔力を、食べている……それは、ビジーちゃんの仕業だ。

 魔力を、食べる? しかも、人の魔力を? そんな力、聞いたことない。


 聞いたことない、けど……


「このままじゃ……」


 いずれ、魔力を全部食い尽くされてしまう。そんなこと、防がないといけない!

 どれだけ膨大な魔力でも、吸われ続けたらなくなってしまう!


 だから私は、ビジーちゃんを止めるために、意識を……


「……っ、なん、で……!」


 ビジーちゃんに向けようとした意識は、強制的にジェラへと向けられる。そのせいで、体の動きまで止まってしまう。

 これは、ジェラの力か……!


 魔力を食うのがビジーちゃん。

 意識を強制的に向けさせるのがジェラ。

 さっきの、殴られたらめちゃくちゃ痛かったのがエレガ。

 なら、体が重くなったのはレジーの力か……!


「はは、このままなにもしなくても、勝手に死にそうじゃねぇか」


「油断しないの。あいつは得体が知れないんだから」


「ちっ、ホントならこの手でぶっ飛ばしてやりたいのに」


 こいつら……私をじわじわと、倒すつもりか。

 満足に動けず、魔力も尽きたところで一気に……ってことか。


 私一人じゃ、どうしようもない……

 ……一人なら、ね。


「グォオオオオオ!」


 咆哮を上げ、クロガネが大きく羽ばたく。たったそれだけで、周囲には突風が起こる。

 もちろん、私たちの周りにも。


「ちぃっ、ドラゴンが……!」


「はっ、関係ねぇよ! 私の能力で沈めてやる!」


 クロガネの突風、それに吹き飛ばされないようにしていたエレガたち。そこへ、レジーが不敵な笑みを浮かべていた。

 右手をクロガネにかざして、能力を使うのだと言う。


 私の体を襲った、体が重くなる現象……あれがレジーの能力なら、クロガネにも私と同じことが起こるのか……!?

 そう、心配したけど……


『薄汚い人間の力なぞ、ワレに通じると思うか!』


 その言葉は、私にしか聞こえない。だからこそ、レジーは自分の能力が通用しないことに苛立っている。

 レジーの力は底が知れないけど、クロガネもまた、凄まじい力だ。


『対象のやる気を削ぐ……怠惰にする、といったところか。契約者の体が重いのは、それが原因だ』


 レジーの力を受け、それが通じず、さらには能力の解析までしてくれる。

 それは、やっぱり私も聞いたことがない力。相手のやる気を削ぐ、なんて。


 ただ、その力のせいで、体が重いのは確かみたいだ。


「怠惰の、力……」


『それに、あの娘は……まるで暴食の如く、魔力を食い尽くそうとしている。並の魔力であれば、食い尽くされてしまう。

 だが……』


 続いて、ビジーちゃんに目を向ける。

 彼女の力は、暴食だと……それが、魔力を食べている力の名前。


 それでも、クロガネが平然としている。それどころか、自ら魔力を高めて……私にもその魔力が、流れ込んできた。


「クロガネ、なんで……」


 魔力を食われているのに、さらに魔力を増やすなんて。

 それでは、食われる魔力が増えるだけだ。


 疑問に思った。でもそれは、思ったよりも早い形で答えがわかった。


「っ、ぷ……ぅ、もう、お腹いっぱい……」


 魔力を吸われていく感覚が、なくなっていく。

 それと同時に、ビジーちゃんがお腹を擦って、お腹いっぱいだと口にした。


 それを聞いて驚くのは、まさかのエレガたちだった。


「は、はぁ? お腹いっぱいだと? お前が!?」


 彼女の言ったことが、信じられない、と言わんばかりだ。

 暴食の力を持つ彼女が、お腹いっぱいになることなどこれまでなかった……そういうことか。


 そして、クロガネのやった方法も単純明快。


『それが食べるという力ならば、食べきれないほどの量を流し込めばいいだけのこと』


 こういうことらしい。ただ、こんなのできるのはそうはいない。ほとんどは、相手がお腹いっぱいになる前にこっちの魔力が尽きてしまう。


 なんにせよ、おかげで魔力を吸われることはなくなった。


『契約者よ、飛べ!』


「はいよ!」


 クロガネの口から、竜魔息ブレスが放たれる。

 その直前に私はジャンプし、浮遊魔法で空を飛ぶ。


 私がいた場所……つまり魔獣もろとも、強力な魔力の塊が飲み込んでいく。

 そのはずだけど……


「ゼータ!」


「ギャオオオオ!」


 二つの頭から放たれる攻撃が、竜魔息ブレスと相殺する。弱っていても、魔獣は魔獣ってわけか。

 だったら……


「! おい、なにする気……!」


「お、りゃあー!」


 今、クロガネに意識が向いている今がチャンスだ。

 私は空中を蹴って飛び、魔獣の頭上へ。そして……


 ラッヘがクロガネにやったときのように。私も、魔獣の頭にかかと落としを食らわせた。

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