401話 転生者の目的
ルリーちゃんが気絶した後も、私のユメの中に出てきた彼女の記憶……その中にいた、小さな女の子。
最後は、まるでノイズがかかったようにその子の顔も、声もよくはわからなかった。
でも、今はっきりした……あの時の女の子は……
「あれ、なんで知ってるの?」
この、ビジーちゃんだ……!
彼女たちは、私がルリーちゃんの過去を見ていることを知らない。
だから、私がそのことを知っているのも、不思議なのだろう。
「ま、いいか。それより、お姉ちゃんすごい力だね……あの大会のときも、思ってたけどさ。
ね、私たちと一緒に、世界で暴れまわらない? きっと楽しいよ」
「……は?」
この子は、なにを言っているのだろう……世界で、暴れまわる?
そんなこと、できると思っているのか……いや違う。やっているのか、それを。
あちこちで暴れまわって、ルリーちゃんの故郷以外にも、あんなことをして……
「そんなことをして、なにが目的なの」
「目的? そんなの、ただ楽しいからじゃん?」
……それはまるで、純粋な子供のような瞳で……
「せっかく、こんな魔法や魔物っていう、ファンタジーな世界に転生したんだもん。好きなように、好きなことだけしていたいじゃない!」
「……なに、言ってるの? てんせ……なんだって?」
なんだろう、ビジーちゃんはなにを言っているんだろう。
テンセイ、がなんとかって……そんな言葉、以前どこかで聞いたような……
あれは確か、魔導学園に入学したばかりの頃。私と一緒に、理事長室に呼び出されたヨルが、そんなことを言っていた……
『あんたも……転生者か?』
いきなり迫ってきて、こんな意味不明なことを、言った。だから私は、ヨルを不審者認定したんだけど。
ヨルとおんなじ言葉を、ビジーちゃんも……?
「……あれ、その反応……お姉ちゃんも、"そう"じゃないの?」
この子も……ヨルみたいに、私のことをテンセイがなんとかって?
「おんなじ黒い髪と目だし、てっきり……あ、今は髪が白いか。なにそれ。
それとも、聞いた通り記憶がないから忘れてるだけ……?」
「なんでもいいけど、ビジーちゃんの提案はお断りだし。この先、またあんなことをするつもりなら、止めるよ」
友達の大切なものを壊した奴らと、一緒になにかをするつもりはない。
この先も、あんなことをするならここで止めるし……そうじゃなくても、とっ捕まえてルリーちゃんの前で謝らせる。
謝ってチャラなんてことはないけど、せめてそれくらいはさせないと。
「ふぅん、止めるかぁ。
……お姉ちゃんにできるかな?」
「……!」
いつの間にか、囲まれているな……
結構思い切り殴ったりしたんだけど、思いの外頑丈みたいだ。
正面にビジーちゃん、左右と後ろにエレガ、ジェラ、レジーがいる。
「その力がなんだか知らないけど、余裕見せすぎだよ。わざわざ私と話を続けて、みんなが回復する時間を与えて。
あの強力なドラゴンからも離れて、エルフとダークエルフは下」
「別に、余裕ってわけじゃないよ」
こいつらの力は、得体が知れない。
ルリーちゃんとラッヘを下に残したのは、戦いに不向きな場以外に理由がある。こいつらは、どういう方法かエルフ族の魔導が通用しない。
相性の悪い相手と、二人をぶつけるわけにもいかない。
「髪が白いのと、その膨大な魔力、関係があんだろうが……その力、長続きしねえだろ」
エレガが、言う。自分では髪が白い自覚はないけど、今の私は髪が白いのか。
これが、大会のときと同じ現象なら……確かに、長続きはしないだろう。
これは、私の魔力をめちゃくちゃ消費するみたいだし。
……私だけなら、ね。
「じゃあ、試してみよっか!」
「!」
私は振り向き、即座にエレガに突っ込んでいく。
虚を突かれたのか、エレガの反応は鈍い。私を囲んだのは私を逃がさないためだろうけど、私は逃げるつもりはない。
そして、私を囲んだのは失敗だ。四人が一塊になっていたら面倒だけど、これなら……
「一人ずつ、倒せる……!」
エレガの顔面へと、拳を繰り出す。それはエレガには捉えきれない速度で、放たれた。
それが、エレガに直撃する……と、思った。
急に、体が重くなった。
「っ!?」
なんだ、これ……さっきまで、体が軽かったのに。なにかに乗られたように、ズシンと……
いや、重いのは物理的にじゃなくて……精神的に、だ。体が重い……なにも、したくないという感情が生まれる。
殴るどころか、こうして立っていることすら、面倒に……
「ふん!」
「ぐぁ!」
そんな私の隙を、エレガが見逃すはずもない。私のお腹に、拳が突き刺さる。
今の私の体には、膨大な魔力が流れている。意識しなくても、魔力で鎧を作っているようなものだ。
なのに……ただのパンチが、とても重い……!?
「この……っ!」
とっさに、エレガの手首を掴む。今度こそ、攻撃を……そう睨みつけた、直後。
私の意識は、目の前にいるエレガではなく……ジェラに、向いていた。
なんでだ? 目の前にいるエレガより、ジェラのことが気になって仕方がない。
強制的に、注意をそらされて……
「おら、どけ!」
「くっ」
エレガに蹴り飛ばされ、距離を取らされる。
なんだこれ、さっきからおかしい……なにかが、おかしい。
体の不調。それに、エレガたちが不気味に笑っている……
あいつら、私になにかしたのか……!?
「お前ら、なにを……!?」
続いて、異変が起こる……膨大にあふれ出していた魔力が、まるで吸い取られていくように、減っていく。
魔力が、吸われ……いや、これは、食べられている……!?
「イタダキマァス」
魔力が吸い取られるその先に……大きく口を開けた、ビジーちゃんの姿があった。
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