399話 ドラゴンと魔獣



「あ、新しく魔獣が二体……」


「はっ、三体の魔獣に憎たらしい顔が四つ……上等じゃねぇか」


「……」


 再び空に亀裂が走り、その中から現れたものがあった。

 それは、白い魔獣……しかも二体。元からエレガたちが乗っているものを合わせて、三体もの魔獣だ。


 一体は、二つの頭を持つ魔獣。ただ、手足がなく、丸みのある体に顔と翼が生えている姿だ。

 一体は、球体の体に口のようなものがあり、六枚の翼で空を飛んでいる。

 一体は、長細い体に無数の足のようなものと小さな翼がいくつも生えている。


 いずれも空を飛んでいる、変な姿の魔獣だ。


「気持ち悪いフォルムしてるが……」


「クロガネと、同等の力を出せてる……ってことですよね」


 さっきの魔獣は、クロガネの攻撃と相殺するほどの力を見せた。

 魔獣は二つの顔から放った攻撃だったけど、相殺させられたのは同じことだ。


 それに匹敵するかわからないけど……少なくとも、これまでに見てきた白い魔獣は、みんなすごい力を持っていた。

 それが、あと二体もいる。

 加えて、エレガたちもか……


「しっかし、魔大陸に飛ばしたお前らと、こんな早く再会することになるとはな。この広い大陸で出会うなんざ、もはや運命なんじゃね!」


 ……運命、ね。

 エレガが高らかに言うけど、私はまったく惹かれない。運命なんて、女の子が好きそうな言葉だけど……


 あんなやつと出会う運命なんか……


「くそ食らえだよ」


「……下品な言葉だなぁ。それに……俺、お前になんかしたか? そんなこと言われるいわれはないと思うけど」


「私の友達にひどいことしておいて、どの口が」


 エレガの言うように、私はエレガたちと会ったのはこの間だ。会ったばかりの相手、と言っても良い。

 そんな相手を、嫌いになる理由……それは、一つだけだ。


 私の友達、ルリーちゃんを傷つけたから。それ以外の理由なんていらない!


「クロガネ、私を乗せて!」


『心得た!』


 私はクロガネの頭に飛び乗る。

 そして、ルリーちゃんとラッへに向かって、叫ぶ。


「二人は、援護をお願い!」


「んだと? 私も乗せろ!」


「……ラッへは、万全じゃないでしょ。それに、空中線だとあまり人数は乗らないほうがいい」


 この魔大陸で、ラッへは全力のパフォーマンスができない。ルリーちゃんは、相手が仇でも傷つけることを躊躇する。

 なら、私がやるしかない。クロガネと契約している私なら、魔力が尽きてしまう心配もない。


 それに、契約で繋がっているからこそ、以心伝心で行動することができる。


「行くよ、クロガネ!」


「ゴォォオォ!」


「っはは、おいおいまさかドラゴンを使い魔にしたのか!? とんでもねぇ女だな!」


「ちょっと喜んでる場合? ドラゴン相手なら、魔獣でもやばいんじゃないの」


「なぁに、こっちは三体もいんだ。そら行け!」


 迎え撃つのは、二体の魔獣。球体とムカデだ。

 エレガたちが乗っている奴は、動かない。さっきのクロガネのダメージが残っているのか、二体で充分だと思っているのか。


 後者だとしたら……


『なめられたものだな!』


 大きな雄叫びを上げ、クロガネは球体魔獣へと体当たりをかました。

 巨体から繰り出される、勢いのある体当たり。それは、乗っている私にも衝撃が来るけど……大丈夫、堪えられる。


「ちっ、なにやってやがるイータ!」


 体当たりされた魔獣は、クロガネの足に噛みついた。球体だから忘れそうになるけど、口があるんだよな。

 クロガネの硬い鱗を噛み切ることはできない……けど、噛みついてはいる。頑丈な歯だ。


 クロガネの身動きが、取れなくなってしまう。


「やりなシータ!」


 ムカデ魔獣が、今度はクロガネに体当たりしてくる。さらに、無数の足がまるで針のようにクロガネの鎧に突き刺さる。

 両側から魔獣に押さえ込まれる。それだけではない。


『……っ、麻痺毒か……むぐ!』


「えっ」


 噛みつかれた歯から、突き刺さった足から、なにかを注ぎ込まれている。それがなにであるか、クロガネには一番わかっている。

 麻痺毒……それがどういうものか、聞くまでもない。


 しかも、伸びた足がクロガネの口を強制的に閉じさせる。

 次第に、クロガネの動きは鈍くなっていく。それに、クロガネの体調に異変が起こったせいか、私も……っ……


「そら、やれゼータ!」


「!」


 やばい……身動きが取れない状態で、クロガネの口を封じた状態で、さっきの攻撃を撃つつもりか。

 このままむざむざ、やられるわけにはいかない。こうなったら、私がなんとか……!


「よし、撃……」


闇幕ダークネスカーテン!!!」


 その瞬間……ゼータと呼ばれた魔獣の周囲を、黒いモヤが覆った。魔獣だけでなく、エレガたちも一緒に。

 この魔術は、闇の……


「ルリーちゃん!」


「エランさん、今のうちに!」


「うん!」


 ルリーちゃんのおかげで、ゼータの気をそらすことに成功。視界が突然封じられて、攻撃を撃ってこない。


「くそっ、なんだこりゃ……あのダークエルフか!」


 それに、エレガたちも!


 私は、クロガネの魔力を共有し作り上げた魔力弾を球体魔獣イータにぶつけ、クロガネは自分を縛りつつあるムカデ魔獣シータの足を無理やり引きちぎる。

 嫌な声を上げ、魔獣は離れた。


 その隙を見逃さず、クロガネはその場で激しく一回転。太い尻尾が、強烈に魔獣に激突し、吹っ飛ばす。

 二体が固まり、吹っ飛んでいく無防備なところへ……


「ゴォオオオオオオオ!!!」


 竜魔息ブレスを、叩き込んでいく。

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