398話 脅威との対決



 ドォオオオオオ……!



 上空に放たれたのは、クロガネの竜魔息ブレスだ。高密度の魔力の塊を、一気に放出する。

 正確には、クロガネが狙ったのは空ではない……空に現れた、"あいつら"だ。


 クロガネの攻撃が直撃すれば、ただでは済まないだろう。そして、竜魔息ブレスはちゃんと命中した。

 なのに、なんでだろう……全然、安心できないのは。


「おい、今の……」


「あぁ……クロガネが、不穏な空気を感じたからね。とりあえず一発かましといた」


「思い切りよすぎるだろ!」


 そうか、ルリーちゃんとラッへからすれば、いきなりクロガネが上空に攻撃したように見えるのか……

 私だって、クロガネに言われなきゃ、上空の邪悪な気配には気づかなかったわけだし。


 私たちに気付けないような気配に気づくなんて……やっぱり、クロガネはすごいや。


「な、なんだ今の……」


「構うな! 行け!」


 上空の爆発に、魔族たちは一瞬あっけにとられるけど……すぐに、戦いを再開する。

 あっという間に激化していく戦いは、ほんの少しのことじゃ止まりすらしない……ってことか。


「あっ、煙が晴れます!」


 ルリーちゃんが指差す先では、クロガネの攻撃により上がっていた爆煙が、晴れつつあるところだった。

 だんだん、シルエットもはっきりしてきた。


 そこにいたのは、やっぱり……


「あーっ、びっくりした。なんだってんだ急に」


「……エレガ!」


 パンパン、と服の汚れを払いつつ首を振るのは……予想していたとおり、エレガだ。

 白い、飛行型の魔獣の上に乗っている。クロガネの攻撃を受けて、まだ飛んでいられるなんて……頑丈な魔獣だ。


 それでも、かなりのダメージは通っているはずだ。


「なんだってだ、いきなり……」


「魔族の流れ弾にでも触れたか……?」


「おーおー、すげー暴れ回ってやがるな」


 エレガ以外にも、ジェラとレジーの姿も見える。

 ガローシャの、言ったとおりだ。時間こそ違ったけど、彼女の言った人物がそこにいる。


 ……って、ことはだ……


「わー、あれが魔族か! あはは、面白い姿してる!」


 エレガたちに隠れていた影から、ひょっこりと顔を出す女の子がいた。

 その子は、まるで子供のようにはしゃいで、下を見回していた。その姿を見て、私はガローシャの言葉が嘘じゃなかったことを思い知った。


 なにかの間違いだと、思っててほしかった……


「……ビジーちゃん……!」


 前に、王都内であった黒髪黒目の小さな女の子……私をお姉ちゃんと言ってくれたりして、過ごした時間こそ少ないけど仲良くなったと、そう感じていた。

 なのに……なんでキミが、そんな奴らといるんだ……?


 あいつらは、まだ私たちに気づいていない……このまま、隙をついて倒すか。それとも……


「今の……あのドラゴンの仕業か。どっちかの魔族の……ん、ドラゴン?」


「うっは、すげー初めて見た! 魔物や魔獣とも違って……たん?」


 だけど、そりゃそうか……自分たちを撃ってきたのがなんなのか、誰なのか。理解するために探すよな。

 そしたら、そこにいるクロガネを見つける……そして……


「……なんで、お前らがここにいる?」


 私たちのことも、見つかっちゃう、か。


「それはこっちの台詞なんだけどな」


「……あのときのエルフ。それに、人間の……やっぱり、ダークエルフと一緒に、魔大陸まで飛ばされていたのか」


 ラッへもエレガたちを認識し、ジェラが私たちを見て冷たく言い放つ。

 私たちがここにいることに、疑問を持っている。魔大陸のどこかで野垂れ死んでた、とでも思われていたのか。


 まあそれは、この際どうでもいい。私が一番聞きたいのは……


「ビジーちゃん! なんでそんな奴らと一緒に……!」


 あの三人と一緒にいる、ビジーちゃんのことが気になって仕方がない。

 私が声をかけたことが伝わったのか……ビジーちゃんの視線が、私を捉えた。


「あれ、お姉ちゃんじゃん。

 ……なんだ、これもうバレちゃったじゃん」


 だけど、ビジーちゃんは……私を見て、不穏な笑みを浮かべていた。しかも、バレちゃった……なんて言葉を話して。

 その言葉がなにを意味しているのか……ビジーちゃんがあいつらと一緒にいることで、ある程度の予感はあった。


 でも……それが、確証に変わったかのようで。


「……そいつらの、仲間だったの?」


「んー……まあ、バレちゃったね?」


 先ほどと同じ言葉を……決定的な言葉を、口にした。

 ビジーちゃんも、エレガたちと同じ黒髪黒目だ。だけど、それであいつらの仲間だってのは考えたことがない……だって、私も黒髪黒目だから。


 私は、エレガたちの仲間なんかじゃない。だから、珍しい髪色なだけで、ビジーちゃんは普通の女の子だと、思っていたのに……


「おい、ボサッとしてんな! くるぞ!」


「!」


 切羽詰まったラッへの声に、弾かれたように反応する。

 上空では、飛行型の白い魔獣が"二つの顔から"同時に魔力の塊を放つ。


 それに対抗するように、クロガネもまた竜魔息ブレスを放つ。

 ぶつかり合った魔力の塊は、多少の拮抗を見せ……相殺し、爆発した。


 あの白い魔獣……やっぱり、只者じゃない。

 それに……


「くく、こいつぁ思わぬ展開だ……おもしれぇ。

 ゼータ、イータ、シータ……! 全力であのドラゴンを殺せ!」


 続くように、新しく二体の白い魔獣が……現れた。

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