396話 その時はきたる



「てか、あの人間たちが現れるのはいいとして、弱点とかわからねえのかよ」


 現れるエレガたち、その弱点……未来を知るガローシャなら、それを知っているんじゃないかと、ラッへが聞く。

 だけど、ガローシャは首を横に振った。


「残念ながら。彼らは白き魔獣を引き連れ、魔族を蹂躙する……としか」


「……」


 白い魔獣……エレガたちが操っている、魔獣。

 魔獣を操れるなんて信じられないことだけど、実際に操っているんだ。理由なんて考えても、仕方ない。


 他の魔獣よりも強い白い魔獣を、引き連れていたのなら……それは、かなり手強いってことだ。


「それでも、クロガネなら問題ないはずっ」


『無論だ』


「クロガネ……あの黒いドラゴンですね。まさかドラゴンと契約できる人間がいるとは」


 クロガネと魔力を共有すれば、私だって魔大陸でも戦える。

 クロガネ単体でももちろん強いけど……ゴルさんとの決闘のとき、ゴルさんがやっていた使い魔とのコンビネーション。あれをぜひやってみたいものだ。


「んじゃま、魔獣はクロガネに任せるってことでいいんじゃねえか。

 私らは人間を叩く」


「それはいいけど……ラッへは、戦えるの?」


「言ってくれるじゃねぇか……一晩休んで魔力は回復したし、条件は向こうだって同じだろ」


 魔大陸での魔法、魔術は威力の問題とかがある。存分には使えない。

 それでも、ラッへは弱きは見せない。実際、クロガネと戦ったときの気迫もすごかったもんな。


 相手が魔族やダークエルフならともかく、人間なら。魔法も魔術も使いにくい条件は、同じだ。

 ただ、それはあいつらも百も承知のはず。その上で、魔獣を率いて、ここへやってくる。


 その目的は、わからない。


「彼らに、私たちは蹂躙され……殺されます。死んだあとのことは、未来は見えませんので」


 ガローシャの見た未来は、自分たちがエレガたちに殺されるというもの。ただ、それは私たちが協力しない場合のはずだ。

 協力する未来では、どうなるのか。


「私らがあの人間たちを相手取ると、その後の未来はどうなんだ?」


「わかりません。ただ、あなたたちが人間たちを抑えてくれている間に、我らが他国との戦争に勝利した、としか」


「……そうかよ」


 その後も、今後のことについて話があるというが……とにかく私たちがやるべきことは、エレガたちを倒すことだ。

 それだけに集中してくれと、ガローシャは言った。


 話し合いは一旦終わり、部屋を出る。また数時間後……指定の時刻の少し前に、集まる予定だ。


「皆様、こちらへ」


 部屋を出て、私たちを案内してくれた魔族、名前をロゥアリーと言う。

 彼女に従って歩いていくと、広い部屋に通される。


 ここは……食堂、だろうか。



 くぅ……



「そういえば、お腹減ったね……」


 食堂に入った瞬間、腹の虫が騒ぎ出す。

 考えてみれば、昨日木の実を三人で分け合って以降、なにも口にしていない。


 思いの外おいしかったのと、お腹が膨れたのと……なにより疲れていたから昨夜は、なにも食べずに寝ちゃったんだよね。


「確かに、腹になんか入れなきゃいざってときに動けねえが……魔族が食うものが、私らの口に合うのか?」


 腹が減ってはなんとやら、だ。それに食欲は、抑えられない。

 なのでなにかお腹に入れたいが、まずラッへが疑問を口にする。


 昨日の木の実は、私たちも食べられたけど……魔族の食べるものが、私たちの口に合うのか。

 ラッへは単純な疑問から、聞いている。


「我々と、あなたがたとの味覚はどうやら、正反対のようなのです」


「正反対?」


「我々がおいしいと感じるものはあなたがたとにはまずく、あなたがたがまずいと感じるものは我々においしく感じる。そういうことです」


 ……じゃああの木の実、魔族にとってまずいものだったんだ。


「なので、食事に関しては問題ありません」


「お前らにとってまずいもん作れ、ってことなのに問題ないでいいのかそれは」


 ともあれ、私たちは食事をすることに。

 魔族のシェフが作ったものを、口にする。正直見た目は食欲をそそらないものだったけど、食べてみたら意外といけるんだこれが。


 ルリーちゃんもラッへも、おいしそうに食べていた。

 これを魔族はまずいと感じるんだから、生物の不思議だよなぁ。


 食事を終えた私たちは、軽く散歩がてら塔の外へ。私たちだけで移動するのは危ないけど、ロゥアリーと一緒なら問題はない。


「みんな殺気立ってるねぇ」


「戦争だって言われたら、仕方ないですよ」


 魔族は誰も彼もが、気迫に満ち溢れている。

 武器を持っている魔族、そうでない魔族……様々だ。


 ちなみに、昨日魔族が捕らえようとしていた魔物たち……魔物の暴走スタンピードは、クロガネのおかげで収まった。

 魔物だって、生き物だ。生物上、自分より上位の存在には逆らえないわけで。


 魔物は正気に戻って、あちこちへと帰っていった。魔物がどうして、人のいる大陸を目指していたのかは、わからない。

 けれど、まるでなにかに突き動かされているかのようだった。


「魔物を従えなくても、ここにいるみんななら勝てる……ガローシャは、そう言ってたよね」


「未来でそうだってな。魔物を操らなくても、勝てるだけの力は持ってるわけだ」


 ここにいるみんな、気が立っている。まだ時間はあるというのに、果たして緊張感を持ったままで大丈夫なんだろうか。

 そう、ちょっと心配になってきたとき……


「! て、敵襲! 北側から、大勢の魔族が攻め込んできます!」


「!」


 予想もしていなかった声が、上空から届いた。

 それは、高い見張り台に登っていた、見張りの魔族の声によるものだ。


 魔族が攻めてきた、だって……そんな、バカな。

 だって、ガローシャが言っていた時間まで、まだかなりあるぞ!?

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