395話 決戦は近し



 私たちは、用意された席に座る。

 この部屋には、私、ルリーちゃん、ラッヘ、そしてガロアズとガローシャ。それに、私たちを案内してくれた魔族。


 昨日とは違って、この部屋に一人、増えている。

 ってことは、この魔族は結構信頼できるってことなのかな。

 だってこういう場面で一緒に居るってことは、信頼してるんだと思うし。


「戦争について話そうってもうよぉ……たったこれだけでか?」


 まず口火を切るのは、ラッヘだ。ホントこの子は、気になったことをズバズバ言ってくれる。

 確かに、戦争なんてたいそうなものの話し合いにしては、たったこれだけの人数ってのはどうなんだろうか。


「これから話すことは、私の未来予見にも関することですので」


「すでに兵の士気については、信頼できる部下に一任している」


 だけど、二人にとってはこれだけの人数は想定内らしい。

 それに、その言い方だと……あの魔族も、ガローシャの未来予見については、知っているのか。


 あんまり公にはできない力なんだろう。夢に見るってことは、自分では制御できない類いのものだし。

 ……私も、似たようなものを昨夜見たって、言うべきだろうか……


 いや、少なくとも、ルリーちゃんのいる前では……


「ま、魔族同士の争いなんざ勝手にやってくれって感じだが……私らに、なにをやらせようってんだ?」


「やらせよう、なんて物騒なことは考えていません。

 ただ、お願いしたいことがあります」


 にらみを効かせるラッヘと、涼しい顔で受け流すガローシャ。

 エルフと魔族が、対面している……不思議な、空間だ。そこに、人間である私と、ダークエルフのルリーちゃんもいるんだから、余計に。


「お願い、ですか」


「えぇ。むしろ、これはあなたたちにしかどうにかできない問題です」


 緊張感のある視線を受けて、自然と背筋が伸びた。

 私たちにしかできないこと? なんだろうそれは。


「エレガ、ジェラ、ビジー、レジー……悪意を持った人間たちが、戦争に乱入してきます。

 あなたたちには、人間たちの相手をお願いしたい」


「!」


 ここで……その名前が、出るのか。

 ルリーちゃんの故郷や仲間を滅ぼし、私たちを魔大陸へ転送させた張本人。


 横目で確認すると、ルリーちゃんの表情は強張っていた。

 仇が現れる、と聞かされれば、そうなっても不思議ではないか。


「それも、未来で見たってのか?」


「えぇ。あなたたちが私たちに協力してくれた未来、協力してくれなかった未来……

 どちらの未来でも、必ず。多数の魔獣を引き連れて、双方の魔族もろとも蹂躙します」


 そういうことか……未来でエレガたちが現れるって情報を話すわけにはいかないから、情報を伝える人数を限っているのか。


 それにしても……なんで、あいつらがこの魔大陸に? それも、たくさんの魔獣を引き連れてだなんて。

 なにを考えているのか、さっぱりわからない。


「あいつらが現れる理由は、わからないよね」


「えぇ。ただ、あなたたちが協力してくれる未来では、あなたたちの姿を見て驚いているようでした」


 ……私たちを見て、驚いていた、か。ってことは、エレガたちは私たちを魔大陸に転送させたことはわかっていても、私たちがこの場所にいるとは知らないわけか。

 同時に、エレガたちの目的は私たちじゃない、ってこともわかる。


 私たちは、あいつらにとって予想外のカード……ってことか。


「……今の話を聞く限り、お前らが戦争に負けるのは、相手国の魔族が強いからじゃなく、人間の乱入でめちゃくちゃにされるってことだな」


「はい。魔族同士の力関係に関しては、我らの方が有利ですらあります」


「じゃあ、なんで向こうは、戦争を仕掛けようなんて……」


「戦争に、絶対はない。力以外にも、運も作用するのが戦争だ。……それに、仕掛けなければならない事情があったのかもしれん」


 そんなものは知ったことではないがな、と鼻を鳴らすガロアズ。

 彼の立場は聞いてないけど、この国で結構……いやかなり偉い人なんだろうな。


 じゃないと、そもそも私たちの存在を、他の魔族が認めないだろうし。


「魔族同士のいざこざは、お前らに任せろ、ってわけだ。

 これじゃ協力ってより、お互いの敵を任せ合う協定みたいなもんだな」


「そうですね。言葉というのは、難しいものです」


 だんだんと、目的ははっきりしてきた。私たちがなにをするべきか。

 エレガたちと会ったら、聞きたいこともある。この戦争に参加することで、知りたいことがわかるとはそういうことか。


 ただ、果たして私とルリーちゃん、ラッヘであいつらに勝てるだろうか。

 エルフであるラッヘは、魔大陸では充分なパフォーマンスができない。ダークエルフのルリーちゃんにとっては好ましい環境だけど、果たしてルリーちゃんが、積極的に人を害せるのだろうか。

 相手は、仇だ。それでも、ルリーちゃんは優しいから……


 私も、ラッヘと同じくあんまり力を発揮できない……あれ? そう言えばエレガたちも人間なんだし、条件は私と同じなんじゃないのか?

 それでも、油断はできないか……


「またクロガネ頼りになっちゃうかな……」


『ワレは構わぬぞ。力も有り余っているしな』


 口の中で小さくつぶやいた言葉に、頭の中にクロガネの言葉が返ってくる。

 召喚していなくても、契約を結んだモンスターとは会話ができる。これが、契約の強みだ。


 頼もしいことを言ってくれるなぁ、クロガネは。


「敵国の魔族が攻めてくるのは、今からおよそ五時間後……その約一時間後に、人間たちが現れます。

 それまでは皆さん、どうか英気を養っていてください」


 未来予見では、エレガたちが現れるのはあと、約六時間後か……

 いよいよ、って感じだな……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る