392話 今考えても
みんな、ダークエルフに関しては……嫌ったり、恐れたり、そういう感情を本能に刻み込まれているという。
そんな、まるで呪いのようなもの。
「誰が、そんなことを? どうやって?」
そんな、みんなの本能に刻み込む、なんて規模の大きなこと……素直には信じられない。
でも、ダークエルフに対するみんなの……ルリーちゃんに対するクレアちゃんの様子を見ていたら、一概に信じられないとは言えない。
ただ、それが本当だとして……そんなことが、果たしてできるのか、という疑問が出てくる。
「んなの私が知るかよ。ただ、事実としてそこにあるだけだ」
「……」
……まあ、それもそうか。ダークエルフを嫌う呪いをかけたのが誰かなんて、本人くらいにしかわからない。
そういう呪いがあるって知れただけでも、少しは進歩したような気もするけど。
けど、今の言い方だと、ちょっと疑問もあるな。
「でも私は、ルリーちゃんや他のダークエルフも、怖いとかは思わないよ?」
私はダークエルフに対し、負の感情を抱いたりはしていない。
私が世間知らずにしたって、本能に刻まれている呪いなら、私にもそういうのあるんじゃないか。
なのに、私にはそういうのはない。それはなぜか。
「バカだからじゃねえか?」
……バッサリだ。
「ま、なにも全世界の全人類がってわけじゃねぇ。てめえや、お友達の"魔眼"持ちの人間もそうだろ」
「"魔眼"持ち……ナタリアちゃん?」
「名前は知らねえ」
私だけじゃなく、ナタリアちゃんもルリーちゃんのことを友達だと思っている。
ナタリアちゃんの場合、"魔眼"っていうエルフの目を持っていたから、すぐにルリーちゃんの正体がダークエルフだと気づいた。その上で、仲良く接してくれた。
かつて、エルフに命を救われて、その目を貰ったって言ってたけど……
「うぅん……昔エルフにお世話になった人は、ダークエルフへの悪感情少なめなのかな」
ナタリアちゃんを思えばそうだ。私だって、師匠と一緒に暮らしていた。
そう考えると、納得できる部分もあるか。エルフは数が少なく、関わる人は少ないから、ほとんどの人がダークエルフに悪感情持ったままなんだろう。
そうすると、エルフ本人のラッへはルリーちゃんに対して、どう思っているんだろう。
「私か? はっ、そこのダークエルフより、てめえのほうが嫌いだな」
……またもやバッサリだ。
エルフだから他の人より呪いの効果が薄いのか、本能で刻まれた呪い以上に私が嫌いなのか……
悲しいなぁおい。
「私……もう、クレアさんたちとは、仲良くできないんでしょうか」
「そんなことないよ」
落ち込むルリーちゃんの、肩を叩く。
気分が沈んでしまうのはわかるけど、あれで終わりなんてこと、絶対にない。
「クレアちゃんは、ルリーちゃんの正体を知って混乱してる。でも、あそこには……ナタリアちゃんもいた。きっと、なんとか落ち着かせてくれてるよ」
ルリーちゃんの正体を知り、ルームメイトであるナタリアちゃんなら、クレアちゃんを落ち着かせてくれることもできるはず。
ルリーちゃんが危険でないってことも、わかってくれる。
「そのクレアってガキも、自分がダークエルフと同じ……いや、それ以上におぞましい姿になったってんだから、笑えるね」
相変わらず、ラッへの言葉は手厳しい。どこか棘がある。
おぞましい姿……って、言うのは……
「
あのときクレアちゃんは、一度死んだ……殺されたのだ。
けれど、ルリーちゃんが闇の魔術を使って、生き返らせた。死者を生き返らせるなんて、私も知らない魔術だ。
でも、一度は死んだ自分がよみがえったのだと知ったクレアちゃんは……とても、つらそうな悲鳴を上げていた。
その姿を見て、エレガは言ったのだ。
「……あんなに、取り乱すなんて」
「当たり前だろ。あれなら、死んだままの方が本人だって幸せだったろうさ」
あの姿は、目に焼き付いて離れない。
あんな思いを、させてしまったのは……紛れもない、ルリーちゃんだ。そして、それを止めなかった私も、同罪だ。
でも……
「死んだほうが、マシなんて……」
そんなこと、あるものか。死んだほうがいいなんて……そんな、悲しいことが。
「……わかってねぇようだが言っとくがな。そもそも嫌われ者のダークエルフが扱う闇の魔術、これも人々から疎まれている。
それに、死者を生き返らせるなんて、そんなもん禁忌だ。それを考え、まして蘇生を試みようとするやつなんざいねぇ」
「……どうして? だって、大切な人が生き返ったら、それは嬉しいことなんじゃ……」
「あぁ、そうかもな。だが、それは感情論……実際に死んだ奴が生き返ったら、そこにあんのは"気持ち悪い"だろ」
私が知らないだけで、死者を生き返らせるっていうのは、よっぽど重要なことみたいだ。
エレガは言っていた。一度死に、生き返ったその存在は……生者でも、死者でもないと。
そんな曖昧な存在にしてしまい、そのクレアちゃんを、置いてきてしまった。
彼女が
不安で仕方ない時に、側にいられないなんて……!
「ま、今んなこと考えても仕方ねえだろ。どうせ明日の、魔族の戦争とやらで私らの知りたいことは知れるんだろ? なら、その時まで体でも休めとけ。そのお友達とは、帰った時によぉく話し合うんだな。
……生きて帰れれば、な」
そう言って、ラッへは横になる。
冷たい言い方だけど……ラッへなりに、気を遣ってくれたり、しているのだろうか。
ラッへの言うとおりだ。今は、考えても仕方ないことより……体を休めることに、集中しよう。
「寝よっか、ルリーちゃん」
「……そうですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます