391話 刻まれた呪い
「諸君らには突然の話となるが! 明日! 隣国のラゼーナ国から戦争を仕掛けられる可能性が高い! このまま行けば、我らは敗れるだろう!
しかし! ここにいる人間! エルフ! そしてダークエルフの力により、我が国は勝利する!」
なんだとぉ……!?
他国との戦争は、明日起こる。他国……ラゼーナ国って名前らしいけど、まあそれはどうでもいい。
その国との戦いに参加することを、まあ承諾はしたよ。協力するとは言ったよ。
でも……いきなりこれはないでしょうよ!?
ほら! 下にいる魔族たち、みんなぽかんとした表情してるし!
「ちょ、ちょっとちょっと!」
「……なにか?」
「なにか、じゃなくて! いきなりこんな……明日戦争が起こるとか、そのために人間たちの協力を得たとか、なにもかもいきなりすぎでしょ!」
私はたまらず、ガロアズにもの申していた。
声を押し殺して……まあ、あんまり関係ない気もするけど……下にいる魔族には聞こえないように。
ただ、当のガロアズは、きょとんとした顔をしていた。
「いきなり……ですかね」
「そうだよ! 戦争の件はまだしも、いきなり他の種族の協力がどうのとか、受け入れてくれるはずないよ!」
そもそもこの魔大陸に、魔族以外の種族がいるのかって話だ。
「わしの言うことなら、みな大抵のことなら信じるぞ。わし、人望と権力はあるから」
「そういう問題じゃなくない!?」
そういう問題じゃなくない!?
この人、こんなキャラだったのか……なんだこのぶっつけ感!
こんなの、いきなり受け入れてもらえるわけないよ……
「人間!? 人間がなぜここに……」
「それに、エルフだと!?」
「いや、それより!今ダークエルフと……!?」
ほらー、下でなんかごちゃごちゃ行ってるよ!
ざわざわは次第に大きくなり、疑問の声がここにまで聞こえてくるようだ。
人間、エルフ、そしてダークエルフ……本来いないはずの種族が、ここにいるんだもんなぁ。
さて、下の騒ぎはどう止めるのか。そう、思っていると……
ガロアズの隣に立つのは、ガロアズの娘であるガローシャ。
彼女が魔族たちの前に姿を現すと、魔族たちはめちゃくちゃ湧いた。すごく盛り上がってる。
彼女が微笑を浮かべ手を振ろうものなら……それだけで、下からいろいろな叫び声が聞こえる。
「ガローシャさん……人気者なんですね」
「人気者の度合いを超えてんだろ」
なんだか、雰囲気がお姫様って感じがしていたけど……本当に、魔族のお姫様なのかもしれないな。ガローシャは。
その後は、説明を彼女たちに任せ、私たちは塔の中へ。
その前にクロガネを、召喚の魔法陣の中へと戻しておいた。
「使い魔って、そうなってるんですね……」
「ゴルさんも、魔法陣からサラマンドラを出したり戻してたりしてたしね」
「使い魔は基本、魔法陣の中で力を蓄えとくもんだ。召喚しっぱなしってのは、よほど魔力に自信がないと無理だろうな」
私たちは兵士に案内され、とある一室へと案内される。
部屋は、ここを使うということだ。
部屋は一つだけど、中はとても大きい。そういえば、この塔は外と中とで大きさが違うと言っていたな。
これなら、三人で過ごしても問題ない広さだ。
「わー、ベッドもある!」
私はベッドの一つに、思い切りダイブした。うぅん、ふかふかで気持ちいいよぉ。
これ、もしかしたら寮の自分の部屋のベッドよりも、ふかふかかもよ……
はぁあいいなぁ、持って帰りたいなこれ。それで、みんなにも使わせてあげたい……な……
「……」
「どうしました、エランさん」
「なんだ、バカみてぇにはしゃいでたと思ったら。バカもさすがに疲れたか?」
「言い方」
突然黙ってしまった私をルリーちゃんとラッへが心配している。まあラッへのは、心配ってより気になっただけだろうけど。
私は寝転がり、枕を抱きしめたまま……二人を、見つめた。
「いやね……みんな、大丈夫かなって」
「……」
みんな……が誰を指しているのか。それは言わずともわかったのか、ルリーちゃんは眉を下げた。
みんなとは、魔導学園のみんなのことだ。
私と、ルリーちゃんがいなくなって……残されたみんなは、今どうしているだろう。
襲ってきたエレガたちは? 魔物の襲来でパニックになった会場は? みんなはちゃんと逃げられたのか?
……ルリーちゃんの正体を知った、クレアちゃんは……?
「……私……戻って、いいんでしょうか。クレアさんは、私のこと……きっと、みんなも……」
「ルリーちゃんは一緒に帰る。私はそうしたい、だからそうする」
不安そうなルリーちゃんだけど、私はルリーちゃんを置いて帰るつもりはない。
確かに、あのときはクレアちゃんは、ルリーちゃんに拒絶反応を示していたけど……
「ちゃんと話せば、わかってくれるよ。だから、諦めないで」
「それはどうだかな」
ルリーちゃんを安心させようとしたけど、横からラッへが割って入ってくる。
それは、ダークエルフに対する偏見のことを、言っているんだろう。
「ルリーちゃんがいい子だってのは、みんな知ってる。それに私だけじゃない、ナタリアちゃんだって。
クレアちゃんなら、わかってくれるよ」
あのとき、ルリーちゃんがダークエルフだと知ってしまったのは……クレアちゃんだけだった。あのパニックのおかげで皮肉にも、誰も舞台上のルリーちゃんに注目していなかった。
クレアちゃんが、ルリーちゃんの正体を言いふらすとも、思えない。
それに、だ。ルリーちゃんの正体を知っているのは、私だけじゃなくナタリアちゃんもだ。
二人で説得すれば、クレアちゃんだってわかってくれるはずだよ。
「そういう意味じゃねぇよ。ダークエルフへの恐怖、嫌悪の感情ってのは、誰しもに植え付けられたものだ。さっきの魔族を見たろ。
理屈じゃねぇんだ……ダークエルフに対する感情は、本能が拒絶するようにできてんだよ」
だけど、ラッへは……根性論ではどうにもならないのだと、言った。
それは……確かエレガも、同じようなこと言ってたな。ダークエルフへの気持ちは本能に刻まれてると。
みんなが、ダークエルフをあんなに毛嫌いする理由が、不思議だった。大昔に罪を犯したとはいえ、それが現在にまで続いているのは、おかしい。
そこにはなにか、別に理由があるんじゃないか。
それが、本能に刻まれたものだというのなら……それはもう、呪い、のようなものじゃないのか。
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