390話 いつの間にか祀り上げられました



 この国が、他国との戦争に突入することになる未来……それは、いったいいつなのか。

 未来と言うからには、どこか遠い出来事なのかと思っていた。


 それが……まさか、明日だなんて。


「明日戦争が起こるにしては、落ち着き過ぎじゃない!?」


 その未来をいつ知ったのかはわからないが、戦争をするなんて未来を知っている割には、落ち着きすぎている気がする。

 ガローシャも、ガロアズも。他の魔族も。


 その疑問に、ガロアズが口を開いた。


「そもそも、ガローシャの未来予見の力は、わし含め、少数しか知らん。ほとんどの魔族は、明日戦争が起こるなど夢にも思っていないだろう」


「それはそれでどうなの!?」


 未来を予見するなんて力、とんでもないものだというのはわかる。軽々しく話でいいものではないことも。

 とはいえ、事が事だ。未来についてはともかく、明日戦争が起こると知りもしないのはひどくない!?


 ほとんどの魔族は、明日になったらいきなり戦争に巻き込まれるわけか……


「戦争が起こる……そう伝えたところで、なにが変わるとも思えんのでな」


「少なくとも、戦いの準備はできるんじゃない!?」


「いや、そもそも我らは、いついかなる時も不測の事態に備えるよう、準備はしている。争いなど、いつ起こるかわからんのでな」


「うっ、それっぽいことを……!」


 とにかく、明日戦争が起こる。今、下で魔物と紛争している魔族は、それを知らない。

 そして、私たちがいれば、その戦争には勝てると言うのだ。


「つぅか、戦争ってなぁ……まさか、てめえらから仕掛けるんじゃねぇだろうな」


「いいえ。予見した未来では、その時、空を黒い影が覆い……強大な力に、我らは滅ぼされるのです」


「わしは、ガローシャの力を疑いはしていない。しかし、ガローシャが見た夢を、わしも見ることはできん。

 話を聞く限りだと……それは、戦争と言うよりもむしろ虐殺に近い」


 黒い影、か……それが、この国を滅ぼす。

 どうやら、こちらから攻めるわけではなく、相手側から攻められるようだ。


「おそらくは、なんらかの兵器だと考えている。他国は、我らよりも技術が発展しているからな」


「戦争を仕掛けてくる理由って?」


「理由などいくらでもある。資金調達、領土拡大、人材確保……気に入らないから、というのもあるだろうな」


 ……おんなじ魔族同士でも、そんなことで争いが起こってしまうのか。

 いや……人間だって、おんなじ人間なのに争ったりしている。おんなじ種族だって、みんなが仲良しなわけではない。


 それにしても、明日戦争が起こるんだとして……


「……なんで私を見んだよ」


「いやぁ……ラッへの意見を聞きたいなって」


「ちっ。……まあ、明日ってんなら日にちの心配はねぇ。クロガネに乗ってりゃすぐに大陸を渡れるだろうが、どのみちどこかでクロガネは休ませなきゃいけねぇし。

 どうせ、一日はどっかで過ごすはずだったしな」


 明言こそしないけど、ラッへはここに残ることに賛成してくれたみたいだ。

 どうせ魔大陸のどこかで一日過ごすなら、屋根もあるこの場所がいい。


 クロガネも、ずっと移動しっぱなしで、疲れているだろうから。休ませてあげないといけないし。


「ま、ドラゴンなんてタフな生き物、普通のモンスターと比べて良いのかわかんねぇけどな。

 普通、契約した使い魔を召喚し続けておくのは、魔力の消費が激しいんだ。なのに、てめえの魔力はどうだ、尽きているか?」


「ん……そういえば、あんまりしんどくないかも」


「つまりは、クロガネが自前の魔力で、現界し続けてるってことだ。

 クロガネ自身の魔力が凄まじいのか、それとも魔大陸の環境が適してるのか……どっちにしろ普通じゃねぇな」


 そういえば、師匠も言っていたな。使い魔を召喚しておくと魔力を使い続けるから、あんまり召喚し続けないように、と。

 それは召喚者にも、使い魔自体にも、影響を及ぼす。


 平気な顔をしているけど、クロガネも疲れているのかもしれない。


「ただでさえ契約からここまで、ずっと無理させてんだ。

 戦争には、十中八九クロガネの力が必要だ……充分、休ませておくんだな」


「わかった。ありがと」


「けっ」


 けど、こういうのって……どうすればいいんだろ。クロガネに、使い魔の魔法陣の中に戻って、と念じればいいのかな。

 でも、今は確か魔物たちを相手にしているんだっけ。じゃあいきなり戻したら、迷惑だよね。


 ひとまず、クロガネのところに行こう。


「あの、では……」


「ん、あぁそうだった。協力するよ、あなたたちに」


 立ち上がる私に、ガローシャは声をかけてくる。

 そういえばまど結論を言ってなかったなと、言葉を返した。


 それを聞いた瞬間、ガローシャの表情が明るくなった。


「それは、ありがとうございます! では、早速行きましょう!」


「へ? 行くって……」


 どこへ……と、言葉を続ける間もなく、ガローシャに引っ張られてしまう。

 私はそれに逆らわず、ルリーちゃんとラッへも後についてきた。


 長い廊下を渡り、向かう先は……少し、大きな場所に出た。壁がなく、いわゆるバルコニーのような場所。

 下には、多くの魔族がいる。その更に下にクロガネ……地上には、魔物たち。


 それを前に、一歩前に出るガロアズは、大きく息を吸って……


「注目!!」


 と、言い放った。

 大気を震わせるほどの大きな声。自然と、背筋が伸びてしまう。

 それは魔族たちも同じようで、魔物すらあっけにとられている。


 みんなの注目が集まったのを確認して、ガロアズは笑みを浮かべた。


「諸君らには突然の話となるが! 明日! 隣国のラゼーナ国から戦争を仕掛けられる可能性が高い! このまま行けば、我らは敗れるだろう!

 しかし! ここにいる人間! エルフ! そしてダークエルフの力により、我が国は勝利する!」


 ……それは、いきなりの戦争の話……それだけじゃない。

 私と、ルリーちゃんと、ラッへが……協力して、勝つってことまで、言っちゃってる!


 なに言ってんのこのおっさん!?

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