389話 信じるか信じないか



「どうする?」


 私とルリーちゃんとラッへは、固まってこそこそと話をする。魔族は耳がいいらしいし、あんまり意味もない気はするけど。

 わざわざ部屋を出たり、出てもらったりするほどでもないので、まあ形だけだ。


 未来に起こる、他国との戦争。それに参加すれば、エレガたちの情報が知れる。

 どころか、参加することで私たちの知りたい情報が、知れるという。


「どうって?」


「そりゃ、あの子の言うように、この国に協力するか、それとも……」


「そもそも、あいつが嘘ついてる可能性だってあるだろうが」


 聞かれているかも、ということに気づいているのかいないのか。そもそも隠す気のないらしいラッへは、横目でガローシャを見た。


「うそ、ですか」


「あぁ。我々に協力すれば、私らの知りたいことが知れるだぁ?

 んなもん、体よく私らを協力させようって魂胆に決まってんだろ。そもそも、未来がどうのって話自体、私は信じてねえんだ」


「……でも、あの子はエレガたちの名前を出した。それは、どうしてだと思う?」


「それは……」


 ラッへの疑問も、もっともだと思う。魔族という種族を私たちは知らないけど、少なくともさっき会った魔族の子供は、私たちを騙してクロガネと潰し合わせようとした。

 それを考えると、魔族は信用ならない。


 でも、一人がそうだからって、種族全部がそうであるとは限らない。いい魔族だって、いるかもしれない。

 そう考えるのは……私が、ルリーちゃんのことを知っているからだろうか。


「それなんですけど……ガローシャさんは、未来を知ることができるんですよね? それで、私たちが飛ばされたことも、知った」


「そうだね」


「なら、どうしてエレガやジェラ、その名前が出てくるんでしょう」


 ルリーちゃんの疑問……それを聞いて、私はハッとした。

 いきなり、出てくるはずのないと思っていた名前が出てきたから、そっちに気を取られていたけど……


 未来を知ることができるガローシャが、エレガたちの名前を知っていた理由。

 それは未来に、エレガたちがガローシャの前に、現れるってこと?


「あの女が、あの人間たちの仲間なんじゃねぇのか。いかにもな感じで私らを油断させようとしてよぉ」


「あのぉ……聞こえてるので、そういったことくらいならお答えしますよ?」


「うるせっ。こっちで結論出してんだよ」


 口車に乗せられてたまるか、と、ラッへは敵意剥き出しだ。

 未来のことは教えてくれないと思っていたけど、ある程度のことは聞いたら教えてくれそうだ……素直に聞いたほうが、いい気もする。


 ただ、ラッへの言いたいことはこうだ。魔族の言葉を、鵜呑みにするな、と。


「魔族とエレガたちが仲間、か。可能性はあると思うけど……」


 考えてみれば、わざわざエレガがルリーちゃんを魔大陸に飛ばそうとした理由も……魔族との繋がりを思えば、しっくり来る。

 魔大陸という場所の危険性も、聞いただけじゃわからない。


 私だって、一人だけなら……遅かれ早かれ、あの魔物の大群に潰されて終わっていた。


「でも、エレガたちが魔族の仲間……ってことは、ないと思います」


 どっちだろうどっちだろうと悩んでいる中で、とルリーちゃんが手を上げる。

 エレガたちは、ルリーちゃんにとって故郷の、親の、仲間の仇だ。そのルリーちゃんが、そう言う根拠とは。


「へぇ。その理由はなんだ?」


「その……理由、ってほどじゃないんですけど。ただ、そんな気がするっていうか……」


「はぁ?」


「っ、だ、だからあの……っ。その、勘、です。すみません……」


 ラッへの睨みに、すっかりルリーちゃんは縮み上がってしまう。

 ふむ、勘、か……なにか根拠があるかと思いきや、そんなたいそうなものではない。ラッへの反応も、まあわからないでもない。


 でも……


「わかった。ルリーちゃんを信じるよ」


「え」


 私は、ルリーちゃんの言葉を信じることに。

 ラッヘはもちろんだけど、当のルリーちゃん本人が驚いているのが、なんだか面白かった。


「おいおい、正気か?」


「友達の言うことだよ、疑う理由ある?」


「エランさん……」


「……はぁ。なんか真面目に考えるのがあほらしく思えてくるな」


「ラッヘ、友達いないの?」


「あぁ?」


「ごめんなさい」


 ルリーちゃんの言うように、魔族とエレガたちは繋がってない、という前提で考えよう。そして、ガローシャの未来を知る力というのも。

 それらが本当だとして、ガローシャがエレガたちの名前を知れる方法は……未来に、エレガたちがこの魔大陸に現れるからだ。


 エレガ、ジェラ、レジー……そして、ビジーちゃん。

 なんで、彼女の名前が出たのか……わからない。もしかして、ビジーちゃんがエレガたちの、仲間?


 そんなこと、思いたくはないけど……


「で、だ。本題は、こいつらに協力するかどうかだろ」


 そもそもの本題への、軌道修正。ラッヘは腕を組みつつ、話す。

 魔族の戦争。それに、協力するかどうか。


 正直に言えば、戦争なんて危ないものには関わりたくないし、ルリーちゃんを関わらせたくもない。

 そもそも、魔大陸では魔力が著しく制限される。ルリーちゃんはともかく、私やラッヘが単体で役に立つとは思えない。


 それでも、私たちが参加すれば、勝てるって……それ、十中八九クロガネの成果じゃないかな?


「協力して、私たちの知りたいことが知れるって言うなら、うーん……」


「でも、そんな、いつ起こるともわからない戦争のために、ずっとここにいるのも……」


「そうだそうだ。肝心なこと聞いてねえじゃねえか。

 おい、その戦争ってのは、いつ起こるんだ」


 ガローシャが、未来で起こると言っていた、戦争。それは、いつ起こるのか、それを聞いていなかった。

 なので、改めて聞くことに。


 協力するもなにも、戦争が起こるまでの間をここで過ごせ、ってのもつらい話だ。

 私たちは、一刻も早く帰りたいのに。


 数ヵ月、下手したら一年なんて言われでもしたら、とてもじゃないけど……


「これは失礼、いつ戦争が起こるか、伝え忘れていましたね。

 戦争が起こるのは、明日です」


「「「明日!?」」」


 私たちの心配が杞憂になるほどの、衝撃の事実だった。

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