388話 知りたい未来
私たちがここに来ることは、事前に知っていたのだという。未来を予見して。
それは、聞く感じだと……自分で、未来を視ようと思って見れるものでは。ないんだろうな。
ガローシャ……これまでに見た魔族よりは、小柄な魔族。
いかにもお姫様って感じの彼女は、まっすぐに私たちを見ていた。
彼女が、私たちがここに来ることを予見して……私たちを、この部屋に呼んだ。
その、意図は……?
「あなた方……正確には、人間、エルフ、ダークエルフの三人の少女が、この地を訪れる。そう、夢で見ました。
ただ、それだけではなく……近く、この国と、他の国とで戦争が起こることも」
ゆっくりと、ガローシャは話し始める。
夢で見たという、未来のことを。
「……国、って、もしかしてこの塔のこと言ってんのか?」
「えぇ。この塔は、外と中とで大きさが違います。結構、快適な空間なんですよ?
この塔の内部で私たちは生活し、ここを我らの国としているのです」
「ふぅん」
塔が国……とは、なんだか変な感じだ。ベルザ王国のように、とんでもなくおっきいところでもないし、たくさんの建物があるわけでもない。
だけど、私は国なんてベルザ王国しか知らないし、ここは魔族の世界。いろいろ勝手が違うのかもしれない。
ガローシャ曰く、私たちが来ることと、他の国と戦争をすることを、未来に見た。
この二つの話をするってことは、それは無関係じゃあない。
「私が見る夢は、一つではありません。いくつもの可能性を秘めた、未来。
例えば、あなた方が我々に協力してくれたことで、戦争に勝つことができた未来。
例えばあなた方が現れないか協力を頂けず、戦争に負けてしまう未来」
「……つまり、私たちに、他国との戦争に勝つようにてめえらに協力しろってのか? バカバカしい」
ガローシャの見ることのできる未来は、つまりはこれから起こり得るいくつかの未来……ってことか。
それだけ聞くと、便利なのかどうかはわからないけど……未来の選択肢を選べる、ってわけだ。
で、今ガローシャは例えば、って言ったけど……それは多分、例えばじゃない。
ラッへの言うように、私たちが他国との戦争に協力するかどうか……その未来を見て、負けないため協力してもらおうってことだろう。
「そちらのエルフの方は、話が早いようです。ですが、改めて言わせてください。
どうか、他国との戦争に勝つため、皆様の力をお貸しください」
「アホか。なんだって、んなこっちの得にもなりゃしねえことをやらなきゃいけねえんだ」
ラッへの言葉はきついけど、実際そのとおりだ。
困っている人は助けたいけど、私たちだって今困っている真っ最中だ。それに、戦争なんてそんな大きなものに関わりたくはない。
初めて会った魔族のために、危険を犯す義理はない。
「得、ですか」
「魔族の戦争なんざ、聞いただけで関わりたくもない。それだけの話だってんなら、私らはここで……」
「エレガ」
「……!?」
これで話はおしまい、と言わんばかりに、立ち上がるラッへ。それに続いて、私も立ち上がろうとしたけど……
ガローシャがつぶやいた言葉……いや名前に、動きが止まった。
今、この人……なんて……
「ジェラ、レジー……ビジー」
「え……」
間違いない……その名前は、私たちをこの魔大陸に転移させた、人間の名前。
そして、ルリーちゃんの故郷を滅ぼした奴らの、名前だ。
エレガとジェラは、ルリーちゃんの過去を夢を通して初めて姿を見た。レジーは、王都で魔獣を出現させ、暴れまわった。
そして、魔導大会に乱入して、ルリーちゃんを手に掛けようとした。
なんで、そいつらの名前を、ガローシャは知っているんだ? それに……
「なんで、ビジーちゃんまで……?」
その名前は、奴らとは関係ないはずだ。
ビジーちゃんは、王都で出会った、迷子だった女の子。私が保護して、妙に懐かれた。ただの、かわいい女の子だ。
なのに、エレガたちと並べて名前を言うなんて……まるで、あいつらの仲間みたいじゃないか……!
「なんで……あなたが、その名前を……!?」
ルリーちゃんも、動揺している。自分の故郷を滅ぼした奴らの名前が出てくれば、当然だ。
震える体を、必死に押さえている。
その視線を受けて、ガローシャは……
「我々に協力していただければ、お話いたします」
と、言ってのけた。
「……っ」
「というよりも、その戦争に参加してもらえれば、あなた方の知りたいことも、知れるかと」
この子……幼く見えて、相当肝が座っているな。ここにきて、取引か。
私たちが協力すれば、私たちが知りたい情報を教えてくれる。というか、自動的に知ることになる。
現時点で、未来を知っているこの子は、その情報を知ってる可能性もあるけど……ここで力押しで吐かせることは、多分無理だ。
この場所じゃ、私もラッへも全力のパフォーマンスができない。クロガネと契約している私はともかくとしても。
それに、相手の実力もわからないうちから、そんな賭けに出るわけにもいかない、か。
「……ちょっと、考えさせて」
ただし、ここで即答はできない。
せめて、断らない……これが、今できる全力だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます