387話 未来の予見



 さて、私たちは塔の中へと、足を踏み入れた。

 外観は真っ黒な塔だった。内観は、コンクリート造りみたいだ。


 それに、外から見たより中は思ったよりは大きい。

 ガロアズを先頭に、私たちは歩いていき……一つの扉の前で、立ち止まった。大きい扉だ。


「ここだ」


 そしてガロアズは、扉に手をかけ……思い切り、引っ張った。

 重い扉なのか、それでもゆっくりとしか開かない。


 相当重たい扉なんだろうな……なんてぼんやりと思いつつ、私たちは扉が開くのを待った。


「さあ、入るがいい」


「ちっ、偉そうだな」


「ラッへっ」


 魔族のえらい人なんだから、まあえらそうなのは仕方がないんだろう。

 ラッへに、「しっ」と指を立てつつ、私たちは部屋の中へと入る。


 この中に、ガロアズが私たちに見せたいものが、あるのだろう。そのために案内してきたんだろうし。


「わ、広い部屋……」


「お待ちしていました、人間の少女。それにエルフの少女、ダークエルフの少女」


「ん?」


 部屋の中。そこには、大きな丸いテーブルが置かれていた。加えて、誰かが正面に、座っている。

 それは、女の子の声……そして、それは正しかった。


 座っていたのは、魔族の女の子だ。

 やはり他の魔族と同じく、青色の肌をしている。額にも角が生えているけど……なんだろう、これまで見てきた魔族とは、雰囲気が違う。


 まず、佇まいだ。姿勢良く椅子に座っていて、柔らかい表情。なんていうか、品がある。

 それに、彼女が座っている椅子は、他の椅子よりも豪華に見える。

 彼女が着ている服も、なんだか豪華だ。黒いワンピースみたいな服だけど、所々装飾品で彩られている。


「お前たちは外へ」


「え、しかし……」


「大丈夫です、お願いいたします」


「は、はっ」


 着いてきていた兵士たちに、ガロアズは、そして魔族の少女は下がるように言う。

 これで、部屋の中には私とルリーちゃん、ラッへ。ガロアズと、魔族の少女だけになった。


 魔族の少女が、立ち上がった。


「はじめまして。わたくし、ガローシャと申します」


「え、あぁ、どうも」


 立ち上がり、丁寧に腰を折るその姿に、なんだか気が削がれていく気分だ。

 いったい彼女は、なんなんだろう?


 とりあえず、私たちも座るように促されたので、座ることに。私が座って、その両隣にルリーちゃんとラッへがそれぞれ、座った。

 そしてガロアズは、ガローシャの隣に座った。


「えぇと……ガロアズ、さん。見せたいものっていうのは……」


「さんは付けなくても構わない。

 あぁ、紹介しよう。私の娘だ。この子に、ぜひとも会ってもらいたくてね」


 ガロアズは、ガローシャを指して娘だと言った。あぁ、確かに似て……るかは、ちょっとわかんないけど。

 名前の感じとかは、似てるような、気もするような。


 まあ、そこはどうでもいいか。


「で、自己紹介とかいいからさっさと本題に入れよ」


「ラッへっ」


 相変わらずこの子はもー。

 ただ、二人は不快に思った様子はない。むしろ、ガローシャはくすっと笑っている。


 こうして見ていると、普通だ……魔族って、怖いイメージがあったけど、全然そんなことはない。


「そうですね。では、早速本題に入りましょう。

 私、未来を予見することができるんです」


「……は?」


「私、未来を予見することができるんです」


 本題に入れ、とラッへは言い、ガローシャもそれに応えた……ただ、その内容があんまりにも、急すぎる。

 いきなりそこまで話せとは言ってない。


 未来を、予見できるだって? そんなこと……


「そういえば、さっきガロアズが、私たちがここに来ることを予見していた的なこと言ってたけど……」


「はい。あ、正確には、わたくしが自分で予見できるわけではありません。

 なんの前触れもなく、未来が夢として出てくるのです。なので、予見することができるというより、未来を知ることができると言ったほうが正しいですね」


「あぁ、そう……うんまあ、そこはどっちでもいいや」


 いやいや待て待て。ちょっと話が急展開すぎて頭がついていかないぞ?

 この魔族の少女ガローシャは、未来を知ることができる。未来に私たちが来ることを知っていた。だからここに呼んだ。


 私たちが魔大陸に飛ばされてきたのは、人為的なものによる。

 もしも、転移させたエレガたちと、ここにいるガローシャたちがグル、ということなら、それは予見ではなく仕組まれていたってことになる。

 でも、私たち……少なくとも、私とラッへが魔大陸に転移したのは、偶然だ。エレガにだって予想できなかっただろう。


 だから、人間とダークエルフが来るっていうのは、事前に知ることはできない。


「未来を知る、ねぇ。どうにもうさんくせえな」


「ラッへっ」


「ふふ、いいのです。正直者ですね。

 実際、初めの頃はわたくしも、この力のことは誰にも信じてもらえませんでした」


 ラッへの言葉にも、気を悪くしないガローシャはやっぱり、心が広い。

 うさんくさいなんて言われても、顔色一つも変えずに。


 ただ、ラッへの言うことも、わからないでもない。

 私だって、ガローシャが未来を予見した姿を見たわけじゃない。事前に私たちのことを知っておけば、未来を見たなんて偽ることは簡単だ。


 第一……


「えっと、未来がわかるんだとして……私たちが、ここに呼ばれた理由って?」


 人間、ダークエルフ、エルフが、ここに来ることがわかっていたとして。その後私たちを、どうするつもりなのか。

 もしかして、私たちが悪いことをする未来が見えたから、そうなる前に捕まえておく……とかじゃ、ないよね?


 私の疑問に、ガローシャは小さくうなずいた。

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