386話 魔族と話そう



 魔物の暴走スタンピード……それを止めるために、クロガネにはなにやらいい案があるという。

 私たちよりも魔物に詳しいクロガネのことだし、本当にナイスなアイデアがあるのだろう。そう思った私は、素直にクロガネに任せることにした。


 クロガネに向かってうなずき、その動きを見守る。

 私に応えてくれたクロガネは、鳥型の魔物の上……私の隣に、ルリーちゃんとラッへを移らせる。


『よし。契約者らは、耳を塞いでおけ』


「わかっ……ん?」


 ルリーちゃんとラッへを移し終え、クロガネはまた移動していく。私たちがいる場所よりも、下降していく。

 去っていく際、クロガネが言った言葉に、私はちょっと不安なものを覚えた。


 なにが起こるかはわからないけど。とりあえず……


「二人とも、耳塞いで!」


「あぁ?」


「え?」


 言われた通りのことを、伝えるだけだ。

 私は耳を塞いで、ルリーちゃんとラッへも遅れて耳を塞ぐ。


 クロガネは、ある程度降下して、その場に留まる。そして、大きく息を吸う動作を見せる。

 ……クロガネの言う、いい案って……まさか……


「ゴギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「……っ!」


 耳を塞いでいても、耳の奥底にまで響くかのような、大きな声。耳の奥というか、胸の奥底というか……とにかく、全身に重々しく伝わる、叫び声。

 その圧倒的な咆哮は、クロガネより上空にいた私たちも……そして、塔から魔物を攻撃している魔族も……


 地上に群がっている、魔物たちにも等しく、轟き、響き渡る。その身に、強制的な拘束でもかけられたように、みんなその場から動かなくなる。

 いや、動けなくなる。


「……っ、す、すごい、声……」


 味方であるはずの私たちも、あまりの圧に動けなくなってしまう。

 クロガネの、いい案ってこれか……なんていうか……


「なんてハチャメチャな……」


「さすがエランさんの契約モンスターですね……」


「ん?」


 無理やり、咆哮で魔物を黙らせるなんて、とんでもない方法だ。結果オーライだけど。

 ルリーちゃんがなにか言っていたような気もするけど、まあいいや。


 魔物たちはというと、その場に止まり、キョロキョロと周囲を見回している。

 さっきまでの暴走が、嘘みたいな静けさだ。


「くっ……なっ、ど、ドラゴンだと!?」


「あれも魔物の味方か!?」


「いや、だったら我々はすでに落とされている……!」


 クロガネを見て、魔族たちが口々になにか言っている。

 あー、そりゃそうか。巨大なドラゴンが急に現れたら、混乱もするよね。


「よっ……!」


「え、エランさん!?」


 私は、鳥型の魔物の上から飛び降り、クロガネの背中へと着地する。

 ちょっと足が痺れちゃったけど、まあこれくらいなら問題ない。


 ドラゴンの上に、誰か乗っているので、魔族たちはまた口々になにか言っている。

 うーん、こういうときは……


「ねえ、この中で一番えらい魔族って、誰なの?」


 一番えらい人に話を通すのが、一番早い! そのはずだ!


「なんだ人間! いきなり現れて、なんのつもりだ!」


「そもそもなんで人間がここにいるんだ!」


「帰れ!」


 魔族からの帰れコール……うわぁ、圧倒的アウェー感。

 それを受けて、クロガネが低く唸りを上げる。すると、魔族たちは一斉におとなしくなる。


 わぁい、暴力的力バンザイ。


「……わしが、この塔を治めている者だ」


「お」


 すると、塔の中から声が。

 奥から出てきたのは、他の魔族に比べてひときわ大きな体。声は少ししわがれているけど、なんていうか威厳のある声だ。


 青い肌の巨躯、額から生えた太い角、顎に生えた白ひげ、そして眼力のある瞳……

 明らかに、下にいる魔族たちとは違う。


「して、人間。人間が、なぜこの魔大陸にいる?」


 やっぱり、人間がここにいるのは、不自然なのだろう。

 どこにいても同じことを聞かれる……


「飛ばされてきちゃったんだよ。転移ってやつ」


「ほぅ……」


「それより、お話がしたいの」


 私が知りたいのは、魔物が人のいる大陸日報向かおうとしている理由だ。

 魔物自身、そのことはわからないという。それなら、別視点から聞いてみようってことだ。


 それに、えらい人ならいろいろ知っているかもしれない!


「ふむ……話、か。

 ……いいだろう」


「ガロアズ様!」


 一番えらい人……ガロアズって呼ばれた魔族は、私の要求を受け入れてくれた。

 さっき、魔族の子供の件があったせいで、魔族に対していいイメージ持ってなかったけど……話せばわかってくれそうな、いい人だ。


 やっぱり、種族を一括りにして見ちゃあ、いけないね。


「人間……名は?」


「エランだよ。エラン・フィールド」


「そうか。実は、近々この地に人間が現れると、予見があった。わしからも、話が……いや、見せたいものがある。

 しかし、その間、下の魔物たちが再び暴れ出さないとも限らない」


「その心配はないよ。クロガネ」


『……大丈夫か?』


「うん!」


 私は、塔へと飛び移る。そしてクロガネは、さらに下へ。

 魔物のことは、クロガネに任せるとしよう。また暴れ出さないように、そして魔族も変なことをしないように、しっかりと監視を。


 ルリーちゃんとラッへも呼び、塔へ降りてきてもらう。


「……魔族と話し合いだ? なにがどうして、そうなったんだ」


「エランさんすごいです」


「はぁ、もうなにがなんだかわからん。

 ……てか、大丈夫なのかよ」


 ラッへが呆れたように……そして、小声で私に話してくる。


「この塔の中で、魔族相手に私らだけだと? クロガネもいる外で話したほうが安全だろ」


「でも、塔の中じゃないと見せられないものがあるって話だし……敵意は感じないから、大丈夫だよ」


「のんきな……」


 魔族の、えらい人が言うには……私が、というか人間がここに来る、予見があった。

 それは、どういう意味なのか。そして、見せたいものはなんなのか。


 それを確かめるため、私たちは塔の中へと、足を踏み入れた。

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