380話 謎の攻撃
まだ遠くにある、塔からの攻撃……
ただ光線が飛んできているわけじゃない。確実にクロガネを、私たちを狙ってきている!
それを、私たちよりも早く察知したクロガネが、左右上下に移動し光線を避けている。
巨体にそぐわない速度に、さすがだと言いたいところだけど……
「酔っちゃう酔っちゃう酔っ……うぇえええっ」
『喋るな契約者よ、舌を噛むぞ! あと背中に嘔吐しようものなら振り落とすぞ!』
振り落とされないように背中にしっかり掴まっているけど、体が恐ろしく揺れるし景色は変わる変わるだし、酔ってしまいそう。
ルリーちゃんもラッへも、振り落とされないようにしがみついている。
このままでは撃ち落とされると判断したのか、クロガネは地面へと急降下、着地する。
すると、光線は一旦の静まりを見せる。
「はぁ、はぁ……ぉえぇえええ……」
「め、目がまわ……」
「っくそ、なんだってんだいったい……!」
とりあえずクロガネの背中から降り、私たちは息を整える。
周囲には岩がたくさん生えているから、身を隠すのにはうってつけだ。
まあ、クロガネは大きすぎて、隠れきれていないけど。
「そのドラゴン、一旦消したほうがいいんじゃねぇか。でかくて的になんだろ」
「言い方」
ラッへの言うように、クロガネは大きくて的になる。
だけど、まずは確かめないといけないことがある。
「うぷっ……ふぅ。
ううん、クロガネの目を通して、向こうになにがあるのか、私も見てみたい」
ようやく吐き気が追いついてきた、ふぅ。
使い魔の契約を交わしたモンスターとは、会話をするだけではなく、視界を共有することもできる。
以前、ゴルさんがサラマンドラと視界を共有して、私を追い詰めた。
モンスターの視力は、人よりも良いらしい。
ましてやクロガネは、あんな遠くの塔から放たれた光線に、私たちの誰よりも早く反応した。
視力は、かなりいいはずだ。
「クロガネ」
『うむ。慣れないうちは、目を閉じ集中しろ。ワレの見ているものを、自分も見る……感覚を、研ぎ澄ませろ。ワレの感覚に、同化するように』
「わかった」
言われたとおりに、目を閉じる。ゴルさんは、多分目を開いたままやってたし、慣れれば目を開いたままお互いの視界を共有することもできるんだろう。
その場合、見ている景色がごっちゃになりそうで、大変だ。
だから、慣れないうちは私の目を閉じて、クロガネの視界にだけ集中する。
クロガネの感覚に、同化……か。言葉だけだとよくわかんないけど、とにかく、クロガネに意識を集中させる。
急がないと、また光線攻撃が始まるかも……いや、落ち着け。
ここにはクロガネもいる。ルリーちゃんも、ラッへも。今の私は無防備でも、守ってくれる仲間がいる。
「……ふぅ」
なんだか、不思議な感じだ。頭が……いや、体全体が、軽い。
この感覚に、身を委ねてしまいたくなる……
「……ぁ」
目を閉じ、真っ暗だった視界に……光が、差し込んでくる。
それは徐々に、景色をかたどっていき……まず見えたのは、紫色の空だ。
これは、魔大陸の……私たちの、上空にあったものと同じ景色だ!
『ふむ、成ったようだな』
クロガネの声が、聞こえた。どうやら、私がクロガネの視界を共有したのは、クロガネにも伝わったらしい。
そして、視界が動く。クロガネが、視線を動かしているのだ。
そして、見えた。黒く長い、塔……先ほど私が見たものより、より鮮明に。くっきりと。
長い塔だ。空にまで届きそう……っていうのは大げさだけど、それくらいに長い。というか高い。
うぅん……なんだろ、人影のようなものが、二つ、三つ……三つかな。慌ただしく、動いている。
あの、青色の肌の色、額に生えた角……魔族か? さっきの、魔族の子供と似た外見の特徴をしている。
「うん、見える……塔があって。そこに、魔族が三人」
「なるほど、そいつらが攻撃を仕掛けてきたってことか」
クロガネが見た景色を私も見て、それを言葉に出す。クロガネの言葉は通じないけど、私の言葉なら別だ。
クロガネから聞いたものじゃなく、私も見たものを伝えることで、二人にはより深く伝わるはずだ。
魔族は、クロガネを視認しているはずだ。でないと、攻撃してこないもんね。
でも、地上に降りたことで、攻撃の手は一旦やんだ。魔族も、私たちを警戒しているのか?
「でも、どうするんです? 近づいたら、また攻撃されますよ」
「うーん……攻撃されたからって仕返ししたら、戦いになっちゃうもんね」
できれば、穏便に済ませたい。
なんとか、こちらが危険じゃないことを、伝えられないものか。
「めんどくせぇ。こっちにはドラゴンがいるんだ、強行突破すりゃいいだろ」
「そんな乱暴な……」
無理やり、突破か……それも、まあアリだよな。
私たちが我慢さえすれば、クロガネには猛スピードで突っ切ってもらって、塔を抜ける。それはできなくもない。
それで行こうか……
「……ん? なんか後ろから、聞こえない?」
そう、考えたときだ。後ろ……つまり、今私たちが来た方向から、声が聞こえるのだ。
声と、それと地鳴りが。
振り向くと……その答えが、そこにあった。
「な、なにあれ……」
なにかが、走ってくる。それも、かなりの人数が。
地鳴りがするほどの人数が、一斉に向かって、走ってくる……あれも、魔族か……?
もしかして、私たちの存在がバレて、魔大陸に侵入者だーって感じで、始末しに来たとか?
「あっ、塔からまた光線が!」
やんでいた光線は、再び放たれて……それが、迫ってくる魔族たちに向かって、打ち込まれる。
魔族に挟み撃ちにされた、と思ったけど、違う。これは……
魔族同士で、争っている…!?
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