375話 エランとドラゴン



紅炎爆発プロミネンスブラスト!!!」


 精霊さんの力を借りて、大気中の魔力を使用する。

 魔導の杖の先に、魔力を集中させ、狙いを定めて……一気に、解き放す。


 火……いや、もはや炎属性とも呼べる、魔術。大規模な爆発をともなう赤い光は、ドラゴンへと迫っていく。

 それに対してドラゴンは……今度は、棒立ちのままではなかった。


「グォオオオオオ!!!」


 口の中に溜められた魔力が、一気に放出される。竜魔息ブレスだ。

 強大な力は、私の放った魔術とぶつかり合い……互いの力が拮抗するように、押しも押されぬ状態になる。


 だけど、その状態は長く続くことはなかった。


『ヌッ……!?』


 わずかに、私の魔術がドラゴンのブレスを、押し始めたのだ。ゆっくりと、でも確実に。

 ドラゴンは、必死に押し返そうとしている。それでも、力は私のほうが……!


 ドラゴンの目の前にまで迫った紅炎爆発プロミネンスブラストは、カッとまばゆく光り、巨大な爆発を起こす。

 ドラゴンのブレスも爆発に飲み込まれ、間近にあったドラゴンの顔はもろに爆発に巻き込まれた。


「わっ、す、すごいですエランさん!」


「はぁ、はぁ……!」


 いっ……今ので、だいぶ精神力が疲弊したな。ゴルさんとやったときだって、こんなに疲れはしなかったのに。

 それだけ、ドラゴンのブレスが強力だったのか……思えば、ゴルさんのサラマンドラも、魔術級の攻撃を口から吐いてたっけ。


 あぁ、やっぱりいいなぁ使い魔。協力すれば、戦略の幅だって広がるよ。


「っ、ふぅ……」


 爆煙が、ドラゴンの顔周辺を覆っている……

 倒せないまでも、ダメージは与えていてくれよ……!


 煙が、晴れていく……


『ナルホド……』


「!」


 頭の中に、響く声……ドラゴンのものだ!

 ってことは……


「……倒せないとは思ってたけど、その程度のダメージってのは傷つくなぁ」


 晴れたドラゴンの顔には、複数の擦り傷みたいなものはあるけど、それだけだ。大きなダメージは見られない。

 やっぱり、あの鱗がかったいんだろうな。それでも、もう少しはイケると思ったのに。


 今ので、結構消耗しちゃった。同じ魔術を撃てって言われても、無理かも。

 まだ余力のありそうなドラゴンに対し、どう攻めるか……


「ン……グォ……」


「!」


 頭の中……ではなく、実際にドラゴンが吠えた。

 よろよろと顔を動かして、気のせいだろうか息も荒く見える。それに……


 よく見ると、鱗がひび割れている?


『ヨモヤ……ココマデノ、威力ダトハ』


「効い、てた?」


 通用していない……と思っていたドラゴンに、私の魔術は効いていた、ということだろうか。

 ドラゴンの目が、私を捉えた。


 ただ、見られているだけなのに……まるで睨まれているような、圧迫感。強大な力の差を、痛感してしまう。

 確かに私の魔術は通用したけど、あれだけやって鱗に傷をいれる程度。まだまだ。


 もし……


『フム……汝ノ力、見セテモラッタ。汝ナラ、我ガ契約者トシテ不足ハナイ』


「はぁ、はぁ……へ?」


 どこか満足したように、ドラゴンは言う。

 えっと……今、契約者って言った?


 どうしよう、話が見えてこないよ。もしこのまま戦いを続けたら、間違いなくドラゴンが勝つ、って思っちゃうくらいなのに。

 困惑している私に、ドラゴンは続ける。


『先ホド、ワレノ魔力ト汝ノ魔力ガ共鳴シ、ワレノ魔力が汝ニ流コンダ。コレハ、汝ニ我ガ契約者トシテノ素質ガアルトイウコト』


「私が……あなたの契約者としての、素質がある?」


 ドラゴンの言葉を繰り返してみるけど……えっと、それってつまり……どういうことだ?


『故ニ、本当ニワレガ仕エルダケノ力ヲ持ッテイルノカ、試サセテモラッタ』


 やっぱり、私の思った通り……ドラゴンは、私の力を試していた。

 ……ん? 今仕えるって言った!?


『気ニ入ッタ! 人間ナド、矮小ナ存在ダト思ッテイタガ……コウモ、気分ガ昂ッタノハ、久方ブリダ!』


 どうやら、私を気に入ってくれたらしいドラゴン。私には言葉がわかるからいいけど、テンション上がってるせいかただめちゃくちゃ吠えているようにしか見えない。

 ほら、ルリーちゃんなんか震えちゃってるよ。ドラゴンがいきなり吠えるんだもん、そうなっちゃうよ。

 ラッへは警戒態勢だし。


 私は二人に、大丈夫だから落ち着いてと伝える。


「……ドラゴンはなんて、言ってんだ」


「えっと……その、ドラゴン、さん。そのぉ、もう少し具体的に、言ってもらいたいなぁって」


 一人……いや一匹テンションが上がっているけど、結局のところドラゴンは私になにを求めているんだ?

 契約者とか、力を試したとか、仕えるとか……


 それって、もしかして……


『ウム、スマンナ。ドウモ久方ノ会話ニ、胸躍ッテイルヨウダ。

 ワレガ求メルノハ、汝エラン・フィールドトノ契約。汝ラノ言葉デハ、使イ魔契約、ト言ウノデアッタカ』


 やっぱり、使い魔になってくれる……ってことだ!?

 まさか、ドラゴンの側から、使い魔になってくれる、なんて言ってくれるとは!


 すごい嬉しい! 召喚したモンスターを使い魔にするんじゃなく、自ら使い魔の契約を名乗り出るなんて!


「あ、でも……ドラゴンさんが、私の使い魔なんて……なんか、もったいない、ような」


「……ん? おい今使い魔っつったか?」


 ドラゴンが使い魔になってくれるのは、嬉しい。だけど、ドラゴンはかなりの強さだ……私よりも、強い。

 自分よりも強い、それも伝説級のモンスターを使い魔にするなんて、どうなんだろう。


『ナアニ、ワレノ契約者ナレバ、半端ナ実力デハ許サレヌ。契約ヲ結ンダ暁ニハ、ワレ以上ノ力ヲ示セルヨウ励ムトイイ。

 ソレニ、汝トイルト退屈シナサソウナノデナ』


「あっははは……」


 なんてこった……使い魔ってより、これじゃ私がドラゴンに見初められるかのテストが続いちゃってるよ。

 自分から契約を申し出といて、自分よりも強くなれと無茶振り……なんてドラゴンだ。


 ただ……そういうのは、嫌いじゃない。私は、もっともっと強くなるつもりなんだ。

 いいよ、なら……ドラゴンだって、超えてやる!


「うん、わかった。なら、結ぼう使い魔契約。

 いや、使い魔ってのもちょっと違うか……私たちは、対等ってことでどう?」


『フフ、言ウデハナイカ。良カロウ、汝トワレハ、対等ナ存在トシテ、契約ヲ結ボウゾ』


「おい! さっきから二人だけで話進めてんな! 使い魔!? 契約!? てめえまさか、ドラゴンと契約する気か!?」


「エランさん……すごすぎます!」


 私と、ドラゴン……使い魔なんて関係じゃない。対等な関係として、一緒に強くなろう!

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