374話 私の全力
なんか、流れでドラゴンと戦うことになった。
ドラゴンの作り出した結界のおかげで、私は魔大陸の悪環境の影響を受けずに済む。
そのため、全力でぶつかることが、できる!
「ホントに、全力でいいんだね?」
『ウム。ソレニ、負傷シテモコノ結界内ナラバ、回復魔術モ使エルデアロウ』
……回復魔術が使えることまで、わかっちゃってるのか。
ドラゴンが、私に戦いを持ち出した理由はわからない。確かめたいことがある、って言ってたけど。
だけど、そのことは一旦、忘れよう。今は思いっきり、全力をぶつけるだけだ!
「あいつ、今の状況わかってんのか……」
「そんなエランさんも素敵です!」
離れて見ている二人には、ちょっと待ってもらうことになる。
ちなみに魔族は、動けないように縛っている。この結界内なら、魔法で縄を作り出すなんていくらでもできるし。
あ、死んではいないみたい。
「じゃあ、行くよ!」
私は、全身へ魔力を
ドラゴンの硬さは、さっきのでだいたいわかってる。生半可に、様子見なんて無意味だ!
だから、最初から全力だ!
「うりゃぁあああああああ!!」
私は、その場から踏み込み、勢いをつけて走り出す。
遠くから、ちまちまと魔法を撃っていても、あの鱗は簡単には傷つけられない。
だったら、至近距離から、物理的に殴る!
「は、速い……!」
「この結界内じゃ好調になるってのは、間違いじゃないみたいだな」
「せぇえええい!」
充分に距離を縮め、一気にジャンプ。ドラゴンの顔へと接近する。
私が近づいている間、ドラゴンは棒立ちのままだった。私を捉えられなかった……わけじゃ、ないだろう。
私に戦えって言っておきながら、私の力を見るつもりなのか……なら、乗ってあげるよ!
「いっくよぉおおお!!」
ドラゴンの頭の上にまで、飛ぶ。まさか、たった一回のジャンプで、こんな高さまで飛べるなんて。
この結界、自分の魔力を、限界値まで高めてくれているんだろうか。
右手に、魔力を集中させる。この一撃ですべてを決める勢いで……出し惜しみなんて、しない!
「ふんぬらぁあああああああ!!」
ドラゴンと私の視線が、交差する。
そのまま私は、握り締めた右手を、ドラゴンの頭部に思い切り、振り落とした。
ドラゴンの頭……正確には、眉間よりも少し上あたりに、私の右拳が刺さった。
「ぬぅうううううううううううううううう!」
『ォオオオオオオオオオオオォオオオオオ!』
互いの力が拮抗し、意識しなくても声が漏れだす。
か、硬い……これ、ドラゴンは魔力で防御を固めては……いないみたいだ。
つまり、素でこの硬さか……!
気を抜いたら、私の方が……っ、皮膚が破れちゃいそうだ……!
「ぬぬぬ……ぐ、ぅうううう!」
『!?』
「ん……りゃぁあああああ!!!」
全身の力を込め、右拳にすべての神経を集中し……私は、渾身の力で、思い切り拳を振るい落とした。
その結果、ドラゴンの頭は拳に打ち払われ、お辞儀をしたみたいに頭が下がった。
『ヌ……!』
「おいおい、マジか……」
「キャーーーっ、エランさぁああああん!!」
いっ……たぁい! ていうか、手がめちゃくちゃジンジンする……!
ドラゴンに私の攻撃が通じた。でも、たった一撃でこれか。
しかも……
『ホォ……コレハ、想像以上ダ』
ゆっくりと顔を上げるドラゴン。その目から、闘志は消えていない。
うぅ、全然聞いてないし……
『次ハ、コチラカラユクゾ』
ドラゴンの目が、赤く光る。
やっば……空中じゃ、まともな動きが取れない! 浮遊魔法なら動けるけど、そもそもドラゴン相手に空中戦を挑めるかって話だ!
いやそれ以前に……この距離で、
「エランさん危ない!」
「え……ぐぅ!?」
ルリーちゃんの声が聞こえた直後、左半身に強烈な衝撃が走る。
その衝撃に抗うことができず、私は吹き飛ばされる。地面に打ち付けられ、何度か地面を転がる。
いっ、つつ……ぜ、全身を魔力で固めたままで、良かった……そうじゃなかったら、どうなっていたか……
「い、まの……尻尾……?」
急いで体を起こすと、見えたのは……ドラゴンの背後でゆらゆら揺れている、巨大な尻尾だ
なるほど、あれに体を打たれたのか……ドラゴンの口元にばかり、注目していた。
ドラゴンに注視したまま、立ち上がる。
全身を魔力で覆っていても、このダメージか……しかも、ドラゴンにとってはなんてことない、尻尾の一振りで。
「はは、まいったね……」
『先ホドノ拳ハ、中々ダッタ……ダガ、マサカソレデ終ワリカ?』
「まさか!」
間違いない……私はドラゴンに、試されている。
そうじゃなかったら、さっきの攻撃だってあんなにすんなり通せたはずが、ないんだ。
私に戦えなんて言っておいて、力を測るつもりなんて……なかなか、いい性格してんじゃん。
「なんであいつ笑ってんだ……」
「不利な状況にも果敢に立ち向かうエランさん……しゅてき」
「いいよ、じゃあ今度は、こいつでどう!」
私の全力の魔力は、ドラゴンにたいしたダメージを与えられなかった。
ならば、お次は魔術だ。こいつなら、どうだ!
魔導の杖を引き抜き、先端をドラゴンに向ける。
敢えて目をつぶり、極限まで集中する。
「爆炎で焼き尽くす豪火よ……」
普通ならば、魔術を使うような戦いで目をつぶるなど、絶対にしない。隙だらけになるから。
でもドラゴンは、攻撃してこない。その自信がある。
「天地をも
ならば、以前ゴルさん相手に使ったような、二重詠唱魔術のような小細工もいらない。
あれももちろん強力だ。でも同じ条件下なら、存分に集中できて一発に全力を乗せられる単発魔術の方が、威力は出る。
「すべてを
周囲の魔力が、大気を震わせている。精霊さんが、昂っている。
ここまで集中して魔術を放つのは、ずいぶんと久しぶりだ。
これが……
「
これが私の、全力だ!!!
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