373話 ドラゴンさんはおこかもしれない



 私の中に流れ出した、ドラゴンの魔力。

 これは、相性のいいモンスターとの間に起こる、現象らしい。つまり、このドラゴンは、私の使い魔としての相性がとてもいい、ってことだ。


 倒れた魔族を見下ろして、私は小さく息を吐く。


「……てめえ、なんなんだしの力は。それに、その髪も……あ、戻ってら」


「髪?」


 近寄ってくるラッヘが言う言葉が、私にはよくわからない。

 さっき魔族も言っていたけど、髪髪って、なんのことだよぅ。


「エランさん、さっき髪の色が、白く変化していたんですよ」


 わかっていない私に、ルリーちゃんが説明してくれる。

 髪の色が……白く、だって?


「そうなの?」


「今回だけじゃねえ。魔導大会でのDブロックの戦い。それに決勝でも、一瞬だがその姿になってた」


「マジでか」


 ルリーちゃんもラッヘも、そう言うのなら間違いじゃ、ないんだろうけど……

 でも、信じられないな。髪の色が、変わるなんて。


 ……あ、でも思い当たることはあるかも。Dブロックの戦い、途中から妙に気分が高揚してたんだよね。

 今だって、そうだ。魔族を相手にして、ぴりついた状況だった、はずなのに。


 気分の高揚、なにか関係があるんだろうか。


「髪がどうのっていうのは、わからないけど……

 今は、ドラゴンの魔力が流れ込んできたんだ。もしかして、それが関係しているのかも」


「ドラゴンの魔力だぁ?」


 これも、推測でしかないけど……ドラゴンの、強大な魔力が流れ込んできた。

 その影響で、私の中で飛躍的に魔力が上昇して、見た目にも変化が表れた、とか。


 それに……あのときも、今も、気持ちが高ぶっていたような、気がした。


『汝……名ハ、ナント言ウ』


「へ?」


 ふと、頭の中に流れ込んでくる、ドラゴンの声。

 いきなり来るから、びっくりしちゃうなぁ。


 えっと、名前を聞かれた、のかな。


「え、エランだよ。私の名前は、エラン・フィールド」


 名乗ってから、ラッヘの前で堂々とこの名前を名乗ってよかったのか、気になったけど……

 ラッヘは、気にした様子はない。


『エラン、カ……ワレノ魔力ヲ吸イ上ゲ、己ガ魔力ニ変換シタ』


「あ、それは……」


 それは……そうだよな。ドラゴンにとっては、いきなりわけのわからない小娘に、自分の魔力を吸い取られたんだもんな。

 そりゃ、不機嫌に……いや、怒っても仕方ないよね。


 責められたら、甘んじて受けよう。その上で、全力で謝ろう。

 そう、決意を固めて……


『エランヨ、ワレト戦エ』


「うん、ごめんなさ……ぁえ?」


 まずは謝ろう。そう思って、いたのだけど……

 言われた言葉は、予想外のものだった。


 いや……これは、あれか。俺の魔力を奪ったのだから、体で償え的な!

 消し炭にしてやるまで、弄んでやるぞ的な!


『ナゼ、震エテイルノカ分カラヌガ……

 汝ノ、力ガ知リタイ』


「私の、力?」


 どういうことだろう……戦いは戦いでも、殺し合いではない?

 これは……学園での、決闘に近いかもしれない。


 私の力を見たい、だから戦え。なにがどうして、そんな話になるんだ?


「あの、エランさん?」


「なに一人でぼそぼそ喋ってるんだ、気持ち悪い」


 ルリーちゃん、ラッヘ……そっか、二人には、ドラゴンの声は聞こえないんだもね。

 一人で喋ってたら、私変な子だと思われちゃう。


『恐ラク、口ヲ開カズトモ頭ノ中デ念ジレバ、言葉ハ伝ワル』


 わざわざありがとう、ドラゴンさん。でももう少し早く知りたかったな。


「あの、ね。ドラゴンに戦いを挑まれたの。いや、決闘、なのかな。

 私の力が、見たいとかで」


「はぁ!? なにがどうして、そんな話になるんだ!?」


 わぉ、ラッヘナイスリアクション。さすが同じエランという名前を持つ者同士。

 ……って、言ってる場合じゃないよね。


 そうだよね、なんでこんなことになっちゃったんだろうね。


「でも、戦いったって、私にはそんなことする理由は……」


『汝ハ、強者トノ戦イヲ望ンデイル節ガアルノデハナイカ?

 ワレ自身、強者ナドト自惚レルツモリハナイガ、汝ノ望ニハ叶ワヌカ?』


「……!」


 こ、このドラゴン、なんてことを……

 私は、強い人と戦ってみたい。だから魔導学園に入学したし、魔導大会にも出場した。強い人と戦うことは、私の望みだ。


 このドラゴン……よくわかってんじゃん!


『ソレニ、確カメタイコトモアル』


「?」


 やばい、こんな状況なのに……ワクワクしてきた!


「ルリーちゃん、ラッヘ。ちょっと待ってて。私……」


「え、もしかしてエランさん……」


「あぁ? なにを言って……おい、てめえまさか!」


 あぁ、ルリーちゃんとラッヘも、私が考えていることが、わかったみたいだ。

 二人には背を向けているけど、多分今の私、めちゃくちゃ笑ってるんだろうなぁ。そんな顔見せられない。


「あ、でも……」


 そこで、一つ思い出す。


「この魔大陸じゃ、私存分に魔力が使えなくて……全力で、いけないかも」


 この環境では、魔術はもちろん、魔法も満足には使えない。

 っそんな状態で、ドラゴンと戦うのも、どうなんだろう。


『ソノ程度、問題ナイ』


 だけど、私の心配など、お構いなしだと言うように……ドラゴンは、天を仰ぐ。

 そして、「ゴォオオオ……」と、軽く吠えた。


 ……すると、なんだか体が、楽になったように感じた。


『コノ結界ノ中ナラバ、汝ノ全力ガ出セルダロウ』


「わ、結界? すごい」


 体が軽くなった理由。それは、周囲に張られた結界によるものだ。

 うん、体は軽いし……魔力も満ちている。精霊さんの気配も、強く感じる。


 こんなすごい結界を、あのドラゴンが……

 ……すごい!


『他二、ナニカ心配事ハアルカ』


「ううん……充分だよ!」


 これはもう、やるしかない! だってこんなに体が軽いんだもん、仕方ないよね!

 ごめんルリーちゃんにラッヘ! ちょっとだけ待ってて! でもその間休憩できるし、ウィンウィンだよね!


 ルリーちゃんは、苦笑いを浮かべ。ラッヘは、あきれたようにため息を漏らしていた。

 どっちも、こりゃだめだ……と思っているようだった。

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