372話 共有する魔力



 ……ドラゴンの魔力が、私の中に流れ込んできている。

 だから、体が軽いし……体内が、満ち満ちている感覚がある。


 それに、自分のものではない魔力の存在って言うのは、なんだか初めての経験だ。

 ……悪くない。


「ちっ……まさか、そのドラゴンと契約を……!?」


 魔族は、殴られた顔面を押さえつつ、指の隙間から私をにらんでいる。

 その言葉に、私は首を傾げる。ドラゴンと契約、なんのことだろう。


 そこまで考えて……ふと、昔のことを思い出した。

 あれは、いつだったか……師匠が、使い魔について、教えてくれたとき……



『使い魔というのは、基本的には召喚魔術で、呼び出したモンスターと契約を結ぶ形になる。

 だが、稀に……召喚魔術を介さずに、使い魔契約を行えるモンスターもいる』


『ほぇー』


『これはまあ、単純に相性の問題だな。自分と相性のいいモンスターを見つけることができれば、双方の合意の下で、契約を結ぶことが可能だ』


『自分とあいしょーのいいモンスター……どうやって、それがわかるの?』


『それは、会えばわかるさ。

 使い魔と術者は、視界を共有できるって話はしたが、共有できるのはなにも視界だけではない。魔力もだ』


『魔力を、きょーゆー?』


『そう。なんて言えばいいのか……お互いに、感覚がリンクして、こう、お互いが繋がっているのが話kる、と言うか……

 とにかく、相性のいいモンスターとは、勝手にそんなことになる状態がある。だから、その現象が起きたら……』



 そのモンスターを逃してはダメだ……そう、師匠は言っていた、

 相性のいいモンスターと、繋がっているような感覚……体の中に感じる、ドラゴンの魔力……もしかして、これが!


 師匠の言っていたこと……

 じゃああのドラゴンが、私の……!?


「もしそうなら……なんだろう、すごいゾクゾクする」


 これまで、魔導士が使役する使い魔は、たくさん見てきた。

 魔導大会が、まさにそうだ。みんな、いろんな使い魔と戦っていた。


 でも、師匠を除けば初めて見た、使い魔……ゴルさんの……ゴルドーラ・ラニ・ベルザの使い魔、サラマンドラ。

 あれを越える使い魔は、見たことがない。


 このドラゴンは、サラマンドラよりも、もっとすごい……


「おい、なにをぶつぶつ言っているんだ!」


 ……とにもかくにも、今はこの状態を、どうにかしないとね。

 激昂した魔族は、三本の腕を私に向けて、伸ばす。あの大きな腕、伸びもするんだ。


 両肩と、背中から伸びている腕……もしかしたら、まだ他の場所からも、腕が出てくるかもしれない。

 注意しとかないと。


「握り潰してやるよ!」


「……遅いな」


 ただ、注意しようにも……迫ってくる腕の速度が、異様に遅い。こんなの、避けてくれと言っているようなものだ。

 だから私は、その場から前進して……迫る腕を避けるように、走る。


「!?」


 二本を避けたあたりで、魔族の表情が驚きに変わった。なにを驚いているんだ。

 また避けるのも芸がないので、三本目は手のひらで受け、弾く。


 瞬間、弾かれた魔族の腕が、パンッ……と割れた。

 なんだ、これ……丸太みたいな腕なのに。見かけ倒しか。

 まあ、いっか。ルリーちゃんを握り潰そうとしたんだ、自業自得だよ。


「っ、ぎ、ぁあああああぁあ!?」


 魔族が、叫ぶ。それは、さっきのドラゴンが放った威嚇の方向とは全然違って……

 ただ痛みを訴える、叫びだった。


「大袈裟だなぁ」


 あんな見かけ倒しのもの、割れたくらいでどうってことないだろうに。

 もしかして、痛みを訴えることで私を油断させようとしているのかな。


 確かに、魔族とはいえ子供の姿で痛みを見せつけられるのは、少しだけ心が痛むな。


「くそ、人間が!」


 怒りに表情を変えた魔族は、大きく口を開き、そこから何発もの魔力弾を放つ。

 口からなんて、ドラゴンの真似事か? ……まあ、なんでもいいか。


 なんだか、今ならなんでもできる気がする……だから私は、右拳に魔力を集中させ、迫る魔力弾をぶん殴った。

 その瞬間、炸裂した魔力は、爆発する。


「エランさん!」


「くっ、あっはははは! 馬鹿が! 自分から爆発に突っ込んでいきやがった! 自らの浅はかさを呪え!」


「……きっひひ」


 爆煙を、抜ける。その先には、魔族の顔があった。

 間近で、私の顔を見た魔族は……さっきまで高笑いを浮かべていたのに、だんだん怯えたような表情になった。


 まったく、人の顔を見てそんな反応、失礼しちゃうよ。


「な、なんで……傷一つ、ついてな……っ!」


「きっひひひひ! なんでだろーね!」


 魔族の額に、思い切り頭突きをくらわす。ガンッ、と、まるで石頭だ。

 なんであの爆発に突っ込んで無事なのか、私にもわからない。無意識的に、魔力で全身を守っていたのかも。


 まあ、いいや……なんかすごく、気分がいいし!


「ん、りゃあ!」


「がふっ……!」


 魔族の顔をわしづかみして、そのまま地面に叩きつける。

 後頭部を打ち付けた魔族は、そのまま動かなくなった。


 やられたふりをしているのかもしれないと思い、私はもう二、三回、後頭部を地面に叩きつける。


「え、エランさん! やりすぎです!」


「え……あ」


 ガンッ、と、四回目が打ち付けられた。

 手を離すと、魔族は白目をむいていた。


 これで、倒せた……ってことかな。動かなくなった魔族を突っつく。

 ……うん、動かないな。


 すごいな、これがドラゴンの魔力の力か……そして、私の使い魔かもしれない、モンスター?

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