376話 契約



「なあ、もうなにがなんだか私にはわからねえんだが」


「まあ、エランさんですからね……」


 ドラゴンとの戦い……というか、力を証明した後。私とドラゴンは、対面に立っていた。

 ずいぶん大きな体を、首が痛くなるくらいに見上げる。


「いやぁ、まさかドラゴンと契約をすることになるとは……世の中どうなるかわかんないよね」


「わかんねえのはこっだ」


 使い魔は、ほしいと思ってた。ゴルさんのサラマンドラを見て、先生の使い魔を見て……いや、それより前。師匠と使い魔に関する話をしてから。

 ただ、基本的には……召喚魔術により召喚したモンスターと、使い魔契約を結ぶというもの。


 でも、考えてみれば……いろんなモンスターを取っ替え引っ替え……げふん。いろんなモンスターと契約していた師匠は、召喚魔術はあんまり使っていなかったような気がする。

 その辺りのモンスターと仲良くなって、契約を結んでいた。


 だから、今から私がやるのは、それに近いんだろう。

 仲良くなった、かはわからないけど。一応、向こうから言い出してくれたわけだし。


「まさか魔大陸に飛ばされて、魔族に会って、ドラゴンに会って、エランさんと戦って、契約までするなんて……」


「そういやあの魔族、全然起きねぇな。死んだんじゃねぇの?」


「息はありますよ。よっぽどエランさんの攻撃が激しかったんですね」


 倒れた魔族は、そのまま放置。いくらルリーちゃんたちにひどいことしたとはいえ、殺してしまっては目覚めが悪い。

 けれど、どうやら気絶しているだけのようだ。よかったよかった。


 魔物や魔獣のように、死んだら死体も残らず消えちゃう……なんて可能性もゼロじゃないからね。


「てか、マジなのかよ。あの魔族のガキが、この村の魔族全員殺して、そこのドラゴンを地下に封じてたって話は」


「それは本人に聞いてみないとだけど……どうなの、ドラゴンさん」


 ラッへの言うように、魔族には聞きたいこともある。

 魔族がとんでもない種族とはいえ、子供が、この村全員の魔族を倒せるとはとても……

 それに、ドラゴンも手玉に取ってたみたいだし。


 せめて、ドラゴン自身のことはドラゴンがなにかわかるだろう。


『ソモソモ、ワレヲ誘イ出スコトガ目的ダッタノダロウ。

 魔力ノ乱レヲ感ジ、コノ地ヘト飛ンデキタ。ナニカヲ仕掛ケテイタノダロウ、地ノ底ヘト転移サセラレ、動キヲ封ジラレテイタ』


「転移……」


「おい、なんだって?」


 ドラゴンの言葉は、私にしか聞こえない。けれど、ドラゴンには私たちの言葉は通じているらしい。

 だから、ラッへの質問も意図を汲み取り、答えてくれた。


 正直、ドラゴンもよくわかっていない、ということがわかった。

 ドラゴンの言葉を、ルリーちゃんとラッへに伝える。


「じゃあ何か、あのガキは、ドラゴンを誘き出すためにわざわざ村の魔族を殺したってのか。しかも、誘き出したドラゴンは地下に封じた。

 なにがしたいんだそいつぁ」


「私に聞かれても……」


 結局魔族の狙いは、わからないまま……か。

 やっぱり本人が起きるのを待って、聞いてみるしかないか。


 ……いや別に聞かなくても、問題はないような気も……


「いやでも、今から契約を結ぶドラゴンが狙われてたってなると、ちゃんと知っておいたほうが……」


『ソロソロ始メテ構ワヌカ?』


「あ、うん!」


 そうだそうだ、今は一旦後回し。

 今から私とドラゴンは、契約を結ぶ。使い魔と主って関係じゃない、対等な関係として。


「んでも、私召喚魔術について、まだ習ってないんだよね」


 使い魔と主ではなく、対等な関係……それでも、使用する魔術自体は、同じはずだ。

 モンスターを召喚する魔術……それは、まだ習っていない。一年の後半で習うって、話だった。

 師匠も、教えてくれなかったし。


 私が習ってないんだから……


「私も、わからないです」


「だよねぇ」


 ルリーちゃんも、わからないってわけだ。はて、どうしたもんだろう。

 それとも、ドラゴンが知っているのかな。


「はぁ……てめえ、あんな複雑な魔法や魔術を知ってるのに、召喚魔術のことは知らねえのかよ」


「うん、なにも」


「はぁ……」


 呆れたように、ため息を漏らすラッヘ。二回もため息をつきましたよこの子。


「……別に、召喚魔術ったって、複雑な方法ってわけじゃねえよ」


 お……なんだかんだ言って、教えてくれるのか。

 やっぱり、口は悪いけど、面倒見のいい性格なんだなぁ。嫌いなはずの私にまで、教えてくれるなんて。


 モンスターを召喚する際、まずは召喚の術式というものを組み立てなければいけないらしい。

 ただ、私と契約を結ぶドラゴンはすでに、ここにいる。なので、術式云々はカットだ。


 ……カットっていうと、正確じゃないな。正確には、術式はラッヘが代わりにやってくれている。

 本来なら、モンスターを召喚する場合、召喚主が術式を組み立てる必要がある。なぜなら、術式を組み上げた人物と相性のいいモンスターが、召喚されることになるからだ。

 だから、私はやっぱり方法がわかんないまんまだ。


「じゃあ、ラッヘが作ったこの術式だと、ドラゴンさんとラッヘが契約することにならない?」


「ならねえよ。理屈は知らねえが、すでに契約するって決めたモンスターと、別の奴が上書きされることはねえよ」


『ソウダナ。術式ハアクマデ形式的ナモノ。コノ娘ガ、虎視眈々ト良カラヌコトヲ企ンデイタラ、即座ニ嚙ミ殺シテクレル』


「なんだって?」


「変なことしようとしたらお前を殺すって」


「こえぇな!!」


 すでに相性のいいモンスターがいる場合、術式を組み立てるのは誰でも構わない。必要なのは、この術式に、あることをすることだ。


「んで、互いに契約を結ぶことを同意した上で、この術式……魔法陣サークルに、互いの血を垂らす」


「え、血って……もしかして、手首切るの?」


「どんだけ出す気だ! 一滴でいい」


 私とドラゴンは、魔法陣の上に立つ。ドラゴンは巨大なので、魔法陣もそれなりに大きい。

 そして、お互いに指の先を噛み切り、血を一滴、垂らしていく。


 血が、魔法陣に触れたその瞬間……魔法陣は、青白く、輝きだした。


「これより、契約の儀式を行う」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る