370話 迫る悪意
信じられない話だけど、私の声がドラゴンに通じた……!
会話ができるってことは、一方的にやられる展開はなくなったってことだろう。
まさかモンスターと会話ができると思わなかったけど、チャンスだ。
「えっと……わ、私たちは、別に、あなたと戦うつもりはないの!」
『……ワレニタイスル、敵意ヲ感ジタ。ユエニ、ブレスヲハナッタガ……』
「そ、それは、ドラゴンなんて初めて見たから、驚いちゃって……」
先に仕掛けたのは、ドラゴン……だけど、それも私たちが敵意を向けちゃったせいでもある。
誰だって、敵意を向けられたら警戒してしまう。
警戒と言うには、結構きつめの攻撃が飛んできたけど。
「と、とにかく、あなたと争う気はないの。だから……」
『ナラバ……ナゼ、ソノ魔族ト共ニイル?』
「へ?」
ドラゴンの言葉は、少しカタコトしている……でも、ちゃんと意味は伝わる。
伝わるからこそ、ドラゴンの言葉の意味が、理解できなかった。
魔族……って、この子のことだよね。
「ソイツハ、ワレヲ弱ラセ、地ニ封ジタ張本人。
ソノヨウナ者ト共ニイルナド、ドウイウツモリダ」
……ドラゴンが、嘘を言っている? ううん、このドラゴンなら、嘘をついて私たちを騙すまでもなく、私たちを消し去ることだってできる。
今のが、本当なのだとしたら……
この、魔族の子供が、ドラゴンに苦痛を与え、そして地中に埋めていた?
じゃあドラゴンが私たちに攻撃してきたのは、敵意を感じたからじゃなくて、自分を傷つけた相手がいたから……
「? どうかしました?」
振り向き、子供の顔を見る。
無垢な表情は、とても悪いことをするようには思えない。それに、この子にあのドラゴンを、傷つけるだけの力が?
……ラッヘは、ずっとこの子を警戒していた。
「……あのドラゴンが、キミに傷つけられた、って言ってる」
「……そんなの信じてるんですか? ぼくよりも、あんな化け物を信じるんですか? というか、本当にあんなのの声が、聞こえているんですか?」
これが冤罪なら、この子にはとても悪いことをしている。あとで謝ろう。
でも、私にはドラゴンの言葉を、無視することが、できない。
それと……実をいうと、ドラゴンが姿を現したあたりから、なんだか変な空気を、感じていた。
「キミの話には矛盾がある。あのドラゴンが、村のみんなを殺したって言ったけど……ここには、その形跡がない。それに、あのドラゴンが事前に暴れていたなら、建物だって無事じゃあ……」
「あーっ、もういいよめんどくさいなぁ」
私が……というよりは、ラッへが気になっていたこと。それを、改めて突きつける。
この子とドラゴン、どっちを信じるかではなく……まずは、気になった点を、挙げていく。
そう、突きつけていたとき……急に、荒々しく吐かれた言葉が、私の言葉をかき消した。
それは、誰のものであるのか……一瞬、私は誰の言葉だったのか、わからなかった。
けれど……それは、考えるまでもなくて……
「! エランさん!」
「え……」
とん、と、横から衝撃が走った。なにかに突き飛ばされたのだ。
確認するまでもなく……それは、ルリーちゃんが私を突き飛ばしたからだ。ルリーちゃんは、意味もなく、そんなことはしない。
いったいなにが……そう思って、私は、さっきまで私が立っていた場所を、見た。
そこには、巨大な腕が、地面にめり込んでいた。
「……!?」
それは、魔族の子供から生えていた。あの細腕が、丸太のように太い腕へと、変化していた。
大きな拳は、上から押しつぶすように、突き落とされていた。私が立ったままだったら、上から押しつぶされていただろう。
魔族の子供は、冷ややかな瞳で……ゆっくりと、私を見た。
「なっ、ん……」
「ちぇっ。まさかドラゴンと話せる人間がいるなんて……どうせなら、ドラゴンと相打ちにでもなってくれれば、楽だったのに」
その雰囲気に、さっきまでの弱々しいものはない。
目を細め、まるで……獲物を見るような、視線を向けてくる。
「てめえ、ついに本性を表しやがったな魔族が!」
「あんたは、最初からぼくのこと、疑ってたね」
「ったりめ……!?」
ラッへが、魔族の子供に掴みかかろうとする……その瞬間。
急に、ラッへがその場にひざまずいた。いや……ひざまずかされた……?
あれは、まるでなにかに耐えているような、表情だ。
見えない力に、抗おうかとしているような……
「ラッへさん!?」
「ダークエルフ……てめえは後回しだ」
「んぐっ!?」
ルリーちゃんの体が、"三本目"の腕に締め上げられる。
背中から生えたそれは、ルリーちゃんの細い体など、軽く握りつぶしてしまいそうな雰囲気がある。
「なっ、やめろ!」
「まったく……村の連中を全部消したと思ったら、ドラゴンが現れて。そいつも封じたかと思えば、今度はエルフにダークエルフに、人間? どうなってんだ」
っ……村の人たちが、いないのは……こいつに、やられたから!?
ドラゴンの仕業にして、そのまま私たちと戦わせるつもりだったんだ! なんてこと!
私が、ドラゴンの声を聞くことが、できなかったら……
「まあ、なんでもいいや。今度こそ、全員ちゃんと始末しないと」
なんでこんなことを、とか、聞きたいことはたくさんある。でも、それは後回しだ。
ラッへも、ルリーちゃんも動けない……私が、なんとかしなくちゃ!
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