第284話 "魔人"と"最上位種"
「ま……じん?」
今、マーチさんは言った……"魔人"と、確かに。聞き違いではないかと言う気持ちと、聞き違いであるはずがないという気持ちとが交錯している。
この場で、"魔人"という単語に反応しているのは……私とゴルさん、王様、そしてジャスミルのおじいちゃん以外には、いない。
いや、反応というのには違いはないんだけど……みんな、初めて聞くといった表情だ。
私たちが"魔人"という言葉に聞き覚えがある理由。それは……
「ノマちゃん……」
私は口の中で、小さくつぶやいた。誰にも聞こえてはいないだろう。
"魔人"という言葉を聞いてまず思い浮かんだのが、ノマちゃんだ。今ノマちゃんは、人の血と魔の血が混ざりあった状態。
そして、レジーはその状態のノマを指して、"魔人"と言ったのだ。
「……なんだ、その、まじん、ってのは?」
ただ、その事実を知らない人にとっては、意味の分からない言葉だろう。聞いたことがないって反応だ。
やっぱり、王城に住むような偉い人たちでも、知らないことはあるんだなぁ。
とはいっても、私もその言葉以上の意味はわからない。今のノマちゃん……つまり人と魔の血が混ざりあった状態を、そう呼んでいたという以上のことは。
レジーに"魔人"の言葉の意味を聞いても、ちゃんと答えてはくれなかったし。
けれど、ここでその言葉を出してくるってことは……わかったのか、"魔人"についても。
「簡単に言えば、人の血と魔の血が混ざりあった状態のこと、かなぁ」
「人と……魔?」
「リベリアン殿の解を疑うわけではありませんが、そんなこと、あり得るのですか?」
初めて聞く二人は、初めて聞いた私と同じような反応をしていた。そりゃ、驚くよなぁ。
ハーフって意味なら、二種族の血が混ざりあっているのもわかる。でも、人と魔、となれば話は別だ。
人間族とか獣人族とか亜人族とか、それらで子供は作れるらしいけど、魔族とだけは作れないらしい。
まあ昔はいた魔族はもういないみたいだけど。
「かなり稀なケースだよ。こないだまで世間を騒がせてた"魔死事件"、覚えてる?」
「えぇ……確か、現在地下牢に捕まえてある人間が、人々に魔石を接種させ結果体の内側から魔力が暴走し死に至った、と」
「ま、一般にゃそこまで細かな情報は明かされてないみたいだけどな。それがどうした」
「被害者が亡くなった理由は、魔石に溜まっていた魔力が人の体内に流し込まれ、二つの魔力が拒絶して暴れ回ったことで体の中がめちゃくちゃになって……ってこと。
……"魔人"っていうのは、"そうはならなかった"状態のこと」
人と魔の血が混ざりあった状態……その理由に、以前まで起こっていた"魔死事件"が関わっていると、マーチさんは話す。
ここに来て、もう終わったはずの事件が出てくると思ってなかったのだろう。初めて聞く人は、驚いた表情を浮かべている。
そして、勘のいい人は、今の言葉でマーチが言いたいことがわかったようだ。
「つまり……魔石の魔力と人が元々持っている魔力。その二つが、拒絶反応を起こさずに混ざりあった状態……ということか」
「そゆこと」
「ふむ……そのような確信的な言い方。すでに、そういった事例がある、ということでよろしいか?」
そういった事例……それは、ノマちゃんのことだ。ノマちゃんが事件の被害者であることは、学園のほとんどの人は知っているけど、それ以外は情報規制が敷かれた。
それに、ノマちゃんの体が今どうなっているか、それを知る人はごく僅かだ。知れば混乱を招くということらしい。
マーチさんは、私を見る。これはもう、隠せない……というか、話さなければ話が先に進まない。
さっき意味ありげに私を見てきたのは、こういうことだったのか。
「うん。これは公にはしてないけど、"魔死事件"の被害に遭って、生き延びた子がいる。それは魔導学園の生徒。
その子を指して、レジー……地下牢に捕まえてある人間が言ったの。"魔人"って」
……レジーは、言った。ノマちゃんのことを、"魔人"と。そのときは、意味がわからない言葉だった。
『アタシは、ノマ・エーテンに魔石を食わせて、殺そうとした。
その結果、"魔人"として生き延びたのは嬉しい誤算だったけどな』
「……"魔死事件"ってやつは、確か数えるのも嫌になるくらいの被害が出てたのよな」
「あれだけの数の事件があって……生き延びたのは、たった一人。その者が、"魔人"と」
「して、その"魔人"とやらが今回の件に関わりがある……と。そういうことだな?」
かなりの数の"魔死事件"があって、ただ一人ノマちゃんだけが生き延びた。それが知れれば、きっとパニックになるだろう。
学園では、だから厳重に情報規制が行われている。
"魔人"ってのがなんなのか、今回の件にどう関係するのか……王様の疑問に、マーチさんはうなずいた。
「心して聞いてほしい。絶対、取り乱さないって約束してほしい」
「……わかった」
念を押すマーチさん……そんなに言われると不安だけど、みんな、それぞれうなずいた。
それを確認してから、マーチさんは小さくうなずき、口を開いた。
「"魔人"は、人と魔の血が混ざりあっているだけじゃない……人と魔獣の姿両方に変化してしまう存在。それは多分、真っ白な獣の姿に。
つまり、"魔人"と"最上位種"は同じ存在ということ」
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