第283話 他言無用の話



「それで……わざわざそんなことのために、俺たちを集めたのか?」


「ふむ、小僧と意見が合うのは癪ですが、同感ですな。重要な情報とはいえ、国王陛下に来ていただいてまで伝えるべき情報なものか」


 あの謎の獣が魔獣……それも、"上位種"よりも遥かに上の存在だというのはわかった。

 それはすごい情報だけど、二人の言うこともわかる。この情報だけなら別に、王族を集めてまで話す必要はないと思うんだけどな。


 それを受けて、マーチさんはこほん、と咳ばらいをする。


「まあ、これまでの話は前座……ここからが本番、ってところかな」


「前座……」


 これまでのとんでも話を、前座と言い切ったぞこの人。ただただ唖然だ。

 ただ、そうまで言い切るってことは……この後に出てくる情報は、心して聞かなければいけないだろう。


 そう感じ取ってか、一同緊張した様子。


「実は、冒険者ギルドからケルちゃんが引き渡されてきたあと、マーはケルちゃんが出現したっていうその場所に行ってみたの」


「! はぁ!? 聞いてないぞ! お前、そんな危険なところへ一人で……」


「だってカゼル昨日まで遠征行ってたじゃん、兵士たちの強化訓練でさ。

 それに一人じゃない」


「えぇ、私も同行しました」


「ジジイ……!」


 私たちが、ケルちゃんと遭遇したあの場所。あそこに、あの後マーチさんも行っていたのか。

 魔物は討伐したとはいえ、あんな場所に一人で行ったことに、カゼルはひどく動揺している。


 だけど、一人ではなかったと、アルミルのおじいちゃんが手を上げた。

 ……なんか部屋に入ったときから、強い魔力を感じていたけど……その正体は、アルミルか。カゼルとどっちかだと思っていたんだけど、今はっきりした。


 むしろ……カゼルからは、なんの魔力も感じない……?


「てめえ、勝手に……」


「私が命じたのだ。魔導士のエキスパートたるアルミルに、マーチの護衛をな。

 百の兵を集めるよりも、アルミルに託した方が安全だからな」


「もったいないお言葉。このアルミル・カルメンタール、国王陛下からの命とあらば命に代えても遂行する所存」


「命は捨てんでいい」


 マーチさんの護衛にアルミルを選んだのは、王様……その理由は、アルミルが魔導士としてすごいから、か。

 へぇえ、あのおじいちゃん、そんなにすごいんだ。ちょっとわくわくしちゃうかも。……ん? カルメンタールってどっかで聞いたような……?


 ただ、いくら魔導士として強くても……


「陛下……陛下の采配に文句はないが、魔法を吸収し魔術も使えない獣のいた場所に魔導士を連れて行くのは、いい判断とは言えないな」


「無論、武術のエキスパートたるキミが居てくれれば私もキミに頼んだが、マーチも言っていたようにキミは遠征中だった。

 それに、危険があればすぐに戻るよう、固く命じておいた」


「使えないのは魔術、魔法は吸収されるのみ……ならば、逃げることのみに注視すれば、可能だとの判断でしょう」


 私も感じた疑問を、カゼルは投げかけるけど……それは問題ないことだと、王様は言う。

 そっか、私はあの魔獣を倒そうとしていたから魔導が通じなくて苦労したけど、逃げるだけなら……アルミルのあの魔力量なら、魔法でもどっかに転送するなり逃げかえるのは難しくない。


 逃げに特化するなら、走るよりも魔導が早く確実だ。


「そういうこと。話戻していい?」


「っ……あぁ」


 どこか気に入らなさそうなカゼルだけど、このままでは話が止まったままなので、仕方ないと言うように頷く。

 あの人、武術のエキスパートなのか……そしてアルミルが魔導士としてのエキスパート。なら、マーチさんは開発研究のエキスパートって繋がりなわけだね。


 カゼルの反応を確認して、マーチさんは話を修正した。


「私がアル爺と一緒に例の森に行ったけど、別に危険はなかったよ」


「そこでリベリアン殿は、なにやら調べ物をしていましたな。いやはや、私にはさっぱりでしたが……

 ……なるほど、つまり」


「そう、その結果が出た」


「……それが、俺たちを集めるほどの理由に繋がったってことか」


 なるほど、話が見えてきた。

 あのときは、私はガルデさんやフェルニンさんと魔獣を連れて逃げ帰ることに精一杯で、その場をよく見ていなかったからな。なにか、見落としがあったのかもしれない。


 そこでわかったなにかが、私までここに呼ばれた理由……


「……」


「どうした? わかったことがあんなら話せよ、言いよどむなんてお前らしくもない」


「……そう、だね。ただ、一つ条件がある。

 今から話すことは、他言無用……誰であっても、話を漏らしたりしないって。それに、個人の感情で勝手なことはしないって」


 私は一度しかマーチさんに会ってないけど、確かにらしくない、と感じた。そんなマーチさんから、条件が出された。

 その話をするために集めたのに、その話をするために条件があるとは……それは、どういうことだろう。


 わからない……けど、マーチさんの表情は真剣だ。ここにいる人たちには話せる、話すべきだと判断しながらも、それでも保険をかけておかなきゃいけないくらいに重要な話。

 それを理解し、場には緊張が走る。


「誓おう。そして、国王として命ずる。今からマーチが話す内容は、一切の他言を禁じ、また個々の独断で行動することも禁ずる」


「ん。それと……ゴルドーラ様、コロニア様、コーロラン様……三人にも来てもらったのは、王族であるのと、それ以上にこの話が魔導学園に、いやとある生徒に大きく関係する話だから。

 ……あと……」


 王族の命令で、マーチさんの心配はひとまず大丈夫だろう。誰も、王様の命令を破ってまで話を漏らしたりなんてしない。

 それから、マーチさんさんはこの場にいる、王族かつ魔導学園の生徒である三人を見て……


 最後に、私の顔を見た。


「……あんまり、驚かないでね」


 それは、この場の全員に言われたのか、それとも私だけに言われたのか……わからなかった。


「じゃあ、話すね……"上位種"よりも上の存在、私は"最上位種"って呼んでる。"最上位種"の特徴と…………

 …………"魔人"と呼ばれる、存在について」

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