第270話 冒険者家業も世知辛い



「そういやエランちゃん、授業は大丈夫なのかい?」


 周囲の警戒を怠りながら、ガルデさんが聞いてくる。その手には、いくつかの魔石を持っている。

 それは、死んだ魔物の体が消滅して、残ったものだ。魔物や魔獣が死ぬと、不思議なことに死体は残らず、その場に魔石のみが残される。


 魔物や魔獣は、元々がモンスターが魔石を食べて生まれた存在だ。だから、倒したら魔石が出てくるというのは、わからないでもないけど……

 そのおかげで、さっきまで転がっていた魔物の死体は、今は見る影もない。倒しても、すぐに消えるものもあれば、ある程度の時間が経過してからのものもいる。


「うん。どうやら、この職場見学の時間は授業を免除してもらえるみたいだから」


「……職場見学?」


 私も魔石を集めながら、答える。魔物から出てくる魔石の数は決まっておらず、一つもあればもっとたくさんの魔石が出てくる場合もある。

 一体につき一つ、というわけではないのだ。


 今回、冒険者と組んで作業に取り掛かる際に、ゴルさんに言われたことだ。そもそもこれは、今後学園の授業……とは違うけど、一つの項目に加えようとしている試みだ。

 だから、今回私がここにいても、別に欠席とかにはならない。なんせ、学園と冒険者ギルドの合同作業みたいなものなんだからね。


「俺らから頼んでそんな心配するのも、なんか変な感じだけどな」


「ちげえねぇ」


 ケラケラ、とケルさん、ヒーダさんが笑う。

 前回は、ダンジョンという空間でしかも魔物が異質な感じだったから、よくわからなかったけど……この三人の連携は、たいしたものだ。


 三人とも剣や肉弾といった接近戦タイプ。ただ、そのため後方支援がなく、そのため私の魔導は大いに役立った、ということらしい。

 大人の、冒険者の戦い方。それは、学園で見るものとはまた違った、得るものがある。


「三人は、魔導士はパーティーに加えないの?」


「魔導士かぁ……キツいクエストに挑むときは、一時的に魔導士にパーティーに入ってもらうことはあるなぁ」


 魔導士がいるとパーティーの動きもさらによくなる。それは、ガルデさんたちもわかっているのだろう。

 現に、何度か魔導士をパーティーに加えたことはあるらしい。


 でも、基本的にはこの三人だ。


「まず、魔導士の冒険者ってのは数が多くない。だから、どっかのパーティーに入っていないやつだと、引く手あまたで競争率が高い」


「なら、パーティーに入ってもらった時に、そのまま仲間にすることはできないの?」


 魔導士の数は冒険者には少ない……そういう話は、聞いたことがある。でも、いないわけじゃない。

 それに、さっきの話だと、一時的にでも加入してもらったことがあるなら……そのときに、ずっとパーティー組みませんかとお願いすればいいのに。


 そう思ったけど、ケルさんは首を振る。


「競争率が高いってことは、逆に言えば魔導士側に選ぶ権利が発生するってことだ。つまり……」


「より好条件のパーティーに、言ってしまうってわけよ」


 ケルさんの言葉を、ヒーダさんが引き継ぐ。なるほど、そういうことか。

 引く手あまたの魔導士は、魔導士がほしいみんなにとっては必死だけど、魔導士側からしてみれば選ぶ余裕がある。どのパーティーに入ろうか、どの条件で入ろうか、と。


 で、いろんな条件を提示されて……より、高い条件を出してくれたところに、そりゃあ流れていっちゃうよな。


「そういう魔導士は、言っちゃあなんだが目が肥えてるからな。ウチに、魔導士のお眼鏡にかなう条件は出せねえ」


「だから、一時的にパーティーに入ってもらうってことしか、できねえわけよ」


「……なんか、大変だね」


 聞いてみると、思った以上に現場の状況は切羽詰まっている。

 あんまりいい条件も提示できないし、そのため魔導士をパーティーに加えられないのか。


「ま、これまでもなんとかなったんだから、これからもやってけるさ!」


 頼もしげに、力こぶを作るヒーダさんが笑う。ガルデさんもケルさんも、同様だ。

 三人とも、魔導士の必要性を感じてはいるけど、それでこのパーティーが弱いと考えているわけではない。


 そうして、話をしているうちにも……魔石回収は、完了した。魔物討伐の証として、魔物から出た魔石は持って帰る。

 ちなみに、魔石はその辺りからでも取れるので、それを魔物討伐の成果と偽って提出したらどうなるのか、と聞いてみたけど……どうやらギルドには、それが魔物のものかどうか判別する方法があるらしい。


 そういった不正があれば、ランクを落とされる。あまりに悪質なものは、冒険者をやめさせられるなんてことも。


「さて、と。もう魔物もいないようだし、帰るとすっか」


 魔石を一つのリュックに集め、それを背負うガルデさんが立ち上がる。私たちも、最後に周辺を確認して、うなずきあう。

 これで、依頼のあった魔物討伐は完了だ。結果的に、危なげなく終えることができた。


 ただ、依頼を終えたからって油断してはいけない。冒険は、帰るまでが冒険なのだから。

 まあ、ここは離れの方とはいえ国の中だし、帰るまでもそんなに時間はかからないと……


「……あれ?」


 帰るために、足を進めていた……そのときだ。なにか、違和感を感じて……足を、止める。

 なんだろうこの、胸がざわざわした感じ。なんか……気持ち悪い。


 魔物はもういないのに。まだ、なんか変な感じが、して……


「ん? おいどうしたエランちゃ……」


 いきなり立ち止まった私を心配して止まったヒーダさんが、振り返る。その直後……ヒーダさんの腹から、角が、突き出た。

 いや、正確には……ヒーダさんの背中から貫いた角が、腹を貫通して、突き出ていたのだ。

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