第266話 お時間です



 レジーとの対面。そこにノマちゃんも同席して、話を聞く。ただ、当時の状況はいきなりのことで、ノマちゃんもよくは覚えていないようだ。

 私が帰ってきたのだと思って扉を開けたら、いきなり部屋の中に押し入られ……口になにかを、突っ込まれた。


 そのなにかが、魔石だ。ノマちゃんは当然抵抗したけど、凄まじい力で部屋の奥まで押し入られ、壁に押し付けられ、やがては魔石の中に溜まっていた魔力が体内を巡る。

 その結果、体に異常をきたし、目や口や鼻や……穴という穴から、血を流していった。


 今までの事件の被害者なら、それで亡くなっていたが……


「まさか、アタシが魔石を突っ込んでから、数時間後に"魔人"に覚醒するとはな。いやぁ失敗失敗」


 レジーすら、ノマちゃんが死んでしまったと思って、部屋から逃げた。だけど、それがレジーの誤算。

 今本人が言ったように、"魔人"とやらにさせるのがレジーの狙い。そして、ノマちゃんはその"魔人"とやらになった。


 そこに数時間の誤差がなければ、ノマちゃんはレジーにいいように利用されていたのかもしれない。そう考えれば、あの現場が残ってしまったのは、幸運だったとも言えるのか?


「その"魔人"ってのが、結局なんなのかわからないんだけど」


 人と魔の血が混ざった存在……ってのくらいだ、ぼんやりとわかっているのは。

 ただ、レジーがわざわざ"魔人"ってやつを作ろうとした理由が、わからない。ただ殺したいなら、他にやり方はいくらでもある。


 けれど、それは以前も聞いたけど答えることはなかった。もしも私の魔力がもっと高ければ、意思に反してでもしゃべらせることはできたんだろうか。

 師匠くらいの魔力があればなぁ。


「わざわざ、魔石を食べさせる、なんて思いつきもしないようなことをやってるあたり、狙いはあるんだろうねー」


 今まで話を聞いていたコロニアちゃんが、話す。コロニアちゃんは、事情はある程度は知っているみたいだ。

 この事件、一般的には被害者は全身から血を流して亡くなっている……と報道されている。魔石を食べさせてとか、体内の魔力が暴走してとか、そのあたりのことは伏せられている。


 魔石なんて、今ではあちこちにあるものだ。それを、口にしなければいいとはいえ危険なものだと、人々が敬遠し始めたらどうなるだろうか。

 混乱を避けるためにも、一般的には秘密だ。


 ただ、コロニアちゃんは王族だし、そのあたりの事情も聞いているみたいだ。


「大抵の出来事には、ほとんどの場合理由があるもの。今回の一件も、そうでしょう」


 コロニアちゃんの言葉に同意するのは、おじいちゃん。コロニアちゃんとおじいちゃんの言うように、あれだけ特殊な方法を使って、"魔人"を作ろうとしたんだ。

 そこには、よほどの理由があるはず。


 今のところ、ノマちゃんに目に見えた異変はないけど……


「……ま、時期にわかるんじゃねえの」


「!」


 なにがおかしいのか、笑いながら……レジーは、そう言った。

 時期にわかると……それは、いったいどういう意味だろうか。


「ジャスミル様」


「む、もうそんな時間ですか。三人とも、残念ながらここまでです」


 と、肩を落としながらおじいちゃんは言った。どうやら、こうやって会って話すのは、時間が決められているらしい。

 わざわざそんなことしなくてもと思ったけど、こんな薄暗い場所にいつまでもいたくない……という気持ちもある。


 そう考えると、見張りの兵士さんはすごいなぁ。こんな場所で、レジーと二人きりなのに、ちゃんと自分の仕事をしている。


「なんかごめんね、役に立たなくて」


「いえ、お呼びしたのはこちらですから。

 それに、魔法の効力に抗ってでも話そうとしない、という情報を得ることはできました」


 地下から出て、一旦王の間に戻る。一応、王様に報告をしてから、私たちは学園に戻ることに。

 なんか、王城から学園に戻るこの道も、すっかり見慣れてしまったなぁ。


 ノマちゃん、私、コロニアちゃんの順で、並んで歩く。歩くん、だけど……

 二人とも、綺麗なブロンドの髪でまるでお姫様だ。片方は本当にお姫様なんだけど。おまけに、二人とも立派なものをお持ちで……


 そんな二人に挟まれるもんだから、なんだか居心地が悪い。わぁ、見られてる見られてる。


「ノーテンちゃんは、エフィーちゃんと同室なんだよね。いいなー」


「……ひょっとしてそれ、わたくしのことですの?」


「うん」


 二人ともスタイルがいいし、私の頭の上で会話が続けられている。あぁ綺麗な声だ。

 ノマちゃんは、初めて話すコロニアちゃんのマイペースさに困惑してるようだ。そりゃそうだろうな。


 ちなみに、ノマちゃんがなぜノーテンなのかというと、それはノマ・エーテンを縮めたものだからだ。

 私だって、エラン・フィールドだからエフィー……すごく独特的なあだ名だよねこれ。

 まあ、あだ名なんて人それぞれだからいいんだけどさ。


「ええと……コロニア様」


「そんな堅苦しくなくていいよー。ちゃんとか、なんならあだ名で呼んでよー」


「ええと……」


 すごい、あのノマちゃんが振り回されている……さすがはコロニアちゃん。

 コロニアちゃんとは、ゴルさんとの決闘の準備でお世話になって以来、ちょくちょく話すようになった。なので、このマイペースさにも慣れたけど。


 最初は、こんな子が第一王女なのか、と驚いたものだけど……決闘の訓練の中で、ゴーレム召喚の魔術を無詠唱でやってのけるという離れ業を見せた。

 魔術には詠唱が必要。無詠唱ができるようになるには、精霊さんとよほど仲良くなったり、魔力のことを知らなければいけない。


 魔導に関して、私よりも一歩も二歩も、先を行っている。


「あ、が、学園が見えましたわ! 懐かしいですわ!」


 コロニアちゃんのマイペースに振り回されていたノマちゃんは、話題を変えるように、道行く先を指差す。

 その先に……ノマちゃんにとっては久しぶりに帰ることになる、魔導学園の姿があった。

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