第263話 検査結果は異常なし



「フィールドさーん!」


「ノマちゃーん! 会いたかったよー!」


 お互いに腕を広げて、駆け寄って行く。勢いあまって正面から衝突、なんてこともなく、私とノマちゃんは正面から抱き合った。

 ひしっ、とお互いに強く、抱きしめ合う。そのおかげで、ノマちゃんの大きなものがめちゃくちゃ押し付けられてくる。


 大きいうえに、や、柔らかい……べ、別に悔しくなんてないんだからね!


「わー、感動の再会ってやつ? 泣けるー」


「なら泣く素振りくらい見せてよ」


「ウケるー」


「なにが!?」


 抱きしめ合う私とノマちゃんを見て、パチパチパチ、と手を叩いて拍手をする人物。振り返ったそこにいたのは、コロニアちゃん……コロニア・ラニ・ベルザだ。

 この国の第一王女で、ほわほわした王女様。ゴルさんとの決闘の際には、練習相手になってくれたりといろいろお世話になったものだ。


 ただ……


「エフィーちゃん、ちょっと泣いてるー?」


「な、泣いてない!」


 私のことを『エフィーちゃん』と変わったあだ名で呼ぶ、変わった子だ。


 学園再開から二日……今私は、コロニアちゃん同伴の下王城に来ている。

 そして、王の間で見事にノマちゃんと再会して、こうして抱きしめ合っているわけだ。


「ノマちゃん、検査の結果はなんともなかったんだね」


「えぇ、ご心配おかけしましたわ」


「マーとしては、異常があった方が安心だったんだけどねぇ……あ、変な意味じゃなくてね」


 ぶかぶかの白衣を着て検査結果を伝えてくれるのは、マーチヌルサー・リベリアンさん。通称マーチさん。

 彼女に悪気がないのは、わかっている。ノマちゃんの身に起こったことを考えれば、むしろ"異常がないことが異常"とも言える。


 だけど……


「さすがに、異常なしの年頃の女の子を、いつまでも押し留めとくわけにいかないからねぇ」


 検査をするにも、お金と時間がかかる。それを、異常が見当たらない相手にいつまで費やせられない。

 それに、ノマちゃんのことを考えても、このままずっと検査……ってわけにもいかない。


 この数日、検査を重ねて、その結果が異常なしだ。


「人と魔の魔力が混ざった状態を、異常なしって判断していいかは議論の余地があるけどね」


「ですがわたくし、元気ですわ!」


「と、本人も言ってるからねぇ」


 人と魔の血、その問題を除けば、なんの問題もない。その状態が"魔人"と呼ばれる者だって言うのも、一部しか知らない。

 ……どうやら、この数日の間に、ノマちゃんにレジーを会わせたらしい。もちろん、檻の柵越しに、監視の人付きで。


 ノマちゃんをあんな状態にしたレジー、"魔人"という単語を口にしたのも彼女だ。

 自分が殺そうとした相手と会わせたら、なにか反応があるのではないかと思ったみたいだけど……結果は、反応なし。


 どうやらレジーは、捕らえられて以降、沈黙を守り続けているらしい。最低限出される食事も、口にしていないのだとか。


「ただ、なにがあるかわからない。少しでも変だと思ったら、すぐに言うんだよ」


「もちろんですわ!」


「私も、これまで以上にノマちゃんのこと見ておくよ! あと、レジーのこと殴りに行ってもいいかな!」


「いいわけないだろう、唐突だな」


 ノマちゃんの元気な姿を見ていると、ノマちゃんをあんな目に遭わせたレジーにむかっ腹が立ってきた。

 だから、ここに来てついでに殴りに行っていいか聞いたんだけど……王様から、待ったがかかってしまった。


「えー」


「えーじゃない。

 ……とはいえ、今日キミをここに呼んだのは、彼女に会わせる目的もあったのだがな」


 膨れて見せると、王様はあからさまに疲れた表情を見せた。

 どうやら、レジーの扱いに参っているらしい。


 "魔死事件"についてや、魔獣を操っていたこと……彼女には聞かなければいけないことが、たくさんある。だから、即座に処刑する、なんて判断も出せない。

 ……それにしても、レジーがルランのことを話していないっぽいのが意外だな。"魔死事件"に関してはルランの冤罪がほとんどなんだから、せめてルランの名前くらい出すのかもと思っていたけど。


 それとも、私の魔法で強く命じているから、名前を出さないだけなのかな。


「確か、キミの魔法で彼女は、キミの言うことには逆らえないのだったな」


 王様が、確認するように私に聞いてくる。

 私はレジーに『絶対服従』の魔法をかけた。それにより、私の意思には逆らえなくなっている。もっとも、これも完全にそうであるわけではないけど。


 ただ、『絶対服従』なんて言うとすごく物騒なので、やんわりと伝えている。その内容にあんまり違いはないように聞こえるけど。


「まあ、そうですね。

 じゃあ私を呼んだのは、ノマちゃんといち早く会わせてくれるだけじゃなくて……」


「レジーに、なんらかの働きかけをしてほしいと思っていてな。このままではらちが明かない」


 ふむ、そういうことか。『絶対服従』の魔法は使用者が近くにいなくても持続するけど、長くその時間が続くか、使用者の魔力が尽きるかすると魔法の効果も切れる。

 逆に言えば、定期的に魔法をかけ続けることで、相手の抵抗の意思を奪うことができる。


 うーん、今日はこのまま、再会したノマちゃんと学園に帰って、新しく用意されている部屋で、新生活の準備を始めたかったんだけど……


「わかりました。その役目、引き受けましょう!」


 ノマちゃんといち早く会わせてくれたその心遣いには、報いないと!

 それに、レジーを殴るのは二割冗談だけど、その後が気になっていたのも事実だしね。

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