第262話 再開初日の生徒会



 とりあえず、私とノマちゃんの新しい部屋は手配されているらしい。


「一応確認だ。あの部屋に、とても思い入れがあれば無理に離すことはできん、という」


「思いやってくれるのはありがたいけど……どんな思い出があっても、友達があんなことになった部屋に住み続ける勇気はないよ」


 いくらなんでも、私はそこまで図太くない。ノマちゃんだってそうだろう。

 しかも、ノマちゃんに至ってはあんな目に遭った本人だし。住み続けたとして、事あるごとに思い出してしまうだろう。


 だから、新しい部屋を用意してくれるというのならありがたい話だ。

 私は今、ルリーちゃんとナタリアちゃんの部屋に厄介になってるけど、基本的に部屋は二人用だし……


 そりゃ、頼めばあの二人ならそのまま住まわせてくれそうな気はするけど。さすがに気が引けるし、戻ってきたノマちゃんはどうするって話だ。


「いやでも、まさかすでに部屋のことを考えてくれてたなんて……」


「学園の生徒のことだ、当然のことだ」


 やだ、ゴルさんったらイケメン! 普段仏頂面だけど、こういうところで気が利くんだもんなぁ。

 そういえば、ちょくちょく聞くなぁ……ゴルさんのこと、いいなっていう女の子の声。顔は整ってるし、魔導も強いし、王族だし。モテる要素たくさん。


 ただまあ……ゴルさんには婚約者がいるのは周知の事実。しかも、婚約者であるリリアーナ先輩は、ゴルさんのことが大好きだというね。

 だから、ゴルさんをいいなぁと遠目に見る子はいても、告白しようとアタックする子はまずいない。


「なんだ、その目は」


「いや、私の知らないところで、いろいろしてくれてるんだなって」


「言った通りだ、生徒のことなら当然だ」


 生徒会長であるゴルさんは、生徒のことを第一に考えてくれている。学園が休校だった間も、きっといろいろ考えてくれていたに違いない。

 ただでさえ、王族で第一王子で、やるべきことがたくさんあるんだろうに。


 ゴルさんはこのままいけば次の国王になるんだろうけど……なんとなく、教師も向いているんじゃないかって、感じがするな。


「しっかししっかしみんなすごいねー。動きがテキパキテキパキとしてて、オレオレ、やることあるのかって感じだ。

 顧問の先生がほとんど顔を見せないのも、わかる気がする」


 一方で、ゴルさんや他の先輩たちの仕事ぶりに、驚いた様子のウーラスト先生。副顧問になったばかりだからまだやることがない、というのもあるんだろうけど。

 みんなの動きぶりを見ていると、入り込む余地がないのもわかる。


 このままじゃ、ウーラスト先生も顔を出さなくなるんじゃないかと心配になるほどだ。


「……今日のところは、こんなところか」


 その後も、連絡事項などが知らされて、それを聞いているうちに時間も過ぎていった。

 外はそろそろ暗くなり始め、校内に残っている生徒も少なくなっている頃だろう。


「みんな、いつもこんな時間まで生徒会活動してるのかい?」


「いや、今日は再開初日だから、やることがいろいろあっただけっすよ」


「それに、毎日毎日やっとるわけでもないしのぅ」


 みんな片付けをしている中で、ウーラスト先生は先輩たちと話している。

 教室で見た、先生たちのやり取りとはまた違う。昔から知っている仲じゃなくて、今日会ったばかり。


 それでも、人間とエルフが仲良く話をしている。なんか、胸が温かくなる光景だな。


「そうだ、エランちゃ……なに笑ってるんですか?」


「え? そんなことないですよ?」


 三人が話している姿を見ていたところへ、リリアーナ先輩に話しかけられた。鈴のようなきれいな声だ、なんだか落ち着く。

 変なふうに見られてしまった気がするけど。


 ちなみに、いつしかリリアーナ先輩には、エランちゃんと呼ばれるようになったのだけど……先輩みたいなクールな人からちゃん付けで呼ばれるのは、なんだかくすぐったい。


「どうかしましたか?」


「あ、えぇ。ノマ・エーテンちゃんのことだけど……

 彼女、二日後には学園に戻れるらしいわ」


「ホントですか!」


 リリアーナ先輩の話、それはノマちゃんに関することだった。

 私にとっては嬉しいお知らせ! 王城で会うことはできたけど、その後も検査が続くらしくいつ帰ってこれるのかはわからないままだった。


 だけど、二日後、かぁ。


「まだ、検査がかかるんですね」


「特殊な事例だからな」


 ぽつりとつぶやいた私の言葉に反応したのは、ゴルさんだ。彼は足を進め、リリアーナ先輩の隣に立った。

 それが、意識してのことなのか無意識のことなのかは、わからないけれど。


「特殊……そうですよね。だって、まじ……

 あ、これってみんなに言っちゃってもいいやつですかね」


「構わん。というか、すでにここのみんなには情報を共有してある」


 ノマちゃんの身に起こった特殊な事例。それは、魔石の魔力を流し込まれた結果、ノマちゃんが"魔人"と呼ばれるものになってしまったこと。

 事が事だけに、果たして話しても良いものかと思ったけど……


 どうやら、ここにいるみんなには話しているみたいだ。


「ただ、生徒会外の者には話すな。いらん混乱を与えかねん」


「それは……うん」


 他の生徒に話しても、混乱を招くだけ。正直私だって、なにが起こっているのか正確に把握しているわけじゃない。


 いきなり"魔人"がどうのって言われても……わけわかんないよね。

 とはいえ、これまで死人しか出ていない"魔死事件"唯一の生存者だ。学園に戻ってきたら、みんなからいろいろ聞かれるのは間違いない。


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