第261話 やるべきことはたくさんある



 生徒会副顧問になっていた、ウーラスト・ジル・フィールド先生。教室に入ったらいきなり居たもんだから、驚いたよ。

 ただ、もう決まっていることなら私からは文句はない。ゴルさんたちも、受け入れているみたいだし。


「それにしても、驚いたよなー。あのグレイシア・フィールドの弟子が、生徒会に二人もいるなんてさ」


 私とウーラスト先生とを交互に見て、タメリア先輩が笑っている。なんか教室でも似たようなこと言われた気がするな。

 やっぱり、珍しいことなんだろうな。


 というか、ウーラスト先生優雅に紅茶を飲んでいる。馴染みすぎではないかな?


「んー、おいしい。それに、いい香りだね」


「恐縮です」


 紅茶を淹れたのは、リリアーナ先輩か。先輩の淹れた紅茶はおいしいからなー、ああいう穏やかな表情になるのも、無理はない。

 先輩たちも、ウーラスト先生にはある程度馴染んでいるみたいだ。なんというか、さすが三年生。順応が早い。


 その中で、ウーラスト先生を観察するように見ているのが……


「……」


 シルフィドーラ・ドラミアス……シルフィ先輩だ。この生徒会で唯一の二年生。

 私のことを気に入らないのは、知っている。ゴルさんをめちゃくちゃ尊敬している彼は、身の程知らずにもゴルさんに決闘を挑んだ私が嫌い、なのだとか。


 だから、そういった意味で私だけ気に入らないのかと思ってたけど……そうでもないみたいだ。

 おおかた、エルフの教師に警戒しているってところか。


「さて、エランも来たことだし、連絡事項をまとめようか」


「へーい」


 生徒会メンバーが集まり、会長であるゴルさんの言葉により場の空気が変わる。……変わったような気がする。

 手元の資料に目を落としたゴルさんは、一瞬間を置いてから……


「学園内で起こった二件の"魔死事件"……うち一人は亡くなり、うち一人は一命を取り留めた。

 その犯人が捕まったため、学園を再開するに至った。これは周知のことだと思う」


「ま、校長先生から直々に話があったわけだしのぉ」


 ゴルさんの説明に、メメメリ先輩が相づちを打つ。

 ゴルさんが話したのは、ここにいるみんなが周知していることだ。午前、校長先生から説明があった。


 あんな物騒な事件があったから、学園が休校になるのは当然。そして、安全が確保されたから、学園は再開した。

 それを、今一度確認する。


「学園が休みだった間も、やるべきことは溜まっていた。むしろ、休みだったからこそやるべきことも増えたと言える。特に……」


「生徒のケア、ですか」


「あぁ」


 学園が休みになったことで、増えた仕事……それが、生徒へのケア。

 いくら安全になったとはいえ、学園内で死者が一人、重傷者が一人出たのだ。みんな表面上は平気に見えても、実際はわからない。


 それに、死んでしまった子の近しい子は、心配だ。

 ……恋人だったっていう女の子。果たして、大丈夫だろうか。


「今後は、積極的に生徒の様子を見ていってほしい」


「生徒同士でしか解決できないこともあるからね。教師ももちろん力を尽くすけど、キミたちにも頑張って欲しい」


 それはまあ、そうかもしれない。同じ立場である生徒同士の方が、話しやすいこともあるってもんだ。

 デリケートな問題だもんな、これは……


 私も、まだ入学してそれほど経っていないとはいえ、不安そうな人を見かけたら積極的に関わっていこう。


「次に、これはエラン、お前に直接関係することだ」


「私に?」


 ゴルさんはふと、私を見て言った。

 はて、私に関係することとはなんだろうか? なにか、この場で言わなければいけない、重要ななにか……


 もしかして、私がダークエルフのルランと関係があることが、バレてたりとか……


「お前の、元々の部屋のことだ」


 ……違ったみたいだ。


「お前と同室のノマ・エーテン。彼女が被害に遭ったのが、お前たちの部屋だ。つまり、事件現場だな。

 憲兵が事件の調査のため、部屋を調査していたが……それも時期に終わるそうだ」


「そ、そうなんだ……」


 事件は解決したし、なにより現場に残っているものは検証し終えた。だから、封鎖されていた部屋が使えるようになるってことだ。

 ……ん? それってもしかして……


「お前たちが望むなら、元通りあの部屋を使うということも……」


「いやだよ!? それはさすがに無理だよ!」


 私たちの部屋が事件現場で調査対象になっていたから、私は一時ルリーちゃんたちの部屋にお世話になっていた。

 私たちの部屋が解放されれば、もうルリーちゃんたちに迷惑をかけることはなく、部屋に戻れるのだけど……


 さすがに、あんな凄惨な事件が起きた部屋に、戻ろうとは……ちょっと、思えないよなぁ。

 ノマちゃんだって、自分が血まみれになった部屋に戻りたいとは思わないだろうし。


「部屋のことなら心配するな。大量の血も、魔法できれいに消せる。そこであった痕跡など、なにもなかったように消えてなくな……」


「そういう問題じゃないから! キレイ汚いの問題じゃないから!」


 部屋が綺麗になっても、あそこであったことがなくなるわけじゃないからね!?


「冗談だ」


 けれど、ゴルさんは……先ほどと同じ表情のまま、言った。冗談だ、と。

 私は、一気に力が抜けるのを感じた。


「じょう……」


「あぁ。本気で、またあそこに住めと言うわけないだろう。

 安心しろ、新しい部屋はすでに手配している。だからお前たちはそこに……」


「わっかりにくいよぉ!」


 ゴルさん、冗談とか言うキャラなの!? わかんないよ! しかもあんな真顔で言われたらさ!

 新しい部屋を用意してくれているという話はありがたいけど……ああいう冗談は、やめてもらいたい!

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