第250話 生徒vs教員の決闘勃発!?
「……へぇ、勝負」
私の言葉に、エルフの男は動揺するでもなく、うっすらと笑っていた。まるで、この展開を予想していたかのように。
それは、どっちでもいい。この学園では、勝負……決闘を挑む方法がある。私は実際に、その方法でゴルさんに決闘を挑んだわけだし。
抜いた杖を、決闘を挑む相手に向けて……杖の切っ先を、三回光らせる。それだけだ。
まずは、一回。続いて……
「そこまでだ、フィールド」
だけど、そこにさっきよりも大きな先生の声が、響いた。
はっとした私は、意識を先生に向ける。
「な、なんですか」
「お前……まさかこいつに、決闘を挑むつもりか?」
「そうですが」
私のやろうとしたことを察した先生は、私が決闘申請を行うより前に止めた。
その上で、頭をかき、はぁとため息を漏らした。
「それはやめておけ」
「なんでですか。決闘は、自由にできるんですよね」
私は杖はエルフの男に向けたまま、先生に問う。
決闘は、生徒同士では自由に行える。負けた時のリスクが高いから、あまり行われないらしいけど……それが、ルールだ。
だったら、私が誰に挑んでも、問題ないはず。
「それはそうだが……それはあくまでも、生徒間における決闘の話だ。
生徒と教員の決闘は禁止されている。知らないのか?」
「……そうなの?」
生徒同士の決闘は問題ない。でも、生徒と教師の決闘は、禁止されている。初耳だ。
確認のために、みんなに聞いてみると……みんな、首だけ縦に動かしている。体は拘束されていても首は動かせるのか、それとも拘束の力が緩んだのか。
生徒と教師の決闘は禁止……これは、周知の事実って、ことか……
ていうか……
「ぷっ、くふふ……人のことをチャラいとか品位とか言っておいて、誰もが知ってるようなことも知らない無知とは……くふふ」
「……っ」
こ、こいつが、教師だっていうのか……!? 今私を笑っている、この男が!?
そりゃ、転校生というには年食ってると思ったけど……だからって!
「こ、こんなのが、教師だっていうの!?」
「おいおいおいおい、人を指してこんなのはないだろう。
品性を疑うぜ、妹弟子」
「うっさい! 誰が妹だ!」
くっそー、バカにして! エルフってこんなのばっかなの!?
師匠はちょっと抜けてるとこがあって、かわいいものだって思ってたけど……この人は、ただただ意地悪だ!
禁止とか知るか! 絶対にぶっ飛ばしてやる!
「教員……というのは、少し違うか。いわゆる、教育実習生ってやつだな」
「きょーいくじっしゅーせい?」
「教員になるために受ける実習みたいなものだな。なので正確にはまだ教員ではない、が……
それでも、決闘というのはなぁ」
よくはわからないけど、私が生徒で、このエルフが教員に似たようなもので、決まりで決闘が出来ないと言うのなら……残念ながら、それに従うしかない。
でも、それじゃあ、この胸のむかむかが、なんかもう……あれなんだけど!
そんな私の気持ちを察してくれたのかは、わからないけど……
「だから、まあ……決闘でなく、練習試合、のような形であれば、こちらとしても止める理由はない」
「練習……試合」
「あぁ。まあ、言い方はいろいろあるが、生徒が教員に一対一の摸擬戦を挑むことは、まあ珍しくはない」
決闘ではなく、試合……か。
いや、なんでもいいよ! この男をぶっ飛ばせるのなら!
「ただ、あくまでも生徒の個性を伸ばす、あるいは苦手を克服するために直接仕合うというだけのものだ。決闘のように、本気の勝負というわけには……」
「じゃあ、その練習試合申し込むよ!」
「聞けよ!」
とりあえず、戦っちゃダメなわけではないのなら、やってやるさ!
師匠の弟子を名乗る不届き者、チャラついた態度、みんなへの強制的な魔法、それに……エルフ!
師匠以外のエルフと戦える機会なんて、滅多にない!
「……ま、オレオレは構わないけど? キミの噂は聞いてたから、興味はあったんだよねー」
「私の、噂。やだ、そんな私がいくら超絶美少女だからって、初対面で口説くっていうのはちょっと……」
「あっはは、聞いてた以上に面白くて頭のおかしい子だ。
いろいろ聞いてるよ、入学時にとんでもない魔力を測定したとか、魔獣を素手で殴り殺したとか、目があっただけで誰彼決闘を挑む狂犬だとか」
「ひどい噂!」
私の知らないうちに、私に対する噂がとんでもないことになっているらしい。これは近いうちに、なんとかしなければいけないだろう。
ただ、それは後回しだ。今は、このエルフとの勝負!
この人が、師匠の弟子かどうかはともかく……みんなを拘束している魔法、魔力、そのどれもかなりのものだ。
それに、エルフ族は魔力の扱いに長けた種族だ。且つ大人……その知識や経験は、いっぱい持っているはず。
「……二人がそれでいいなら、止める理由はない。
というかウーラスト、そろそろ生徒の拘束を解け」
「はいはい、というかヒルヤセンセならオレオレの魔法も解除できたでしょ」
「悪意があれば、すぐにでもしていたさ」
ピリピリとしていた魔力の気配が、消える。直後、あちこちから声が聞こえた。
体と声の自由が効くようになり、みんなほっとした表情を浮かべている。
ただ、それを見て……
「はいはーいはいはーい、またうるさくしたら、また黙らせちゃうよ?」
パンパンッと手を叩くエルフの男の言葉で、みんな一斉に静まり返ったけど。
こいつ、みんなの心にトラウマみたいなもの植え付けやがったな……
「先生!」
「……はぁ、わかってるよ。まったく、学園再開早々、なんでこんなことに……」
頭を抱える先生には悪いと思ってるけど、私は早く、あのエルフの男と勝負がしたい!
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