第249話 師匠の弟子と師匠の弟子
いきなり現れた、謎のエルフ。多分先生が連れてきたらしいエルフの男。
まあ、それはいい。それはいいよ。エルフが世間からどんな存在で見られてるとか、先生とどんな関係なのかとか、気になることはあるけどまあいいよ。
問題は、このエルフが……グレイシア・フィールドの……師匠の、弟子だと言い放ったことだ。
しかも、一番弟子だと?
「そんなわけで、よろしくぅ!」
師匠と同じエルフ……それに、いろんな場所でいろんな影響力を残している師匠だ。確かに私以外にも、弟子がいてもおかしくはないのかもしれない。
でも……それが、こんな……いかにもふざけた感じの男……? しかも、一番弟子……?
「あんたが、師匠の弟子……?」
「んん?」
気づけば、私は立ち上がり、エルフの男を睨みつけていた。
他のみんなとは違って、私は体を拘束されていないから、自由に動かせる。
「お、おいフィールド……」
「先生は黙っててください」
「……」
先生が、居心地悪そうに私に声をかけてくるけど、私はそれを切り捨てる。肩をすくめて、先生は額に手を当てた。
なるほど、さっきから先生が私をチラチラ見ていたのは、このためか。
師匠の一番弟子、私の前に、師匠の一番弟子を名乗る謎のエルフが姿を現す。それを想像して、気が気でない状態だったんだろう。
「えぇとえぇと、キミは?」
「……エラン・フィールド。グレイシア・フィールド師匠の一番で……」
「あぁあぁ、エラン! 話には聞いてるよ! 黒髪黒目の珍しい人間が、グレイ師匠の弟子を名乗ってるんだって!」
私が、自己紹介を……師匠の一番弟子だと言い切る前に、エルフの男は手を叩いた。思い出した、とでもいうように。
そして、言うのだ……師匠の弟子を名乗る人間がいる、と。
それは……私に対する挑戦かなにかだろうか? それに……
「ぐ、グレイ、師匠……?」
「ん? あぁ、グレイシア師匠だと長いから、まあまあ愛称みたいなもんだよ。もちろんもちろん、師匠公認だよ」
まるで、自分と師匠の仲の良さを見せつけるように、師匠を愛称で呼んだ。
グレイ、師匠……なんだよその愛称、ちょっとかっこいいじゃんか……! くっ……!
だけど、なんだこのモヤモヤ感……!
「で、キミがグレイ師匠のなんだって? さっきなんかなんか、言いかけてたけど?」
「……グレイシア師匠の、一番弟子」
「へぇ、一番弟子と来たか」
一番弟子だと言い放った私を見るエルフ男の目は、まるで私を値踏みするように細められている。あのきれいな瞳に見つめられたら、嬉しくなっちゃうはずなのに……
なんだろう、この寒気は。
私の知っているエルフとは、違う。もしかして、レジーみたいに、何者かがエルフに化けているんじゃないか?
そう思ってしまう。それとと同時に、直感があった……この人は間違いなく、エルフだと。
矛盾した思いが、自分の中で回っている。
「そう。私より前に弟子がいたなんて聞いたことない。私が師匠の一番で、唯一の弟子」
「そういう思い込みはよくないなぁ。弟子がいなかったってのも、それはそれは"人間の"って意味だろう」
「エルフの弟子がいたなら、そう言っているはず」
「人間の小娘に自分のすべてを話す義理があると?」
「……」
「……」
私とエルフの男は、睨み合う。その間、誰も言葉を発しない……いや、発せない。
言葉の自由を縛られていない先生も、なにを話せばいいのかわからないんだろう。筋肉男は、知らない。
この人が本当に師匠の弟子なのか、わからない。でも、証拠がない。名乗るだけなら誰だってできる。
「師匠のことだから、弟子入りしたいって人は何人もいたんだと思う。私以外に弟子はいないっていうのも、人間のって意味ならまあ理解はできるよ。
師匠、そういうの抜けてるとこあるし」
そう、考えてみれば師匠は、結構抜けている。私に世間の常識ってやつを教えてくれたけど、それでも知らないことは多い。
人間とエルフの確執なんか、その最たるものだ。師匠もエルフだから話しにくかったのかもしれないけど、せめてちょっとは教えてほしかったなー。
だから、私以外の弟子の存在はまあ、認めてもいい。ただ……
「あなたみたいな、チャラチャラしたやつが師匠の弟子なわけない!」
師匠の弟子だというのなら、もうちょっとシャキッとした人のはずだ! 私のように! そう、私のように!
でもこの人は、全然そんなことない。言葉遣いも、雰囲気も。
それに、話を聞かせるためだからって、みんなの体の自由を操るのは……どう考えても、やりすぎだ。
「ほぉほぉー……じゃあなにかい? あんたが師匠の弟子だなんて私は認めない……ってやつかい?」
「そ……まあ、そうなる、かな」
「オレオレは別にキミに認められなくても問題ないんだけどねぇー……認められないと、どうなるんだ?」
ぐぬぬ……こいつ、やっぱりチャラい! 私こいつ嫌い!
私が認めないとどうなるか、だって……?
「師匠の品位を貶めるようなことは、許さない!」
「許さない、ね」
「そうよ!」
「オレオレは、自分の態度を改めるつもりなんてさらさらさらさらない」
頑なに、この態度を変えようとしないエルフの男。
くそっ、変な喋り方しやがってぇ! こんなんで師匠の弟子を名乗るなんて! もう我慢できん!
「第一、今のって全部ブーメランだよね。キミがグレイ師匠の弟子だってのも、キミが勝手に言ってるだけってことも……」
「だったら……」
「! お、おいフィールド……」
「だったら、私と勝負しなさい!」
我慢できなくなった私は、感情に任せたままに、杖を抜き杖をエルフの男に向け……勝負しろと、叫んだ。
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