第251話 とんでもない女の子



 生徒と教師の練習試合。それはクラス内で宣言され、混乱を防ぐために他のクラスへの他言無用を言い渡された。

 さすがに、学園が再開したばかりで、今日から教育実習に来たエルフの先生に勝負を挑んだ……というのは、いろいろと情報過多で、むやみに言い触らさないようにどのことだ。


 私は試合じゃなくて、もう決闘のつもりだけどね! ただ、学園の仕様的にしょうがないみたいだけど。


「もー、エランちゃん! なんでこうなっちゃうの!」


「なんでと言われても……」


 ホームルームが終わり、先生たちがいなくなった後で、私はクレアちゃんに詰め寄られていた。

 いや、周囲には他の子の姿もある。みんな、なにを言いたいのか、それはだいたい同じようだ。


 クレアちゃんに肩を揺らされ、私は「あー」と声を漏らしてみた。


「もう、ふざけないの!」


「ごめんなさい」


 普通に怒られてしまった。


「はぁ、もう……まあ、エランちゃんだから仕方ないか」


「そうですね……」


「あぁ、フィールドだもんな」


「しゃあないしゃあない」


 みんな、呆れたような言葉を漏らしている。

 あれ、私への評価おかしくない? 私が、誰にでも決闘挑んでもおかしくないように認識されてない?


 私がこれまで、自分から決闘を挑んだのは、ゴルさんだけだよ! まったく!


「まあ、それはもういいけど……本当なのかしら、あのエルフが、グレイシア様の弟子なんて」


 やっぱり、私だけじゃない。他にも、あのエルフが師匠の弟子なのか、疑っている子はいるみたいだ。

 そりゃ、いきなり現れて、グレイシア・フィールドの弟子ですなんて言っても、いきなり信じられるわけは……


 ……あれ、なんか私も似たようなシチュエーションだった気もするな。よくもまあ、みんな信じてくれたものだよな。


「名を騙るだけなら、誰でもできますわ」


「でも、いくらなんでもあんな堂々と言うかな」


「証拠なんてなにもないだろ」


「……私が言うのもなんだけど、私も別に師匠の弟子だって証拠はないのに、よくみんな信じてくれたね」


 あのエルフは師匠の弟子なのかそうではないのか……そう口々に話しているみんなは、私のことはすんなりと信じてくれたと思う。

 師匠と同じフィールドって名前だけじゃ、ただ偽ったと思われてもおかしくないのに。


 するとみんなは、一斉に私を見つめて……


「……魔力測定の魔導具ぶっ壊すとんでもない魔力してたし」


「実際にダルマス様との決闘でも力の大きさは伝わってきたし」


「不思議と、嘘だとは感じられなかったのよね。多分、エランちゃんがア……素直な子だから、かな」


 まるで当時のことを思い出すように、語り始めた。

 思い出すのはやっぱり、印象深いことばかりだよな。私としては、魔導具壊しちゃった件は忘れてもらいたいんだけど。


 それに、私が心のきれいな正直者だから、みんなに信じてもらえたってことらしいね! なんか言い直したように感じたけど、いや気のせいだよね!


「その後は、魔獣を倒したりあのゴルドーラ様と決闘したり……あぁこの子、なんかとんでもないんだなって思って」


「それに、強さだけじゃなくて性格も不思議というか。なんで、生徒会長と決闘したあの流れで、生徒会に入ることになってんだよ」


「それはまあ、いろいろとね」


 思い返せば、いろんなことをしているんだなぁ私。これが自分のことでないのなら、面白おかしく見ることができるんだけどなぁ。


 私が生徒会に入ったのは、生徒会に誘われたからだ。そして誘われたのは、ゴルさんが私の実力を認めてくれてのこと。

 あの決闘で、私は敗けた……わけだけど、ゴルさんは自分が敗けたと思っているみたい。そんな複雑な感情、他の人にはわからない。


「まあ、今言ったように、エランちゃんの実力はもちろん、エランちゃんがとんでもないことをやらかす子だって言うのは、みんなもうわかってるの」


「おぉう……」


「その上で、まさかこんな展開になるとは思ってなかったわ」


 なんか、みんなに私という人間を理解されてるのは嬉しいけど、同時にちょっと物申したい気分だなぁ。

 いやまあ、みんなの気持ちもわかるんだけどさ。


「うん、わかった。みんなが私をどう思ってるかはわかったから、もうその辺にして」


「……で、お前、あの教員……実際には教育実習生か。が、グレイシア・フィールドの弟子だと聞いて、頭に血が上って勝負を挑んだわけだ」


「……やめてって言ったのにぃ」


 私の言葉など無視するように、ダルマスが的確な言葉を投げかけてくる。その的確な言葉が的確すぎて、返す言葉も見つからない。

 でも、待ってほしい。


「それだけが理由じゃないよ! みんなのこと、魔法で拘束したから、かっとなって……」


「あー、あの魔法はすごかったですわ。声も出せない、指一本も動かせませんでした」


「うん、すごかった」


 あの魔法を直に受けた身としては、とにかくすごかった、ということらしい。

 あれがすごい魔法だってのは、私にもわかった。魔力を感じただけでも。


「そんなすごいエルフに、お前は勝負を挑んだ。それも、練習試合じゃない……決闘のつもりで。つまり、勝てる自信があると?」


「……わかんない、けど。勝ちたいし、戦いたいと思ったのは確かだよ」


 師匠の弟子、みんなへかけた魔法、そしてエルフ……様々な要因から、戦ってみたいと思った。

 そして、戦うからには勝つ! それが私の考えだ!


 みんなにはとんでもないことだと言われたけど、私はもう、引き返すつもりはない。


「本当なら、エルフを教員に連れてきた理由や、やけにサテラン先生と親しい理由を聞きたかったけど、それも後回しになっちゃいましたね」


「それは本当に申し訳ない」


 いろいろ気になることがあるのに、私が勝負を挑んだからそれが吹っ飛んでしまった。申し訳ない。

 勝負が終わったら、聞くことにしよう。今は、目の前の勝負だ!


 やがて、約束の時間が迫り、私たちは勝負をするための会場へと向かっていく。

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