第232話 きょうだいは仲良くしないとね
「……」
何発か顔を殴られてしまったレジー、彼女を捕まえ、私とルランはそこに立っていた。
手首を縛られ、動けないというのにニヤニヤと笑っているレジー。その態度に、不穏なものを感じるんだけど……
問題は、このあとのレジーの処理をどうするかだけど……
「こいつには聞きたいことがある。ダークエルフを滅ぼした理由、仲間の居場所、すべて吐いてもらう。そのあと殺す」
腕を組み、レジーを見下ろすルランの目は冷たい。仲間たちをほとんど殺されたんだ……それも当然か。
ただ、私としても聞きたいことはあるわけで。
……レジーは、なにかを知っている。私、というよりも、この色の髪と瞳に関して、重大ななにかを。
だから、殺すなんて物騒なことをする前に、話をしたいんだけど。
私の話も、ルランの話も、まともに聞いてくれるのかわからないな。
「殺すって……話せば殺されるってわかってるのに、素直に話す人はいないと思うけど」
「そうそう、よーくわかってんじゃん」
……なんか同意されるのも変な感じだけど、今言った通りだ。
殺されるとわかっているのに、情報を渡すようなやつはいない。ルランが殺す殺すって言うもんだから、意固地にも話さないよこの様子じゃ。
かといって、ルランに預けてはいさよなら、っていうのもなぁ……ルラン一人に預けても、今度はレジーを捕らえておくような場所もないだろうし。
じゃあレジーを連行でもするのかって聞かれると……それも、難しい。だって、レジーはなにもしていないから。正確にはダークエルフに化けはしたけど、それで誰かに被害を加えた、ってわけでもない。
町中を混乱されはしたけど、レジー自体はなにも……
「あ、魔獣がいるか」
そうだった、レジー自体はなにをしていなくても、魔獣を呼び出したのがレジーならば。それを理由に、連行できる。
王様のところに連れて行けば、なんか牢屋みたいなところに入れてくれるだろう、多分。
まあ問題は、魔獣を呼び出したことをレジーが認めるかってことなんだけどね。
「ゴルさんと先生は……よかった、無事だ」
その魔獣の相手をしていたゴルさんと、先生。二人の安否が心配だ。そう思って、私は魔獣のいるところへと視線を向ける。
そこでは、倒れていく魔獣にとどめを刺している、二人の姿があった。
すごい、倒したんだ。私の攻撃なんかじゃたいしたダメージは与えられなかったのに。
「あっちも問題なし、か」
「じゃ、俺はこいつ連れてくから」
「うん。
……って、ちょっと待って!」
さりげない雰囲気で、ルランはレジーを連れて行こうとした。それに気付いて、寸前で止める。
あ、危ない危ない。なにをさらっと連れて行こうとしてるんだこいつは。
「私だって、その子に聞きたいことがあるんだよ」
「知るか」
「なっ……知るかってなんだよ! その子捕まえるの手伝っただろ!?」
「縛っただけで手伝いました感出されてもな」
「ぬぐぐ……」
ルランめ、痛いところをついてくるな……確かに私は、最後レジーを捕まえる以外なにもしてない。
で、でも! 話を聞く権利くらいはあると思うんだ!
……それに。ルランはこのまま去っていいのか?
「……ルリーちゃんには、会っていかないの?」
「……」
あんなことを言ってはいたけど……ルランは、ルリーちゃんのことを大切に思っているはずだ。人間と仲良くしようとしているルリーちゃんの考えを認められないだけで、ルリーちゃんを嫌いになったわけではない。
それは、これまで接してきてなんとなくわかった。
リーサの顔を見てレジーへの攻撃を止めたり。仲間のダークエルフに対する気持ちが強いんだ。
なのに、妹に対する気持ちが、ないわけない。
「……会わない。俺にその資格はない」
背を向けるルランは、首を振る。
あら、なんか、予想していた態度と違うな。以前、ルリーちゃんのしていることは意味のないことだ、みたいなことを言っていたし、またああいう厳しいことを言うのかと。
それが、資格はない……か。
「でも……そりゃ、ルランのしてきたことはいけないことだし、それをルリーちゃんが知ったら傷つくと思う。でも……でも……」
「……お前はどうして、そんなに俺とルリーを会わせたいんだ」
私へ振り向くルランは、理解できない、といった表情を浮かべている。どうしてそこまでするんだ、と。
なんか、やっとちゃんと会話してくれている気がする。
どうしてそこまでするのか……そんなの、決まっている。
「どうしてって、当たり前だよ。ルリーちゃんは友達なんだから。それに……」
「……それに?」
「……きょうだいなら、仲良くしなきゃ、でしょ?」
私はルリーちゃんの友達だ、ルリーが喜ぶことはしてあげたい。
ルランの行いをルリーちゃんは喜ばないだろうけど、少なくともお兄ちゃんが生きていることは喜ぶはずだ。
友達の喜ぶことをしたい。それに、きょうだいならば仲良くしなきゃ!
「……そうか」
「そうだよ!」
「お前は……兄か姉、もしくは弟か妹がいるのか?」
「へ?」
私に向き直り、ルランは問う。私にきょうだいがいるのか、と。
おかしなことを聞くものだ。私はずっと師匠と暮らしていたから、家族と呼べるのは師匠くらいのもの……あ、ルランは私の事情は知らないんだっけか。
だとしても、どうして私にきょうだいがいるか、なんて思ったんだろう。
「いないけど、どうして?」
「どうしてって……お前、兄弟って言ってるときのその顔……
……いや、なんでもない」
「?」
どこか、バツが悪そうにルランは顔をそらす。なんだなんだ?
なんか、これ以上聞いても答えてくれそうにないんだけど……顔が、なんだって? ブサイクだって言うなら殴っちゃうぞ?
……まあ、そんな感じじゃなさそうだな。
私の顔、どこか、変なんだろうか?
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