第226話 とりあえず捕まえよう
「よし、とりあえずランノーンを捕まえるか」
ルリーちゃん……いやダークエルフのこと。それに黒髪黒目のこと。聞きたいことは、たくさんある。黒髪黒目については、まあランノーンが知ってるって確証はないけど。
あと、ランノーンを捕まえれば、ランノーンが操っている魔獣は機能停止するかもしれない。
ルランは……余裕があったら捕まえて、その後来るであろうリーサに引き渡してしまえばいいかな。
リーサはルランを追っていて、追及が強くなっているからか最近ルランは"魔死事件"を起こしてないわけだし。
時間が経てば、リーサも来る可能性が高い……そのせい、だろうか。ルランの戦い方が激しく見えるのは。
人間相手への恨みはもちろんあるだろうけど……この場に来てしまうであろうリーサのことを考えて、戦いを早く終わらせようとしているのだとしたら……
「ま、聞けばわかるかっ」
とりあえず、このまま傍観しておく選択肢だけはないことは確かだ。
私は足を魔力強化して、その場から飛ぶ。何度か屋上を経由して、ルランとランノーンの戦いの場へ。
「よっと」
「! なにしに来た!」
着地し、二人を見る。私に気づいたルランは、チラリと私を見てから、吐き捨てるように言った。なんて冷たい言葉だろう。
私に構っている暇はないと言うように、それからすぐに視線を外し、ランノーンへと斬りかかる。
対してランノーンは、私の姿を見ても、薄く笑うのみで他の反応を見せない。
「なにって、一応あんたの手助けだけど」
「いらん! 魔獣でも相手にしていろ!」
「魔獣は、この国の兵士さんが対処してるし……」
それに……
私があっちに加勢して、魔獣を倒したら。余裕ができた兵士さんたちが、この二人に気づくかもしれない。
そうなれば、二人を捕まえるために兵士さんたちも加わるだろうし……ランノーンはともかく、ルランが捕まって王様に引き渡される、なんてことになったらあんまりよろしくない。
そりゃあ、"魔死事件"の犯人は然るべき裁きを受けさせるべきだとも思うけど……
それ以前に、ダークエルフは問答無用で処刑だと言っていた。そんな人たちに、ルリーちゃんのお兄ちゃんをむざむざ渡せない。
せめて、ルリーちゃんと……二人で、話をさせてあげたい。
「そういうわけで、私はあんたの手助けをするけど、あんたも捕まえるつもりだから」
「なにがどういうわけだ! 意味のわからないことを!」
私の考えていることをわざわざ伝えるつもりはないけど、まあルランからしたらわけわかんないだろう。手助けに来といて、捕まえるって言ってんだから。
ま、ルランがなんて言っても勝手にやるけどね。
私も参戦する、それも敵として……それを聞いたランノーンは……
「っひひ、おもしろいね」
不気味に、笑っていた。
「貴様の相手は、俺だ!」
そんなランノーンに、ルランは苛立ちを募らせていく。不気味に光る刀身は、まるで闇そのものだ。
普通の剣ではない。ちょっと鳥肌が立つくらいに、不気味……でも、ランノーンは涼しい顔で対峙している。
あんなに二人が接近していたら、私が手出しできない……もう、ルランもろともランノーンを攻撃してしまおうか?
「はぁあ!」
「さっきから剣を振り回してばかり……筋はいいけど、そんなんじゃ当たらないよ。舐めてる?」
「どっちが!」
こうして見ていると、ルランの剣技は相当なものだ。魔導剣士として、小さい頃から剣を習っていたというダルマスと同じ……いや、それ以上かも。
その剣技を楽々かわすあたり、ランノーンの動体視力もすさまじい。
このままじゃジリ貧だ。どちらの体力が尽きるのが先か、そうなってから割って入ってもいいんだろうけど……
「そこまでは、さすがに待てないよね……っと!」
私も参戦すべく、杖を魔力強化して強度を上げ、二人のところへと突っ込む。ランノーンの死角となる位置を狙い突っ込んだので、ルランからは丸見えだ。
一瞬、驚いた表情を浮かべたルランだけど、私に文句を言うことなく行動も止めない。
前はルラン、後ろは私が取り、このまま挟み撃ちの形で……!
「っとと、わぁ!?」
「!?」
だけど、杖を振るった直後、ランノーンの姿が消える。
杖は振るった後なので動きを止めることもできず、ランノーンを狙うつもりで振るったのでバランスを崩してしまう。そしてそれは、ルランも同じ。
結果的に、私の杖とルランの剣とがぶつかり合うことになった。
……その、瞬間。
「……!?」
ゾワッ……と嫌な感じがして、私はすぐに後退。距離を取る。
なんだろう、今の違和感……ルランの剣に触れた瞬間、なんだか私の魔力が……
「あぁー、やっぱりその剣、触れた相手の魔力を吸い取るんだ」
「!」
後ろから、明るい声。振り向くとそこには、消えたはずのランノーンがいた。
警戒しつつ振り向くと、ニタニタと笑みを浮かべていた。とっさに構えるけど、攻撃してくるつもりはない……?
「どういうつもり……?」
「別に、アンタとやりあうつもりはないんだよね〜」
ケラケラと、笑いながら私と戦うつもりはない、なんて言い出した。さっき、私のお腹に蹴りを入れておいてよく言う……!
まあ、仕掛けたのは私からなんだけど……
ていうか、やりあうつもりがないなんて、信じられるかっての……!
「ちっ、ちょこまかと!」
「おーこわ」
……ルランの剣は、触れた者の魔力を吸い取る。ランノーンはそう言った。だからか、あの違和感は。
魔力を吸い取る……ピア先輩の作った魔導具に似てるな。ただ、やっぱり魔道具とはちょっと違う気もする。
私の知らない、ダークエルフの……剣……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます