第225話 いろんな戦い方
これ以上被害が広がる前に、食い止めないと!
まずは、被害を出している元を絶たないと。今みたいに、被害に遭いそうな人を助けてたら、その間に別のところで被害が出てしまう!
誰かが怪我をしても、回復魔術で治せばいい。人死にさえ出なければ、どうとでもなる。だから、人死にを出さないためにも……
「とま、れぇええええ!」
「オォ!!」
私は、足を魔力強化したまま、魔獣へと突っ込み……巨体に、飛び蹴りをおみまいする。
正直、通用するかどうか半信半疑だったけど、ちゃんと効いたのかビームは止まった。
けれど、今の一瞬だけでもかなりの被害が出てしまった。魔獣一体で、これだけの被害が……
「いたぞ、あいつだ!」
「あれが、魔獣か!」
「ん?」
近くの建物の屋上に着地した私は、下から聞こえてきた声にそちらを見る。すると、魔獣を前に何十人もの人が構えていた。
あの格好……王国の、兵士さんか。
そうか……そうだよな、町中で魔獣が暴れているんだから、そりゃ兵士も動くよな。
よかった、これでちょっとは楽になるかもしれない。
「先ほど言った通り、B班は周囲の被害確認及び人命救助! A班は魔獣を倒す!」
「はっ!」
兵士たちの先頭に立っている、年配のおじさんがそれぞれ指示を出し、他の兵士さんはそれに応じている。どうやらあのおじさんが、兵士たちを纏めているリーダー的な人みたいだ。
そういえば、魔導士の戦いってのはだいたいわかるけど、兵士さんの戦いってのはよく知らないなぁ。
魔導士はもちろん近接戦闘型の人もいるけど、大抵は遠距離からの後方支援的なタイプが多い。ダルマスみたいに、魔導剣士ってやつならまた別なんだろうけど。
それとも、あの人たちみんな剣持ってるし、魔導剣士ってやつなのかも。……なにを持って魔導剣士と呼ぶのかよくわかってない。
「てりゃあ!」
「こいつ、固い!」
魔力を剣に纏わせ、魔獣の体へと斬りつける。魔力を使っているため、魔導士といえば魔導士だろうけど……
みんな杖を持っていないし、やっぱり魔導士としてのタイプが違うのかも。
だけど、今魔獣に向かっているA班すべてが、魔獣に剣で突撃しているわけではない。後方に待機している人も数人いる。
それは兵士さんとは違って、黒いローブのようなものを身に着けていた。そして、杖を取り出した。
「私たちは上を!」
「おう!」
兵士さんたちは地上からの攻撃、つまり巨体の魔獣相手には足など下半身への攻撃になる。
なので、攻撃する位置範囲が広い魔導士は、上……人の手じゃ届かない、上半身へと魔法を放つ。
魔力の込められた攻撃を、体のあちこちへと受け、たまらず魔獣はよろめく。
「おぉ……」
私はたまらず、声を漏らしていた。思えば、誰かの本格的な戦闘を見るのは、すごく久しぶりかもしれない。
師匠が、モンスターや魔物、魔獣相手に戦ってきたのは何度も見てきた。それ以外だと……学園内のクラス同士での試合や、ダンジョンでの戦闘。
本格的な戦闘……死闘と呼べるものは、見たことがない気がする。
「これなら、魔獣も……」
魔獣は本来、何人も集まってチームワークを纏めてようやく、倒せるような相手だ。一人で倒せる人なんて、限られてくる。
魔獣の厄介なのは、体の固さや攻撃もだけど、周りへの被害だ。この魔獣、オミクロンのように、町中ではちょっと暴れただけで被害は大だ。
現に私は、二人を助けるために意識を割いた結果、町中への被害は大きくなってしまった。
一人じゃ、対処が難しい。魔獣を相手取れても、周りに被害を出されてはこっちの負けみたいなもんだから。
「これは、兵士さんたちに任せておいたほうがいいのかな」
私が魔獣を相手していたのは、他に戦える人がいなかったからだし……増援が来た以上、私が魔獣に固執する必要はないよな。
もちろん、兵士さんが劣勢になったら手は貸すけど、今は……ルランと、ランノーン。あの二人、いったいどこに。
魔獣に人々の注目がいっているとはいえ、ルランだって人目のある町中で戦いたくはないだろう。
と、なると……
「いた!」
少し離れた、建物の屋上。そこに、ルランとランノーンがいた。
なるほど、あそこならば地上の人からは見えないな。普段人は建物の屋上なんて見ないし、魔獣の存在がさらに注意をそらしている。
さて、そんな二人だけど……ルランは手に持った剣で、ランノーンは素手でそれぞれ対峙している。一方的にルランが斬りかかる形で、戦況は動いているようだ。
それをランノーンは、涼しい顔で避けている。まるで、どこに攻撃が来るのかわかっているかのように。
「私、どうしよう……」
ここなら、魔獣サイドとルランサイドをいっぺんに見ることができる。魔獣の方は、兵士さんに任せるとしたら、私はルランとランノーンの戦いに乱入するべきなのか。
乱入したとして、私はどっちに加勢すれば?
ルランは、"魔死事件"の犯人だけど、ルランの素性がバレるとルリーちゃんの正体がバレるかもしれない。ランノーンは、ルリーちゃんたちの故郷を滅ぼした奴の仲間だ。
……それに、私と同じ、黒髪黒目の……
「あいつを捕まえれば、なにかわかるのかな」
この世界では、珍しいとされる黒髪黒目。師匠は、長寿のエルフでありながら私以外にこの特徴の人間を見たことはないらしい。
私は、魔導学園に入ってからというもの、その特徴の人物と関わることが多かった。ルリーちゃんの故郷を滅ぼしたエレガとジェラは一方的にだけど……そいつらの仲間、ランノーン。変な冒険者に絡まれていた女の子ビジーちゃん。
それに……同じ学年の、ヨル。
ヨルは私のことを、テンセイシャがどうとかイセカイがなんだとか訳のわからないことを言っていたけど……
この髪も、目も……なんか、ヨルの言っていたことと、関係があったり、するのかな。
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