第215話 引き続きの検査
笑うおじいちゃん……いや、王様さえもちょっと笑いそうになってないか? ゴルさんなんて思われてるんだよ……
ただ、それは別にバカにしているから、という笑いではない。微笑ましいものを見るときの笑い方だ。
「ゴルさんって、なんか寂しい子供時代過ごしてそう」
「! おまっ……出てくる言葉がそれか!」
「いやいや、なんていうか素のゴルさんが知れて嬉しいんだって。
あと、さっきのは嬉しかったよ」
まあゴルさんの悲しい事情は置いておいても、私のことを信じてくれたんだということに変わりはない。
ゴルさんは不服そうな顔をしているけど、とりあえずそれ以上なにか言うことはなかった。
ゴルさんも、ノマちゃんも私を信じてくれている。ただ、それだけでこのおじいちゃんを説得することは……
「ゴルドーラ様がそこまでおっしゃるなら、これ以上突き詰めることはやめにしましょう」
「え、ホントに?」
説得することはできない、と思っていたけど。意外にもあっさりと、これ以上の追求をやめるみたいだ。
ただ、その言い方は私を容疑者から外した、というわけではなさそうだ。
まあ、あのままだと下手したら拘束されていたわけだし、これだけでも良かったと言うべきか。
「では、このまま帰ってよろしいんですの?」
「元々、エランちゃんには"魔死事件"調査の依頼と、ついでにノマちゃんと会わせてあげようって理由で呼んだんだし、用は済んだからねぇ。
あ、ノマちゃんは検査があるからもうしばらくはマーに付き合ってもらうよぉーん」
「そんなぁ!?」
私たちと一緒に帰れる、と思っていたらしいノマちゃんは、検査のためもう少しここにいる、と言われて心底がっかりしている。
私も、実はそうだ。一緒に帰れると思っていたから……
でも、ノマちゃんの体になにが起こっているか、起こるかわからない以上、安心ゆくまで検査をしていってもらいたい。
「話が脱線したようだが……エラン・フィールドよ。"魔死事件"調査の件、引き受けてくれるか?」
「……ん、私で役に立てるなら」
事件の調査……か。具体的になにをしろと言うわけではない。だけど、今後また同じ事件が起きたら、きっと呼ばれることになるんだろう。
先生は、私が事件に関わるのは反対っぽかったけど、今はなにも言わない。
私の決めたことを、尊重してくれてるってことかな。
「そうか、ありがとう」
「や、やめてくださいよぉ」
王様からお礼を言われるなんて、なんか変なことが起こりそうで怖いよ。
頼み事を聞いてもらったのだからお礼を言う、というのは、とても立派なことだとは思うけどさ。
その後、帰りたい帰りたいとわめくノマちゃんをなんとか落ち着かせ、私たちは城を出た。長いようで、短い滞在だったな。
「ゴルさん、いいの? 久しぶりにお父さんと会ったのに。別に私たちに合わせて帰らなくても」
「……あのなぁ、相手は国王陛下だぞ。親とか子供とか関係ない、そんな気安く話せるような相手じゃないんだ」
「そんなもんかねぇ」
私には、親がいないからわからないけど……親ってのは、もっとこう気安く話しかけられる関係じゃないのだろうか。
私にとっては、師匠が親……みたいなものなのだろうか。見た目はお父さんってよりお兄さんって感じだったけど。
ただ、師匠よりも私にとってはタリアさんが一番親っぽいかな。親ってこんな感じなのかなって、ぼんやりと思ったことがある。
初めて見たときは肝っ玉母さんっぽかったし、今でもそう思っているけど。
だから、王族での親子関係ってのが、私にはいまいちピンとこない。
「人の家の事情だ。お前がそんな考えることではない」
「うん……」
「それよりも、ノマ・エーテンがひとまずは無事なようで、なによりだ」
あんまり家の話はしたくないのか、なんだかあからさまに話の流れを変えられたなぁ。まあ私も、王族なんてものに好き好んで関わろうとは思わないけどさ。
ゴルさんの言うように、ノマちゃんは無事で本当によかった。今のところは、って言葉をつけたほうがいいのかもしれないけど。
ただ、本人も元気そうだった心配はいらないだろう。
近いうちに、きっと元気で帰ってくるはずだ。
「ノマちゃんが帰ってくるまでには、私たちの部屋も入れるようになってるといいんだけど……」
「……フィールド、お前は事件があった部屋で普通に寝泊まりができるのか?」
先生の指摘に、私はなにも言えなくなる。
今は、事件現場として調べられている私たちの部屋。調査が終わったら……また、あの部屋で暮らしていけるのだろうか? 事件が起こった、あの部屋で。
……難しいかもしれない。無事だったとはいえ、もしかしたらノマちゃんは死んでいたかもしれない。それほどの被害が出た部屋で、また暮らせるかと言われると……
「無理かも……」
「……学園側としても、部屋については考えている。もう少し待ってくれ」
今私は、ルリーちゃんとナタリアちゃんの部屋にお邪魔している。もし私が望めば、この先も三人で暮らしてくれるとは思うけど……
さすがにノマちゃんまでは定員オーバーだし、ノマちゃんも別の部屋にお邪魔するといっても……
今さら、ノマちゃんと別々の部屋になる、っていうのもなぁ。
「……お前が考えても仕方ない。今は、先生たちの決定を待て」
「はーい」
私がいくら考えても、答えは出ない、か……それもその通りなので、一旦考えるのはやめる。
せっかく王宮に行くために外出したんだから、ちょっといろいろ見ていきたい気もするけど……
この二人と一緒じゃ、無駄道せずに帰るぞって言われそう。
「? どうした」
「ううん、なんでも……」
ない……そう、言おうとしたとき。突然、風が吹いた。
ぶわっ、と髪がなびく……目の前に、誰かがいた。どこから現れたのか。空から、降ってきたのだろうか。
地面に着地したようにかがみ、俯いた表情は見えない。
でも、わかることがある……
……きれいな銀色の髪が、私の目の前でなびいていた。
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