第210話 ダークエルフを庇うわけ
「……ダーク、エルフ……」
世間を騒がせていた、"魔死事件"……被害にあった者はみんな同じような現象だ。その人の持つ魔力が暴走して体内をぐちゃぐちゃに傷つけ……死に、至る。
被害者は"魔死者"と呼ばれ、死因も犯人も……なにが起こって死んだか、以外のなにもかもがわからず、人々を恐怖させた事件。
その犯人は、ダークエルフ。そう聞いて、ダークエルフの名をつぶやいたのは、いったい誰だっただろう。
「ダークエルフ……じ、実在しているんですの? エルフではなく?」
「うん」
まず、驚いた声を上げるのはノマちゃんだ。その驚いた様子から、ルリーちゃんの正体がダークエルフではないことがわかる。
あと、ダークエルフってやつは当たり前のようにいる、とは思われていないということも。
ダルマスは入学試験時、ルリーちゃんをダークエルフだからっていじめていたけど。あれは、ルリーちゃんが不注意で正体がバレてしまったのが原因だ。
そうじゃなければ、これだけ一緒にいてもルリーちゃんの正体がバレることはないんだから。
「……確かなんだろうな?」
「はい」
確認するように、先生は聞いてくる。それは、私の言葉が信じられない、というよりも、本当の意味での確認だ。
ダークエルフが本当に存在し、そしてこんな大きな事件を起こしていたのか……と。
それは確かだ。この目で確認し、話もしたし……先生も、私がこの場で嘘をつくなんて、考えていない。
「……」
「ご、ごめんなさい……」
ゴルさんからは無言の視線を向けられる。なんで誰にも言わなかったのか、せめて自分には話してほしかった、といった視線だ。
正直、これに関しては言い訳のしようもない。
「つまり、エラン・フィールド……キミは"魔死事件"の犯人と出会い、その正体がダークエルフだと知った。
しかし、他の者の反応や、犯人の正体が私の耳に入ってきていない……これは、キミが故意に犯人の正体を伏せていた、ということでいいかな?」
「……はい」
いろいろとごちゃごちゃしてしまったけど……つまりは、王様の言う通りだ。
私は事件の犯人を知って、知った上で黙っていた……これは、どうやっても事実だ。
そして、黙っていた理由は……
「では、なぜその事実を黙っていた?」
「……それは、言えません」
当然、それも聞かれるよな……でも、言えない。友達に、ダークエルフがいるから。
犯人は友達のお兄ちゃんで、犯人が捕まれば友達がダークエルフだと正体を隠していたこともバレてしまうから……とは、言えない。
考えてみれば、黙っていた事実がある以上、私がダークエルフを庇うなにかしらの理由がある、と思われてもおかしくはないけど……
「言えない、とは……」
「……今はまだ、言えないです。
でも、今回ノマちゃんを襲ったのは、ダークエルフじゃありません」
「!?」
このままダークエルフについて追求されるのはまずい。そう思った私は、口早に別の話題に切り替える。
あからさまではなく、それでいてスムーズに話を転換できる内容……それが、ノマちゃんを襲った犯人の存在。
それは、ダークエルフとは違う。ダークエルフではない別の誰かの犯行によるもの。
それを聞いて、みんなは……
「なにを、言っているんだ?」
当然、困惑している。それはそうだろう。
今までなんの手がかりも掴めなかった事件の犯人がダークエルフだと伝えられて。かと思えば、今回ノマちゃんを襲ったのはダークエルフではない別人だと伝えられて。
これで驚かないほうが、どうかしている。
「待て待て待て……エラン、お前の言っていることを素直に信じられない」
「そうだねぇ……それに、ノマちゃんを襲った犯人がダークエルフじゃないとして。
エランちゃんは、それが誰だがわかっているの?」
「……それは、わからないけど」
問題は、そこだ。ノマちゃんを襲ったのがダークエルフ、ルランじゃないとわかっても、ならば本当の犯人は誰なのか。
結局、そこがわからないから手詰まりだ。
「……つまり、あなたは世間で多数の死者を出した"魔死事件"の犯人が正体がわかっているのに黙っていた。だというのに、今回ご友人が被害にあったから黙っていた情報を明かした……
そういうことですね?」
「っ……」
痛いところをついてくるのは、王様の側に立っている一人の老人。物腰柔らかそうなおじいちゃんだけど、その眼光は鋭い。
私を、睨みつけて……見定めているようだ。
その人は、ゆっくりと私に近づいてくる。
「あなたの話には、信憑性にかけるところが多い……多すぎて、まるでこう考えてしまうのですよ。
ダークエルフに罪を押し付けているのではないか、と」
「……え?」
背の高いおじいちゃんは、私の前まで来て、私を見下ろしながら……
予想もしなかったことを、言った。
ダークエルフに罪を押し付けている? いや、なんだそれ……押し付けているって、そんな言い方、まるで……
「ジャスミル、なにを……」
「陛下、勝手な物言いどうかお許しください。
ですが、私は……無礼を承知で申し上げるなら、この者が、
「……私が?」
まるで、私が本当の犯人であるかのような……いや、実際にそうではないかと、真正面から言われたのだ。
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